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仮面セイバー  作者: おちぇ。
その名は仮面セイバー
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地獄の始まり

 翌日になって、日も昇ろうかという時から僕とオーブの魔法講習は始まった。

 メルゼスはオーブに命じられて一足先にアラクネの巣の捜索に出て行った。


「さてとだ、まずはその仮面、ちょっとよく見せてもらおうかね」


 仮面を外してオーブに手渡す。オーブはしげしげと仮面の外観から内側までを眺めまわす。


「なぁるほど、魔力を変換して身体強化……いや、それだけじゃないねぇ、知らない陣が……ふぅん。こういう聖遺物は叔父貴が詳しいからもっと真面目に聞いときゃよかったねぇ……まあそれはいいか」


やがて満足したのか僕に仮面を投げて返した。慌ててキャッチして被りなおす。


「あんたが魔法使いじゃないのに体に魔力が流れているのはそいつのおかげだね。本来、魔法使いってのは長い年月をかけて体に“魔力の穴”をつくる。その穴から魔力を汲み上げて魔法を行使するのさ」


 その話は以前も聞いたことがある。魔力の穴が大きければ大きいほど強大な魔力を扱えるが、その器が無ければ魔力に呑まれて死んでしまうとか。

 ちなみに、魔法使いが魔力の乏しいはずのダンジョン外でも魔法が行使できるのはこの“魔力の穴”のおかげである。


「で、こっからが重要だ。あんたは正規の手順を踏まずにその仮面から魔力が流れ込んだ。魔力を上手に扱える技術もないのに魔力を体内に流してたんじゃぁ危険極まりない。幸い、仮面に残っていた魔力は無くなっちまったようだから再び魔力が流れ込むような事態にはならなかったようだけどね」


 もしかして、結構危ない状態だったんだろうか。下手に知識がない状態で仮面を使わなくてよかったのかもしれない。

 ん、でもまてよ?


「師匠、魔力が体に染み込むと強くなるんですよね? 体の内側から魔力が流れ込む魔法使いなら、そこらの剣士とかよりも強いんですか?」


「はん、馬鹿言うない。そこそこ魔法が使えるあたしだって、筋力やら身体能力はそこらの乙女と変わらないよ」


 オーブは布を捲って腕を出して見せるが、子供の用にほそっこい腕に筋肉は必要最低限ついているような状態だ。


「ま、強さの定義が曖昧だから何ともいえないけど、全員が全員同じような強さにはならない。魔法使いの身体に流れる魔力は主に外部へ向かって放出される方に強化されていく。逆に、剣士とかは自分の身体に溜め込まれ、身体能力の強化に使われていく。こればっかりはその人間の個性やら、普段の身体の使い方で変わってくるからねぇ。魔力には意思のようなものがあって、鍛え方によって強くなる部分が違う。あんただって、足を鍛えているのに腕の筋肉が鍛えられはしないだろう?」


「ははぁ、なるほど」


「さて、というわけでだ、あんたにはまず魔力の扱い方ってものをマスターしてもらう。あと、簡単な魔法陣もね」


「魔法陣まで教えてもらえるんですか?」


「ただ魔力を扱えるようになるだけじゃダメだ。魔法は正しく使わないとあんたがまた死んじまうかもしれん。その仮面の内側に魔法陣が描いてあるのわかるかい?」


 そういわれて、もう一度脱いでからよくよく見てみると確かに内側に円と複雑な造形が彫り込まれている。しかし、ほんの小さな欠けが魔法陣の一部を削ってしまっていた。


「その魔法陣が欠けているから不完全な状態で魔法が発動しかねない」


「な、なおり……ますかね?」


「その古さの聖遺物を直すのはほとんど不可能に近いと思う」


「そ、そうなんですか……」


なんてこった。


「これほど微細に魔法陣を刻印する技術はもうほとんど失われているはずだよ。出来たとしても、法外な値段になるだろうね」


 なるほど。

 まあ、相当に古いものだろうし、そこは仕方ない。起動してくれるだけありがたいというものだ。

 そう自分に言い聞かせるが、がっかり感はぬぐえない。


「そう暗い顔をしなさんな。方法はいくらでもある。手っ取り早く、その不完全な部分を外部から補うかね」


「外部から、補う?」


「難しいことは後だ。まずは基本の魔力操作から! はい立って!」


 杖でつつかれて立ち上がる。僕はワクワクしていた。魔法が使えるようになったら、冒険者としての格は断然に上がる。

 だから、まさかあんな地獄が見えるとは思わなんだのだ。



〇  ●  〇  ●  〇




「ひ、ひひょう……もうむりれひゅ」(師匠、もう無理です死んでしまいます)


「馬鹿言ってんじゃなーい! 死にたいのか! 死にたくないなら死ぬ気でやれー!」


「むひゃくひゃだー」(無茶苦茶だよこの人もうやだー!)


