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仮面セイバー  作者: おちぇ。
かくして少年は旅立つ
3/65

モンスターパニック

 しばらく進んでいくと、またもゴブリンと遭遇する。

 カイゼルもゴブリン程度に手こずる腕ではない。現に、今日は一度もゴブリンと戦っていない。


 しかし、今回は違ってしまった。


「イビルバットだ!」


 デフラムが叫ぶ。頭上に数匹のイビルバットが飛び交っていた。


「くそっ、こいつら!」


 カイゼルの剣筋をあざ笑うかのように、ひらひらとイビルバットはその攻撃をかわし続ける。頭上の敵を想定した訓練をしていないのだろう。とてもお粗末なものだった。

 その隙をついて、一匹のゴブリンがカイゼルとデフラムの間をすり抜けた。


 突然の出来事に、僕の頭にかーっと血が上った。

 ゴブリンが僕とアイリンに向かって棍棒を振り上げてくる。

 目が合った。

 ゴブリンと目があってしまった。

 ただそれだけのことで、僕の体は急に縮こまってしまう。

 緊張、照れ、恥、動かなきゃ、動け、動いて――


「きゃっ」


 振り回された棍棒を避けようとして、アイリンが尻もちをついた。

 その悲鳴に我に返った僕は、ゴブリンの足元を見て場所を確認し、剣を横に振り払った。

 一撃でゴブリンの首は宙を舞い、ごとりと武骨な棍棒が地面に落ちる。

 その間に、デフラムの弓とカイゼルの剣が他の敵をすべて倒しつくしていた。


 倒れたままのアイリンに近づく。


「あ、あの、だ、だいじょ」


「触らないで、この無能!」


 差し出した僕の手を無造作に払いのけ、アイリンは僕をあしざまに罵った。


「ほんっとに役に立たないわねあんた! ゴブリンごときササっとやっつけられないの!? 体ぶつけてでも止めるんでしょ! なんのための直衛なのよ! まったく、今日に限って野良募集に変なのしか残っていないなんて、最低よ最低!」


「大丈夫かアイリン!」


「ちょっとカイゼル、この無能どうにかしてよ!」


 カイゼルは僕の胸倉をつかみ上げた。


「てめえ……足を引っ張んなって言ったよな?!」


「あ、ご、ごめ」


「目を見て謝れや! ああ!?」


 顔が熱い。動悸が激しくなって息が苦しい。

 ああ、どうして僕がこんなにダメなんだろうか。

 ゴブリンと目を合わせられない冒険者なんて、世界にきっと僕だけだろう。


 カイゼルとアイリンの暴言はしばらく続いたが、僕はそれをすべて黙って聞くしかなかった。それを止めたのは、デフラムだった。


「おい、そこまでだカイゼル、様子がおかしい」


「あ? 何がだよ」


「この奥からの臭いが急に強くなった。何か来るぞこれは」


 その場の全員が、洞窟の奥のほうへと目を向けた。

 何か、音が聞こえる。どどどどと、まるで大軍が駆け寄ってくるかのような不規則な地響きである。

 この洞窟は割と広くはあるが、入り組んでいて大勢の人間が入れるような場所ではない。ということは、答えは一つ。


「くそっ、モンスターパニックか!」


 ダンジョン内でモンスターが異常発生する現象を、モンスターパニックという。発生原因も、予兆も不明とされ、突如として何でもないダンジョンの難易度が跳ね上がってしまうのだ。


 慌てて全員が荷物を背負って走り始めたその時だ。洞窟の奥に松明の炎が見えた。その数は徐々に増えていき、洞窟中を明るく照らし出した。

 そこには、まるで濁流のように湧き上がるゴブリンの大軍が4人を飲み込まんと全速力で走り寄ってきているではないか。


「逃げろ! 早く!」


 カイゼルが叫ぶと、四人は放たれた矢のようにダンジョンを逆走し始めた。

 ゴブリンは個体でなら大した脅威ではないが、徒党を組まれるとその危険度は増す。押し寄せる百のゴブリンは、時に中級に成りたてのパーティをも殺すことがある。

 まして、洞窟内では広範囲魔法も使いづらい。地理は圧倒的に不利である。


 レンジャーのデフラムが先頭を走り、アイリン、カイゼルと続き、僕はやっぱり殿だった。

 だがしかし、足元は暗く、体力もないアイリンは足が遅い。すぐにもゴブリンたちに追いつかれそうになってしまう。


 カイゼルが舌打ちをして、少し走るスピードを落として僕と並ぶ。


「おい、ダリオン。俺たちはな、こんなところで死ぬわけにはいかねえ。いつかあの“大天使の翼”とも肩を並べて、世界最強のクランにならなくちゃならねぇ」


 彼が突然何を言いだすのか、まったくわからなかった。


「だがよ、その夢の先にお前はいねぇんだ」


 だが、すぐにも予想はつくこととなる。


「わりぃが、囮になってくれや!!」


 そしてその予想は、現実となってしまった。

 剣の鞘を足の間に突っ込まれた僕は、無様にも頭から地面に転んでしまう。


「うぅっ、ぎっ、ぐっ」


 二転三転して止まった時には、すでに三人の姿は遠くに消えている。

 背後には、ゴブリンの大軍団。

 即座に抜刀して、迎え撃つ。


 しかし、そこには、僕を見つめる数多の目があった。

 右を見ても、左を見ても、目、目、目。

 またも、かーっと頭に血が上ってしまう。

 しかしこんなところで死ぬわけにはいかない。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


 ゴブリンの目を見ないように、地面を見ながらめちゃくちゃに剣を振り回す。川のように襲い来るゴブリンたちは、次々とその剣の雫となっていく。

 幸いにも、ゴブリンの厄介な点である“悪辣な手段”は使ってこない。皆一様に棍棒を振り回してくるだけだ。

 十数匹は逃がしたが、数十匹を斬り捨てた。

 しかしそれにも限界は来る。


 ぶうん、と唸るような音が響いた。

 えっ、と思わず顔を上げたその時、こぶし大の何かが僕の頭の横をかすめた。


「と、投石!?」


 そう叫んだ瞬間、僕の頭に強い衝撃が走り、意識は遠く吹き飛ばされた。


一時間おきにもう少し投降します。

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