表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
仮面セイバー  作者: おちぇ。
その名は仮面セイバー
55/65

背中を預けあって

 細い蜘蛛の脚でも、それが巨大な蜘蛛の者であればそこそこの太さにはなる。

 そんなものがぶんぶんと自分の頭上や体の脇をかすめていくのだからたまったものではない。

 戦場を駆け抜けつつ、僕はアラクネの腕に刺したまま放置していた自分の剣を探し求めた。アラクネがどこかに置いてきたはずだが、先ほどの『螺旋風刃』でどこかへ吹っ飛んでしまったかもしれない。

 巨大蜘蛛の攻撃を避けつつ探し回ると、案の定広場の端っこで木に突き刺さった状態のものを発見した。


 慌てて引き抜き、背後から迫ってきていた蜘蛛の脚攻撃に合わせて振りぬく。

 重々しい衝撃と共に、脚が逸れていくのが分かった。


「せいっ!」


 メルゼスが攻撃の隙をついて飛び掛かるが、八つの目に死角はなく、ベルゲイの身体がその補助をする。


射よ(ノーツ)


 ベルゲイの口が呪文を唱えると、漆黒の魔力が幾本もの矢となって空中のメルゼスを射抜かんと放たれる。


「うおっ! とっとっと!」


 身を捩じり、槍で弾き、しかし最後の一本をよけきれずわき腹を刺されたメルゼスがバランスを崩して落下していく。そこへ追撃をしていく巨大蜘蛛。

 そうはさせるかと、今度はこちらがメルゼスの援護をすべく、蜘蛛の脚の節に向かって剣を思い切り振りかぶり、斬りつけた。


 がぎぃっ、という嫌な音がして手ごたえが軽くなる。


「うっそだろおい!」


 先の無くなった柄だけの剣を見て、僕は暴れ出したくなるような衝動を抑え込んで、心の中でありったけの悪態をついた。

 肝心な時に武器が壊れてしまうのは一体何なんだろうか。ゴブリンキングの時もそうだった。いい加減、武器の性能というやつを考えた方がいいのではないかとおも思ったが、そもそも身の丈に合わない敵との戦闘が多すぎるのだ。結論、運命が悪い。


 巨大蜘蛛は何とかこちらを向いてはくれたものの、ダメージらしいものは見られない。


「ちょ、ちょっと、師匠ぉー! どうすればいいんですかこれぇ!」


「オーブさん、まずい、これほんと、おわわわわ!」


「ええい、仮にも一端の冒険者だろ! つべこべ抜かすな! 今考える!」


 オーブは戦闘に参加していない。アラクネだけではない、未だ意識のないハローに幼体など、背後で守る者が多いからだ。

とはいえ、何もしていないわけではない。遠距離から攻撃、防御、補助などの各種魔法の援護はしてくれている。それでもあの巨大蜘蛛――“メタラクネ”に押されているのは単純に自力の差がありすぎるのだろう。

アラクネの時のようにごり押しで勝てる状況ではない。何か手を打つ必要があるのだが、それはオーブに任せるしかあるまい。


「ダイコン君、右だ!」


「うわっとぉ! 僕の名前はダリオンっ、ねぇー!」


 右側を悪意ある魔力の塊が通り過ぎていく。属性も付けずに純粋な魔力の状態で行使すると非常に不安定と聞いたことがあるのだが、そんなものは量で補うと言わんばかりにお構いなしの攻撃である。


 しばしの攻防の末、メタラクネの攻勢が落ち着きを見せた頃合いに二人そろって距離を置く。

 理由は分からないが、どうやらあの巨体を持てあましているようだ。馴染んでいない、という印象が強い。それでも十分脅威なのだが。


 剣が無いことは僕にとって非常に不利である。なぜって、剣を用いた戦い方をひたすらに磨いてきたからだ。一先ず、地面に転がっていた枝を一振り握りしめ、武器とする。


「やっぱり、弱点ぽいっていったらあそこだよねー」


 槍の先でメルゼスが指すのは、やはりと言うべきか、蜘蛛の身体から生えたベルゲイの上半身である。口をパクパクさせてうわ言のように何かを呟きながら、幽鬼のように力なくこちらを見ている。

 立ち回りを見ているとわかる。メルゼスは割とドライなタイプ、自分の為すべきことと被害とを天秤にかけて即座に判断が下せるタイプだ。例えばその弱点が“人”であろうとも、そうと決めれば躊躇わない。確実に殺すだろう。


 僕は即座には返答が出来なかった。

 僕の感情云々を置き去りにして考えても、あれを放置はできない。いずれ近隣に大規模な被害を生むだろう。馴染んでいない今だからこそ叩いておく必要があると判断できる。

 そして確かに、そのためにはベルゲイを狙うのが見るからに手っ取り早いように思えるし、もし弱点じゃなかったとしたら別の手段を考えればいい。相手が未知数の存在であるからこそ、試行錯誤を繰り返すべきであり、それが合理的だ。


 だけれども、僕の強化された視覚がベルゲイの口元を見てしまった。


(たすけてくれ)


 本当にそう言ったのかは分からない。決して聞こえる事のない距離だ。だけど、その可能性は僕の決断を後押しするには十分なものだった。


「ダメだ、彼は、ベルゲイは殺さない」


「……どうして?」


 メルゼスの目には剣呑な雰囲気が宿った。彼を説き伏せなければ、僕たちは決裂してバラバラにメタラクネと相対することになるだろう。

 僕は人と話すことが苦手だ。だって今までそんな経験なかったから。だから、駆け引きだとかそういうことは出来ない。出来ないならばどうするか。


「僕が嫌だからだ。彼は……助けてくれって、言った。その彼を見殺しにするのは、僕の心が許さない。だから、殺さない」


 もう本心を曝け出すしか方法はなかった。

 笑われて一蹴されるか、怒りを買ってしまうか、どちらでもいい。何も言わずに、相手に迎合するよりはよっぽどだ。

 結果として、メルゼスはどちらも選ばなかった。しばらくの沈黙の後、にこりと笑ったのだ。


「君、僕の同僚にそっくりだ。今後紹介するよ」


「あ、ああ、そう、ありがとう」


 その言葉の真意を読み取るには、僕はまだ人とのコミュニケーションスキルは育っていない。


「じゃあ、あれは殺さないとして、僕らに出来る事はやっぱり付かず離れずの牽制だ。本格的な対処はオーブさんに任せよう」


 ベルゲイを狙わないとなると、確かにその通りだ。

 だけど、本当にそれだけだろうか。


「……もう一つ、試してみたいことがあるんだけど、協力してもらえますか?」


 僕がそう提案をしたのと時を同じくして、再びメタラクネの巨体が動いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