再びの夢
ふと気づくと、真っ白な空間に立っていた。
先ほどまで、アラクネと戦っていたはずだと言うのに、僕はそれに違和感を覚えぬまま冷静にこの状況を認識していた。
つい最近もここに来た覚えがある。
いつだったか。ああ、そうだ、あの小鬼の王と戦った時以来だ。
夢なのだろうか。起きていた時はさっぱりここに来たことは思い出せなかったのに。
「なぁんだ、もう来ちまったのか」
あの懐かしい男の声がする。振り返ると、前にも会った髭面の偉丈夫が立っていた。前と違うのは、その横に一人の小柄な女性が立っていることか。
綺麗な人だな、と素直に思う。深い翠色に染まる長い髪が艶やかに光り、少し垂れ気味な目が優し気な印象を与えてくれる。魔法使いが良く切るローブを纏い、その手には大きい木の杖が握られている。
「あら、来てくれてうれしいのではなくて?」
その女性はしっとりとした優しい表情で笑う。
「まあ、そうだけどよぅ」
男が照れたように笑う。
ここはどこなのだろうか。
前に来たときは余りにも状況が分からなくて――
でも、確か、そう、ここであの力を授かったんだ。
「あの力は、今は使えねぇよ」
男が告げたその内容を、僕は瞬時に理解した。
ゴブリンキングを圧倒したあの絶大な白い鎧、あれはあまりにも過ぎた力だ。悪を滅する聖なる光の御使いは、あの時だけの一瞬の輝き。
でも、それじゃあだめだ。
それじゃあ、あの子を救えない。
「はは、力が欲しいか? 欲しがりだなぁ、お前は」
男の問いに答える。
ああ、欲しい。
あの子が守れるだけの力が欲しい。
「ダリオン、その選択はあなたの運命を捻じ曲げてしまうかもしれない。ただの冒険者として、普通の暮らしが出来る可能性をつぶしてしまうかもしれない」
女の声には優しさがあった。心から僕を愛して、行く末を憂いて、選択を信じてくれる意思がある。
「世界があなたに終わらぬ戦いを望むかもしれない。傷ついて、倒れて、なお戦わなければいけない時が来るかもしれない。それでも、あなたは力が欲しい?」
ああ、そうだとも。
例え苛烈な運命の果てに戦場の泥にまみれようと、敵の刃にこの身引き裂かれようと、僕には成し遂げたいことがある。
かの神話の英雄のように、愛すべき者の為に命を捧げた両親のように、僕には戦う理由がある。
「ほぅら、見ろ。やっぱり俺の言う通りだろう」
「……はぁ、一体誰に似たのやら」
女が呆れ顔で杖を振ると、虚空に突如として黒い塊が現れた。
あの仮面だ。
「いいかダリオン、あのすげぇ力はもう欠片も残っちゃいねぇ。最後の最後のカスをかき集めたのがこの前のあれだ」
あれでカスなのか。
「だがな、この仮面はそれだけじゃあねぇ」
そう、そうだ。まだ戦える。
師匠に教わった、この仮面の力の引き出し方を。
「どう使うかは、あなた次第よ、ダリオン。だから最後に一つだけ教えてあげる。自分を曲げちゃだめよ。あなたは言い切ったわ。自分の為すべきことをするために力を欲すると。なら、最後までやり抜きなさい」
うん、わかった。
「いい子ね……名残惜しいけれど、もうお別れの時間だわ」
――また、会えるよね?
「なに言ってんだ、俺たちはずーっとお前と一緒にいるさ、なぁ?」
「ふふふ、そうね、ずーっと見守っているわ、愛しいダリオン」
ありがとう。
じゃあ、行ってくる。




