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仮面セイバー  作者: おちぇ。
その名は仮面セイバー
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新たな転身

 刹那の夢を見ていた気がする。

 ぼーっとしていた頭は、今ではすっきりして、己のやるべきことを認識する。


 アラクネを倒す。

 隙をついて逃げるとか、やり過ごすとか、そういうことは望まない。


 無謀な戦いを挑み、語り継がれることが目的か?

 違う。

 違う違う違う。


 僕が守りたいものを守れる英雄になりたいのだ。

 初めての友達を守れなくて、何が英雄か。

 力を出し惜しみしている場合ではない。今この時が、切り札の切りどころだ。


(いま、助ける!)


 お互いに大ぶりの一撃をぶつけ合って、弾かれたように距離をとる。

 アラクネの顔は上気し、頬が朱に染まっている。とろんとした潤んだ瞳には抑えきれない欲情が溢れていた。しっとりと艶めく唇を、真っ赤な舌がチロリと舐めた。


「うふふ、楽しい時間はすぐに過ぎてしまうものですねぇ。でも、そろそろいいかしら」


「奇遇ですね、僕もそろそろ帰りたい頃だと思っていました」


 不遜な物言いに、アラクネの眉根が寄る。


「すこし調子づかせたかしら? まさかまだ生きて帰れるとでも?」


「そう願っていますよ、蜘蛛の女王よ……何故なら、あなたには一点だけ弱みがある」


「……なにかしら?」


「ダンジョンの外はお辛いようですね?」


 その言葉に、アラクネの目が見開かれた。


 ずっと不思議に思っていた。

 なぜこんなところにアラクネが巣を張っているのか。

 モンスターはもともとダンジョンに巣くうもの。いかに上級モンスターとてその法則からは逃れられない。

 おそらくこのアラクネは、元居たダンジョンから理由あって出てこざるを得なかったのだ。この森がダンジョン化した気配がない以上、他所から来たものと考えるのが普通だ。

その理由まではわからないが、おそらく先ほどの魔人が絡んでいる。


 ダンジョンとは簡単に言えば高濃度魔力地帯だ。世界の壁に穿たれた次元の亀裂の向こうから漏れ出た魔力により変質させられた地帯をダンジョンと呼ぶ。

 モンスターたちはダンジョンに満ちる魔力を吸って成長し、その命を長らえる。


 無論、ダンジョンでないところでもモンスターは生きることができる。このアラクネが良い例だ。

 だが、供給される魔力は格段に下がる。


 魔力を使い切れば魔物は死ぬ。

 オーブやメルゼスが言っていた“空腹”とはそういう意味だったのだ。

アラクネのように高位のモンスターであればすぐに死ぬことはない。

でも、何度か斬りあってよくわかる。手加減をしているにしろ、ゴブリンキングほどの脅威を感じない。おそらく、上級冒険者が一人でも十分に狩れる程度には弱い。

でなければ、いかに仮面の恩恵があるとはいえ僕ごときが斬りあえるものか。


「残念だわ、あなたのような優秀な子を殺さねばならないなんて」


 アラクネの目にようやく明確な殺意が宿った。僕の発言が彼女の琴線のどこかに触れてしまったようだ。

 素直に怖いと思うし、心臓が高鳴っていく。


「ええ、殺されるでしょうね。今の僕じゃああなたには到底敵わない」


「あら? 威勢のいい態度を見せている割に、あっさりと認めるのね」


「今の僕の実力と、目標への距離が分かった、それだけでも十分な収穫だ。だけど、死ぬわけにはいかない」


 僕は手に持った剣を目の前の地面に突き刺した。


「だから、切り札を使わせてもらう!」


 僕は剣を地面に突き刺し、両腕を空ける。


 魔力は十分。

 体力はそこそこ。

 魔法陣はもう、僕の頭の中にあるから大丈夫だ。


 足を少し開き、膝を少しだけ曲げ重心を落とす。この方が構えを取りやすいからである。

 両腕を前に突き出して交差させる。そのまま体の前で円を描くように素早く両腕を回す。

 左の指先が天を、右の指先が地を指した時点で、左手を腰に据えるように引き、右手は正中線より左側、身体の前に勢いよく突き出す。


「転身!!!」


 真っ黒な力の奔流が、僕の全身を包み込んだ。


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