 まさしく地獄だった。

 モック爺さんとの生活でそれなりに体は頑丈だと思っていたが、それは「巣立ち前の小鳥」でしかなかった。


「幸いなことに、仮面からの魔力供給のおかげで、あんたにはすでに“穴”が開きかけている。いつ魔力が注ぎ込まれるようになってもおかしくはないが、今のままじゃ体が持たない! だから魔力の器である肉体を徹底的に鍛え上げるよ! 健全な魔力は健全な肉体に宿る! いやー、昔の人は良いこと言うねぇ。あ、ついでに食えるものを採ってきて。肉が良いな肉」


 そういってまずは山を走って食料調達をさせられた。いや、ただの走るだけならばなんてことはない。

 オーブは自分の荷物から幅広の紐を幾本か取り出すと、そこに携帯筆で微細な紋様を書き込み、僕の両腕と両足、そして胴体に巻き付けた。


 オーブが不気味な笑顔で紐に魔力を流し込むと、僕は地面に倒れ伏した。


 重い。


 なんだこれは。全くとは言わないが、生活に難儀するほどに体が動かない。


「それはあたし特製の根性紐……“根性があれば動ける紐”さ。その紐をつけて動いているとあら不思議、段々重さが無くなってきて、そして強くなる……根性は全てを解決する!」


 あ、この人やばい。


 そう気づいたときにはもう遅く、何故か外れない紐と共に僕は何時間も山の中を歩くはめになった。

 最初は筋力を主に使って重い体を動かしていたが、とても非効率であった。確かに体は鍛えられるだろうが、こんなことで魔力が使えるようになるとは思えない。

 きっと、何かからくりがあるに違いない。

オーブはその内重さが無くなってくると言った。筋力を鍛えるだけならトレーニング方法はいくらでもあるが、筋力は一朝一夕で強くなるものでは無い。

時間が無いとわかり切っている中でそんな非効率的な事はさせないはずだ。

きっと紐を軽くする方法がある、それを考えるべきだろう。


まず魔力を意識しないといけない気がする。だって、今の目標は魔力を使って仮面を起動することなのだから。


 しかし、筋力と違って見えない魔力を意識することはとても難しい。

 何かこう、紐をつけてからというもの、腹の下あたりに渦巻くようなものがある気がするのだが、それを確かな流れとして把握するのに半日掛かった。


 この辺りで一度目の挫折が来た。とんでもなく重い体を引きずって何とか食べれそうなものを取って帰ってきて、僕はそのまま倒れ伏した。

 師匠に助命を懇願するも、


「死ぬ気でやれ、死ぬまでやれ」


 という無慈悲な宣告で僕の意識は遠い彼方へと吹っ飛ばされた。


 午後になると、ある程度意識することが出来た魔力を体外に放出する訓練を始めた。放出自体は出来ていたので、ここは問題ないだろうと思っていた。

しかし、ぶわりと魔力が流れ出て体が軽くなるが、半時もすると魔力が枯渇する。

かといって、魔力量を絞ろうとするがこれがまた難しい。

 魔力の放出方法を探るのにまた半日掛かった。


 最初はこんなことで魔力の操作が出来るようになるのかと疑問に思っていたが、やってみてわかる。こればっかりは人から言われて掴める感覚ではない。

赤ん坊が物に捕まって立ち上がり、やがて歩けるようになるように、試行錯誤を繰り返しながら徐々にその感覚を身体に覚えこませていく。


 夜も更け始めたころには一先ず自由に走れる程度には動けるようになっていた。


「あ、キャニオン君、お帰り。どうだった?」


 野営地に戻った頃には、捜索に出ていたメルゼスも戻ってきており、またも干し肉を焼くいい匂いが立ち込めていて、オーブがその小さな歯で必死にかみちぎっているところだった。

 焚き火に掛けられた鍋の中には芋が放り込まれていて、旨そうな匂いをさせている。


「一先ず走れるくらいにはなったよ。あとダリオン」


「……えっ、もう!?」


 メルゼスが驚きの声を上げた。もう、と言われても、他の比較対象を知らないので何ともコメントのしようがない。


「よーしよし、頭が良くて物覚えのいい子は好きだよ。その訓練はこれからも続けんさい。そのうち、“穴”が安定してくるだろうよ。明日の午後からは次の段階だ」


 この訓練、結局のところ体を鍛えることが主ではない。

 魔力操作がどれだけスムーズに行えるかがキモである。やり方をいろいろと変えていけばさらなる訓練が出来そうだ。


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