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仮面セイバー  作者: おちぇ。
その名は仮面セイバー
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星空の下で

 二日目までは特に何もなく、途中の村に停泊をして過ごすことができた。

 夜にハローとこっそり話をすることも、僕の心の平穏に一役買っていた。

 ところが、三日目に先頭の馬車の車輪が心配していた窪みにはまってしまって、脱出をするのに手間取った。予定が大幅に狂い、泊まるはずだった集落まではたどり着けなくなったのだ。


「ちっ、しかたねぇ、野宿だな」


 ベルゲイが苦々しく舌打ちをする。

 ちょうど街道は森の中を通過中だった。比較的広大な森で、このまま抜けようとすれば真夜中になってしまう。それくらいならば、宿営地を作ってしまったほうがいいという判断だ。

 幸い、森が凹んで街道が少し広くなった箇所があったので、そこに馬車を停めて野宿の準備が始まった。


 ちらっと横目で見たハローは表情を変えずに堂々としていながらも、目がキラキラと輝いているように思えた。ああ、あれは冒険っぽいイベントに喜んでいるのだろうか。

 どうもお嬢様育ちのハローにとって、冒険者の自由な生き方や、野宿などの不自由な生活というのは魅力的に映るらしい。僕からすれば、いい宿に泊まっておいしい料理を食べたほうが楽しいと思うのだが、人って良くわからない。


 食料はたっぷりと馬車に積まれていたので、普通の旅に比べたら格段に豪華な夕食である。爺やさんは料理が趣味のようで、手ずから作った料理を冒険者たちにもふるまってくれた。う、旨すぎる。


 ハローの従者たちは馬車の中に、冒険者たちは各々が簡易の天幕を張ったり身一つで地面に横になったりと、各々で床についた。


 他に倣って、僕も布一枚を体に巻いて寝ようとしていた。

だが、考えてみれば初めての旅の中の、初めての野宿だ。モック爺さんの山で寝るのとはまた違う趣がある。

興奮してしまって、思わず体を起こして木々の隙間から見える見慣れた星々に思いをはせた。先ほど目を輝かせていたハローを笑えない。


「ダリオン?」


 がさり、と森の落ち葉を踏む音がした。遠くに燃える焚火が逆光となって、一人の人影を闇に浮かび上がらせている。

 ハローだ。


僕はあの冒険者達の近くで寝るのが嫌で、焚火から少しだけ離れた場所に寝床を敷いていた。

そんなところまで来たということは、僕を探してまで来てくれたということだ。


「ど、どうしたの」


「ちょっと眠れなくって。横、いい?」


 おそらく初めてだろう野宿で眠れないのは、ハローも同じようである。

 慌てて体に巻いていた布を地面に敷いて、ハローを座らせる。


「ねえ、すごいわ。冒険者さんて魔法も使わずに焚火に火をつけるのね」


 簡易の着火魔道具は今やどの家にも普及した便利な道具だが、旅先で使うには繊細な道具だ。ゆえに、旅慣れた冒険者は“火付け石”を使うことが多い。かくいう僕も旅は不慣れだが、火付け石を使っている。少しコツがいるが、所詮は石なので乱暴に扱っても問題ない。


 ハローのことをボンボンと笑っていた冒険者たちに尊敬の目を向ける、それがなんとなくもやもやして、僕は何も答えられなかった。


「……そうね、決して良い人達ではないのでしょうけど、それでも私の依頼を受けてくださった大事な護衛さんたちよ。学ぶべきところは吸収すべきだわ」


 僕の心の声が聞こえたのかと思うようなそのつぶやきを聞いて、僕は少し己を恥じた。ハローのほうがよっぽど大人だ。


「ねえ、星は詳しい?」


 ハローのその問いに、僕は答える代わりに木々の切れ間から除く星を指さした。


「……あれ、ひと際明るいのが白輝星って言って、王国の誕生とともに輝き始めた王の守護星。その横に五つ連なっているのが剣連星、建国の大英雄ボルテンサリーが振るった剣が天に召されたもの。その伝説の剣に首を撥ねられたのがあっちの赤い星、神話の怪物巨狼ガーポドンの右目――」


 真っ暗で顔を合わせていないからか、僕は独り言のようにスラスラと星の名前を言い連ねた。星読みは、友達の少なかった僕の夜の楽しみの一つ。

ハローは何も言わなかったが、きっとまた目を輝かせているのだろう。

木々の切れ目から見える空には限界がある。やがて、見える範囲の星の名前はほとんど言いつくしてしまった。

しばし、沈黙が二人を包む。

余裕ぶってはいたが、僕はいっぱいいっぱいだった。


(やばいやばい女性と二人きりで夜空を眺めるとかどういう状況だこれは心臓の動悸が止まらない苦しい恥ずかしいいやしかし習ってもいないこんな時の対処法どうしろというのだ教えてモックじいちゃん!)


「……ねぇ、ダリオン」


「ひゃはぃっ」


 変な声が出た。


「どうしてあなたは、冒険者になろうと思ったの?」


 どうして。

 どうしてだろう。

 動転していた頭の中は、その問いに答えるために全力回転を始め、この状況に対しての反応を抑え込んだ。


「……いや、えーと、その、やっぱり子供心に、その、冒険者がかっこいいなぁ、って……」


 それだけだろうか。


「ぼぼ、僕はその、ほら、人とその、話が……出来ないから、だから、冒険者になって……活躍したら……友達、出来るかなぁって」


 結局、一か月たっても友達は出来ていないのだが。


「あと……その……」


「あと?」


「……僕、お父さんとお母さん、いないんだ」


 見られないけれど、ハローが少しだけ息をのんだ。


「あ、いや、そうじゃなくて……いや、そそうなんだけど……僕の、両親はその、冒険者だったって。でも、皆を守るために……死んじゃって」


 モック爺さん以外の人と、こんなに長く話すのは初めてのことだった。いつもは恥ずかしさが勝って黙りこくってしまうというのに、ハローの前では流暢ではないが言葉を紡ぐことが出来ている。


「だから、その、僕も人の為になれたら、お父さんやお母さんみたいな、英雄になれるかなぁって」


 何をもって英雄と呼ばれるのかは分からないが、僕にとって両親は紛れもなく英雄だ。だからこそ、僕は人の為の英雄になりたいと思っているのだ。


「そう、素敵なご両親なのね」


「か、顔も……見たこと、な、ないんだけどね」


「それでも、素敵な意志と魂があなたに受け継がれている。私はそう思う」


 僕が赤ん坊の頃に死別したから、両親と一緒に暮らした記憶もない僕にとって、その言葉はとても嬉しかった。


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