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仮面セイバー  作者: おちぇ。
その名は仮面セイバー
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強くなるためには

 焚き火がぱちぱちと爆ぜる。

 野営の準備はメルゼスと僕が二人掛りでなんとか済ませた。オーブの役割は魔法で焚き火の火をつける事だけだった。


 メルゼスの持っていた干し肉をあぶり、僕が一つだけ持っていたパンを三人で分け合って簡単な夕食を済ませた。

 ここからは今後の方針の話し合いだ。


「最初に確認しておこうか。まず、二日か三日は訓練に費やす。あんたには辛いかもしれないが、これが最低ラインだ。これ以上はお友達の体力が持たない可能性も考慮してこの期間だ。意地でもあんたにはモノになってもらう」


 オーブの口ぶりは、僕がモノにならないかもしれないとか、そういうことは一切考えない、強くするという確信が含まれていた。

 頼もしい、と思うと同時に、自分にも重圧がかかる。


「あの、それで、気になってたんですけど……強くなるって、どうやって?」


 僕の主武器は剣だ。だけど、オーブは魔法使いで少なくとも剣は扱いそうにない。となれば、メルゼスに技を教えてもらうのだろうか。たった二日や三日そこらで剣の腕が上達するようには思えない。


「あんた、冒険者ってどうやって強くなると思う?」


「え、そりゃあやっぱり、腕とか、経験とか? あとは……固有能力に目覚めると強くなる人もいるって聞いたことはありますが」


「経験といやあ、そうなんだろうけど。でも上級や特級クラスの冒険者となると、そりゃぁもう人並み外れて強い。ほんとに人間かってくらいね。それが最近の研究で、身体に染み込んだ魔力の濃さで決まることが分かったのさ」


「魔力が、染みる?」


「ダンジョンには魔力が充満していて、モンスターたちはその魔力から生まれ、魔力を糧に生きているのは知っているね? それと似たようなもんさ」


 僕はそれだけ聞いて頭をかしげる。モンスターの在り方は冒険者に成る時に教えられる基本事項の一つである。それと人間が一緒くたにされては少し理解が追い付かない。


「ところであんた、魔法の知識はどこまである?」


「知識、ですか?」


「そうそう。魔力とか、魔法陣とか、呪文とか、そういうのどこまで理解してる?」


 どこまで、と言われると不安になるが、一先ず自分の知識を整理する。

 まずこの世界の成り立ちは、ざっくり言うと僕たちが暮らす“内側の世界”と、神々がおわす“外側の世界”がある、らしい。お互いに見えない壁に阻まれて決して交わることは無いけれど、すぐ隣に存在するという。

 魔力というのはその“外側の世界”に満ちる万能の力の一部で、世界を隔てる壁に穿たれた亀裂から漏れ出たものを指す。


 この魔力という万能の力を使役するのが“魔法”と呼ばれるものだ。

先にも言った通り魔力とは、元は“外側の世界”のものだから“内側の世界”には自然と存在しない。

自然には無いのだから、普通の手段で使うことは出来ない。


そこで力に方向性を持たせるのが呪文だとか、魔法陣だとかそういうものだとは聞いたことがあるが――その辺りはよくわかっていない。


「あと、魔法と一緒にしていいのかあれですけど、“固有能力”もありますよね」


この世には魔法に似た“固有能力”と呼ばれるものがある。この世に生きる全ての生命が、生まれながらにして必ず一つは資質を持つと言われている。個人によって様々な能力があり、能力に目覚めるかどうかも千差万別というものだ。

かつての魔法黎明期においては、魔法と固有能力は別物として扱われていたが、現代においてはどちらもその根源は同じく魔力を使うものとわかっている。

魔法は同じ手順さえ踏めば魔力の多少によって威力は変わるものの、同じ現象を引き起こすことが出来る。

固有能力は全く同じ能力というものは珍しく、魔法よりも複雑なものが多い。能力によっては魔法陣などを使用するものもあって未だに研究が進められている、らしい。


というようなことをたどたどしくも説明を終える。


「まあ概ねそんなところだ。でも、一点だけ。魔力に関しての考察は最新のものじゃないね。最近その定説が覆ってきている。この世を構成する要素も、魔力も、元を正せばその根源は一緒なんだ。ちょこっと力の方向性が違うだけでね。だから、魔力は自然物にも染み込んでいき、その土地はやがてダンジョンと呼ばれるようになる」


 むむ、難しくなってきたぞ。


「同じことは人間にも言える。魔力はダンジョンに潜る冒険者にも徐々に染み込んでいく。そうすると不思議なことに、人はやがて大いなる力を得始めるのさ」


「ということは、ダンジョンに潜らないと強くなれないんじゃ?」


 しかも、徐々にということは結構時間がかかるのではないだろうか。とても2、3日で解決するような手段ではないように思う。


「そう、そこからが重要なポイントだ。メルゼス、あんたこの子を“視”れるかい?」


 言われ、メルゼスは無言のまま僕に向かって右手の人差し指と親指で輪っかを造り、そこから覗き込んできた。


「……ああ、そういうことですか」


 なにがそういうことなのだろうか。


「ダンタリオン君、その仮面、聖遺物(アーティファクト)だね」


「わっ、わかるの!? あとダリオン!」


「微弱だけど、その仮面を中心に君の中に魔力の流れが見える。ちょっと、見せてくれない?」


 大人しく仮面を脱いでメルゼスに渡す。

 メルゼスは右手の指先に魔法の光を灯すと、表面はもちろん、裏側まで細部にわたり観察される。


「……ははぁ、なるほど、これなら確かに……」


「どうだい、あたしの根拠が分かっただろう?」


「ほんと、オーブさんの慧眼には恐れ入るというかなんというか」


 えーと、話に混ぜてほしい。

 メルゼスから返された仮面を再び被りなおし、素直に疑問をぶつける。


「何が分かったんです? この聖遺物、役に立ちそうなんですか?」


 アポリー洞窟から帰ってからなど試しても発動しない仮面の力、もはや諦めかけてすらいたあの力。もしかしたら、と期待せずにはいられない。


「その様子だと、それを一度使ったことがあるみたいだねぇ。結論としては、その聖遺物が鍵となってあんたの身体には魔力が少しだけど流れて染み込みつつある。それに……うーん、多分だけど身体強化なんかの魔法陣が彫り込まれているね。そいつを使えるようにすることが、あんたのパワーアップの最速ルートだ」


 それはつまり、あのゴブリンキングを倒したあの力が、もう一度使えるようになる。

 あの力ならば、アラクネにだって、負けはしないだろう。


「その聖遺物を使えるようにするためには、まず魔法の基礎が必要だ。魔力が無いから動かないんだ。魔力を扱えるようになってもらう。さぁ、目標はわかったね?」


「はい、師匠!」


「じゃあ、今日はこんなところだ。寝て、明日に備えるよ。時間はいくらあっても足りないんだからね」


 そういうと、オーブは自分の荷物の中から布を一枚引っ張り出して、すっぽりとくるまってしまった。

 しばらくして聞こえて来た小さな寝息に、僕とメルゼスは思わず目を合わせ、くっくとわらった。


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