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仮面セイバー  作者: おちぇ。
かくして少年は旅立つ
9/65

転身

 いったい何が起こったというのか。

 僕は予想していた手応えとは違う感触に、混乱した。

 混乱した僕は、防御すら許されず腹部に衝撃を受けて後方へ文字通り吹っ飛んだ。

 背中に強い衝撃を受けて、何かが突き刺さる感触があった。

 祭壇だ。あの骨だらけの祭壇に僕の体はたたきつけられ、その半分以上を崩していた。

唐突に喉の奥から血が込み上げてきて、むせかえる。内臓をやられたのだろう。


 だが、自分の体へのダメージよりも、何が起こったのか分からずしばし呆然とする。

 視界の奥で、ゴブリンキングに駆け寄る数匹の小さな影を見た。おそらく配下のゴブリンたちだ。ギャアギャアと叫ぶその子分たちに、ゴブリンキングは拳を振りぬいてまとめて吹きとばす。

僕の右手に握られた剣は根元から折れていた。もともと、いつ壊れてもおかしくはなかったが、あのタイミングで折れるはずがない。


「……投石、か?」


 どこにいたか知らないが、あのゴブリンどもはこの戦いを見ていたのだろう。そして、自分たちの王の不利を見て、加勢したのだと、僕は直感で判断した。まあ、真偽のほどはどうでもいい。

 結果は、僕の奥の手は通じず、武器も折れ、絶体絶命だということだけだ。


 ゴブリンキングが近づいてくるが、僕はもう立ち上がる気力もなかった。

 覗き込むように目線を合わせてくるゴブリンキングを、僕は目をそらさず見ていた。

 その目は敵に向けられるものではなく、憐憫の情が浮かんでいた。


「ジャマ、ハイッタ、ザンネンダ」


 流暢とは言えないが、ゴブリンキングの口が紡いだのは人の言葉だった。高位のモンスターにはそういうものもいると聞いたことがある。不思議と、さして驚きはしなかった。


「サイゴ、イチゲキ、ミゴト」


 どうやら、褒められているようだ。最後に褒められたのはいつのことだったろうか。まさか、モンスターに称賛を送られる日がこようとは思いもしなかった。


「ライセ、ワガシンカ、キタイスル」


 来世ではゴブリンの王の臣下か。考えるだけでぞっとするが、反論する元気はない。

 僕の戦い方を学んだこのゴブリンキングは、どれだけ強くなるのだろう。

ああ、あれほど意気込んでおいて、結局自分の村を守ることはできなかった。

モック爺さんならこのゴブリンキングに勝てるだろうか。もし、自分の技をこのゴブリンキングが使うのを目にしたら、怒られちゃうかな。


「デハ、サラバ」


 ゴブリンキングが立ち上がり、大剣を握りしめた。

 くそっ、くそっ、悔しい。

 負けたことにではない。モンスターでありながら武人としての振舞いあるゴブリンキングに認められたのだから、むしろ僕には過ぎたことだ。


 ただ、村を、育ての親を、守れなかったことが悔しい。

 人が聞けば、冒険者になりたての若造が頭に乗っていると笑うだろう。だが、それでも思うのだ。

もっと僕に力があれば、なんでも守れただろうに。


 振り上げられた大剣が、断頭台のように振り下ろされる。

 ああ、僕に、力が、あれば。


 そして、視界が真っ白になった。



〇 ● 〇 ● 〇 ●




 唐突な視界の変化は、僕の目を眩ませる。

 まるで紙芝居が切り替わったかのように、暗闇の中から真っ白な空間へと引きずりだされる。

 見渡しても、何もない。ただ、真っ白な大地と、真っ白な空がどこまでも広がっていた。

 ここは天国かはたまた地獄の入り口か。

 僕は自分は死んだのだと理解しかけた。


「よく来たな、ダリオンよ」


 だから、突然目の前に現れ、話しかけてきたその男は天使か何かだと思った。

 とても大柄で、ひげ面で、野太い声で、でも優しい笑顔をした男。

 どこかで見たことがある気もするし、あったことがない気もする、それでいてあたたかな心にさせる不思議な感じがした。


「汝、力が欲しいか」


 唐突な問答だ。

 ち、ちから?

 死んでしまったというのに、力が欲しいも何もない。

 僕が黙ったままでいると、急に男が笑い始めた。そして、ずかずかと距離を詰めてくる。


「おいおい、何か言ってくれないと恥ずかしいだろう。いやぁ、俺、一度でいいからこういうの言ってみたかったんだ」


 そういって僕の背中をバシバシとたたいてくる。いたた。


「全く、無茶するよ、お前。ゴブリンキングだなんて成りたてのお前が敵うわけがないってのによう」


 その通りだ。そして、事実全く歯が立たなかった。

 僕がそれなりに戦えているように見えたのは、ゴブリンキングが僕を訓練の相手として生かしておこうとする意図があったからにすぎない。本気を出せば、最初の一撃で剣ごと体を真っ二つにされて終わりだっただろう。


「だが、その意気や良し!!」


 そういって、男はまたも大笑いした。豪快な笑い方だった。


「自分のためじゃない、人のために命を懸ける。それが、敵わぬ戦いだったとしても、だ。それこそが冒険者ってもんだ、なぁ!!」


 その誉め言葉は、僕の心に深くしみ込んだ。モック爺さんに褒められた時より、ゴブリンキングの賛辞の言葉より、その言葉は温かく僕の心にしみ込んだのだ。


「もう一度聞くぞ、ダリオン。力が欲しいか!」


 ――ああ、欲しい。欲しいとも。


「愛するものを守れるだけの力が欲しいか!」


 ――ほしい、欲しいよ。力が欲しい!!


「ならば叫べ!! 生まれ変われ!! その高潔な魂に見合うだけの力をその身に宿せ!!」


 ――叫ぶ? 何を? 何を叫べばいいんだ?


「案ずるな、お前はもう知っている。死ぬ前の俺はついぞ使えなかった、この仮面の真の力。何も残してやれなかった俺から、お前に託せる最後の贈り物だ」


――ああ、そうか、あなたは。


「涙なんぞ要らん。俺は、お前とともにいるぞ、ダリオン」


 ――わかった、見ててね、僕の勇姿!


「ああ、ずーっと見ているぞ。達者でな、俺の、愛する――」


 彼が最後に何を呟いたのか、もはや分からない。だが、僕は叫ぶ。

 生きるために、守るために、神の力をその身に宿す魂の咆哮。


 ――   転    身    !!!!!


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