魔法使いと槍使い
ビコナの女魔法使いは名をオーロレイヒと名乗った。
何故オーブなのか、と聞いたら、姓がブルーノでそれぞれの頭文字をとって呼ばれているのだそうだ。
冒険者、というわけではないらしい。いつもはもっと都会の方にあるせまーい部屋で年がら年中魔法について考えているのだと言っていた。だからこうやって時々外の世界を見て回りたくなるのだそうな。
「面白そうなことを知らないままにしとくのが嫌でねぇ。今回のこともそういうことだからあんたのためじゃぁ無いよ」
「は、はぁ」
「オーブさんと一緒だと寄り道が多くて大変なんですよ」
そういって嘆く青年の方はメルゼス・ラクロワ。僕よりも少し上だと思っていたが、予想通り今年で18の齢になるそうだ。
見た目の装備通り冒険者で、その齢にしてもう中級冒険者なのだという。とんでもない有望株だ。とはいえ、とてもポヤポヤしていてそんな凄腕には見えないのだが。
でも、彼にも抜けたところはあった。
「えーと、それで……だ、だ、ダリポン君は」
「ダリオンです」
「ああ、そうそう、デリトラ君」
「……ダリオンです」.
「あっはっはっはっは、ダリオン諦めな。そいつ人の名前を覚えられないのさ」
「失敬な、オーブさんの名前とか言えてますよ!」
「3年かかって渾名だろう。あたしの本名を覚えてからいいな」
「あー、お、お、オーロラヒメ……」
誰しも得手不得手はあるものだ。僕だって、人の顔見て話せないほどの恥ずかしがり屋だし……
気を取り直して、気になっていた質問をしてみることにした。
「お二人はどうして、ここに?」
「ははは、ちょっと近くのダンジョンにね。それ以上は機密事項なんだ、ごめんね」
メルゼスの申し訳なさそうな謝罪に、それ以上は踏み込めない。少し残念に思ったが、それも当然かもしれない。
さっきメルゼスは「仕事の途中」と言っていた。冒険者の仕事には他言無用の仕事は数多くある。
今回のようにアラクネがダンジョン外で見つかったともなれば、普通であればそれはもう大事件だ。
話題を変えて、二人はどういう関係なのか、と聞いてみた。
「師弟だろう、なあ弟子」
「え、僕オーブさんの弟子になった覚えこれっぽっちもないんですけど」
「あー、お前! 弟子の弟子だったらそれはもう弟子だろ!」
「友達の友達は友達みたいな暴論やめてください。僕の師匠はただ一人です」
「おい、ダリオン! あたし変なこと言ってるか?!」
とても騒がしく仲が良さそうなことは分かった。
僕らが森に入ってからすでに数時間が経過した。
アラクネがどちらに行ったかは見ていない。
だが、アラクネはご丁寧にも跡をつけてくれていた。微弱ではあるが、魔力を放出しているらしく、オーブはその微細な痕跡を追ってくれた。
僕は3人の先頭に立った。素人ならばとても通れないような道を、剣を使って枝を払い、草を踏みしめ、浮石を蹴飛ばし、道を造っていく。
「なんだい、足手まといどころかしっかり働けるじゃないか」
そういってオーブに褒めてもらったのも僕の自信につながった。
それにしても、この状況に疑問は数々残る。モンスターの姿も見えないことから、この周辺がダンジョン化しているわけでは無さそうだ。
どこからかアラクネなどという強力なモンスターが街道にまでアラクネが出張ってきているのだ。一体どこから?
いや、まあいい。深く考えてもわからないだろうし、アラクネの討伐なんてどのみち僕に出来る事じゃない。
問題はどうやってハロー――と、ついでにベルゲイもか――を救い出すかだ。
まず、二人を見つけることが出来るのか。
よしんば二人の身柄を確保できたとして、上級モンスターの隙をついて逃げられるか。
戦闘になったときに、アラクネとまともに戦えるのか。
「普通に考えれば無理だ」
たとえこのオーブとメルゼスの助けを得たとしても、アラクネには敵わないと考えるのが普通だ。
万全を期すのであれば、救援を待って討伐隊を組まなければいけない案件だ。というか普通ならそうする、前の僕だったらそうする。
でも、さっきも考えた通り準備の間はハローの身の安全が保証できない。
モンスターの思考は人間には理解できない。宝物のように連れ去られたからには生きてはいると思うが、いつその気分が変わるとも知れない。
だからと言って、たった三人でアラクネの下に向かうのははっきり言って無謀だ。
でも、そのことに目を向けさせない焦りが、今の僕の原動力であった。
昔モック爺さんが言っていた。戦場では自分が有能と過信した者から死ぬ。だが時に、自惚れが生む無謀さが覚醒を呼び起こすことがあると。そうなったものが英雄と呼ばれるのだと、モック爺さんは笑っていた。
その言葉だけが、今の僕のただ一つの拠り所だった。




