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仮面セイバー  作者: おちぇ。
かくして少年は旅立つ
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蝙蝠ならば

初めてのダンジョン。初めてのパーティ行動。

今日は冒険者として記念すべき日、素晴らしい日、になるはずだったのだが。


「おい……おい! ダリオン、お前だよ!」


「あ、あ、ごめ……なにかな?」


 怒鳴るように僕の名前を叫ぶのは、カイゼルという剣士だ。

 顔が良く、新人冒険者の中ではそこそこの腕前だと評判を持つ、新進気鋭のクラン「蒼星」のリーダーである。

 クランというのは、目的を同じくする冒険者同士の集団のことだ。一つの志を共有し、家族のように固い結束で結ばれ、ダンジョンに潜るときも日常生活でも共同体となる。

 ちなみに僕はこのクランには所属したわけではない。いわゆる野良募集枠だ。

 クランは仲間たち、パーティは実際にダンジョンに潜る集団といったところか。


「ったく、ほんとだせぇやつだな。もっとはっきり喋れや」


「う、ご、ごめ……」


 人と話すのは苦手だ。恥ずかしさで顔が真っ赤になるし、どもってしまう。ろくに目も合わせられないので、イライラした相手からこうやって怒鳴られることも日常茶飯事だ。いまだに慣れることはないのだけど。

 僕が人と話すのが苦手だということ、そしてモンスターと目すら合わせられないという事実はダンジョンに入ってしばらくしたらすっかりバレた。だが、一度入ったからには引き返すのも面倒だとして、一応パーティに入れてもらえている。


「いいか、もうこっから先はモンスターどものレベルも上がってくる、足は引っ張んなよ! お前の役割はアイリンの護衛だ。体張ってモンスターを止めろ! いいな!」


 僕はただ何度も頭を上下に振った。

 すでに僕たちはダンジョンに潜って半日ほどだ。だいぶ奥にまで入り込んでいる。

 ここのダンジョンは入り口辺りは初級者向け、奥の方に進めば初級の後半、中級の一歩手前ほどの難易度である。通称「アポリー洞窟」。昔の冒険者アポリーが発見したとされる古いダンジョンの一つだ。

 僕一人ではとても攻略できないが、“蒼星”には適正なレベルである。

 初心者の僕に、アポリー洞窟のモンスターを狩ることは期待されていない。体よくいって、後衛を守る肉の壁だ。一度でも攻撃を防げば、カイゼル達がすぐにモンスターを屠ってくれる。


「ったく、モンスターと目を合わせられねぇとか、お前ほんと何なんだよ」


「あ、あの、ごめ」


「それにいくら潜ってもゴブリンしか出て来やしねぇ。いつもならもっと強いのが出て来たっておかしくはねぇってのに」


 そう、アポリー洞窟に本来いるべきモンスターの姿はあまりなく、遭遇する敵はゴブリンばかりなのだ。

 だが、ダンジョンに入るのが初めてな僕は、まあそういうものか、くらいの感想しか持ち合わせていなかった。


「ねぇ、そろそろ行きましょ?」


 そう言うのはエルフの魔法使い、メイリンだ。とても美しく、魔法の腕もそこそこだが、どうにも態度が傲慢で僕はあまり得意ではない。ちなみに、カイゼルと恋仲である。


「ん? おお、そうか。じゃあもうちょっと進むか。デフ、先頭頼むぞ。ダリオン、てめぇは一番ケツだ!」


 狼系獣人レンジャーのデフラムが先頭を歩き、次にカイゼル、メイリン、そして僕が殿を務めるのが今日の編成だ。

 デフラムは鋭い五感を駆使してモンスターを次々と見つけ出し、カイゼルが敵を引き付ける間にメイリンの魔法でつぶす。僕はといえば、メイリンの直衛だ。

 普段その直衛を担う“蒼星”の他のメンバーがケガをしたらしく、パーティーの臨時メンバー募集、いわゆる野良募集で引っ掛かったのが僕というわけだ。

 

 突然、デフラムの足が止まった。

 何度も臭いを嗅いでいるが、しきりに頭をひねっている。どうやらモンスターがいそうなのだが、その居場所がわからないらしい。

 おそらく、松明に練りこまれた獣脂が鼻を鈍らせているのだろう。だから効果が短くても植物油のものにしておけばよかったと言ったのに――いや、言ったけれど伝わらなかったんだった。

 その時、僕の背中に直感が走った。

 右手に持った鋼の剣を、振り向きざまに下から上へと振り切る。


 肉を断つ手応えとともに、音もなく地面に落ちたのはイビルバット。大きなコウモリである。それほどの強さは持ち合わせないものの、ヒラヒラと音もなく飛んでは獲物に忍び寄り、首筋に噛みついて血を吸い上げてしまう、奇襲が厄介なやつだ。

 二度三度と剣を振ると、瞬く間にコウモリの死骸が積みあがった。


「おい、何遊んでんだ、ダリオン! 行くぞ!」


 イビルバットは別名「音を吸うコウモリ」。自分の発する音を消してしまうその特性は、自分が倒された時の叫び声も消してしまう。

 コウモリを倒したことも気づかない彼らは、どうやらデフラムの気のせいということにして先に進んでしまっていた。


「あ、あ、ま、まって」


 慌てて後を追う。しまった、コウモリの素材を回収していない。が、それをパーティに伝えることは……できないだろう。

 自分のこの欠点はとても嫌いだ。もう少し、話せたらいいのに。


物語の冒頭部分は連続投降します。1時間おきくらいかな。

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