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仮面セイバー  作者: おちぇ。
その名は仮面セイバー
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初夜の生娘

 結局集まった冒険者は僕を合わせて6名だった。この時期にしては集まったほうではないだろうか。

 僕以外はギルドからの派遣ではあるが、腕があるかどうかはお察しである。熟練の冒険者はすでにカオカタに見切りをつけて他の街へ出てしまっている。ここにいるのは、僕のような自分の家でのんびりしていた者か、ぐずぐずと他所へ行くことを躊躇っていた者たちだ。


 護衛のリーダーはベルゲイという男に決まった。その決め方も、冒険者の経験年数が他より少しだけ長いという理由からだ。成りたてから3年未満程度のひよっこばかりの、とても頼りない護衛団だった。

 これで長旅をしたのではとても耐えられるものではない。とりあえずこの面子で出発はするが、途中の大きな町で随時補充をしていくこととなった。


 馬車は三台。ハローとその従者達が乗る大型の馬車と、それを挟むようにして売り物の乗った二台の馬車がある。手ぶらでは帰れないからと、このあたりの民芸品などを買い込んだようだ。


 ベルゲイは護衛に多少の心得はあるようで、隊列の前後に身軽で目のいいものを二名、あとの四名を馬車の近くに配置した。僕は一番後ろの馬車のすぐ横を歩いて追随することになった。


 ベルゲイは時々カオカタで見かける冒険者だった。アポリー洞窟の浅い階層を探っては、その日暮らしを続ける程度の稼ぎをする腕前である。

 こちらが向こうを知っているということは、向こうもこちらを知っているということだ。

 出発前の話し合いが終わると、ベルゲイはニヤニヤとした笑いを向けてきた。


「はっ、しかしよぉ、まさか“初夜の生娘”さんがこの護衛に加わってくださるとは思わなかったぜぇ? なあ!」


 ベルゲイが声を張ると、冒険者の中から笑いが起こった。僕の顔が真っ赤に染まる。


「おいおい、これから二週間は一緒だってのに大丈夫かよ。俺が抱いて立派な女にしてやろうか?」


 生娘という蔑称をネタにされ、またも笑いが起こった。正直冒険者になっての一か月で慣れたことではあるが、いい気分は全くしない。でも、言い返すこともできないのでずっと下をうつむいて嵐が去るのを待つ。

 そんな僕の、いつも通りの反応を詰まらなく感じたのだろう。ベルゲイはふんっ、と鼻を鳴らした。


「しっかし、ダンジョンが閉まっちまってから、ようやく仕事にありつけたって思ったらよぉ、まさかどこぞのボンボンの道楽道中に付き合わされるとは思わなかったぜ」


 どこぞのボンボン。それがハローを指すのだと、一瞬理解が及ばなかった。


「ははっ、でもベルゲイさん、あの娘っ子、金払いは良いじゃねぇですか。前金で金貨一枚、成功でさらに二枚ならニルクスクで豪遊できますぜ!」


「ちげぇねぇ。どうせ親からもらった小遣いだろう。俺たちが有効に使ってやらにゃぁな!」


 違う。

 それは、その金は、彼女が自分のための未来をつかみ取るための大事な命の欠片だ。

 出所は親かもしれない、彼女が必死にためた小遣いかもしれない、それは僕にもわからない。

 ただ、わかることは、薄汚い心のお前らが、笑っていいような金じゃあないってことだ。


「っ……な、なんだよ」


 ベルゲイがたじろいだ。

 気づけば、僕はベルゲイの目を、まっすぐに睨みつけていたのだ。恥ずかしいだとか、そういう感情を塗りつぶす憤怒が、僕の体から震えを取り去っていた。


「ちっ、気持ち悪い奴だぜ」


 舌打ちを一つ残し、まるで縄張り争いに負けた獣のようにすごすごとその場を去るベルゲイと、追う他の冒険者たち。

 僕はその背中を刺すように、しばらくの間拳を握りしめていたが、やがてその怒りを燃やしたまま自分の配置についた。


 ゴロゴロと車輪の音が響き、むさくるしい男たちが纏う装備がガチャガチャと音を立てる。ゆっくりと進む馬車は、早歩きで十分に着いていける。


 次の大きな町まで、この馬車の速度だと約5日はかかる。積み荷が重く、どうしても速度は出せないからだ。ということは、普通なら二週間の行程も三週間くらいかかってしまうかもしれない。


 それに、この辺りは都会からも遠く離れ、街道の整備が行き届いていない。穴に車輪が嵌らないように気を付けて進まねばならないし、馬車同士のすれ違いにも気を遣う。


 僕は周囲を油断なく警戒しながらも、決して体と心をすり減らさないように心掛けた。長い旅路になる。締めるところは締め、抜くところは抜く。モック爺さん直伝の冒険者の心得の一つだ。

 ベルゲイたちもあれ以来積極的に絡んでくることはなくなったので、僕の心は比較的穏やかだった。


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