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仮面セイバー  作者: おちぇ。
かくして少年は旅立つ
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お説教

 まず、重しを仕込んだ木刀で、素振りを行う。ただの素振りでなく、実戦を想定した素振りだ。

 袈裟切り、突き、突き、いなして、横薙ぎ。

 躱す、受け、受けと見せて空かして、唐竹割り。

 これを一時ほど繰り返し、汗が滲んできた辺りでモック爺さんが庭に出てくる。


 ここからは、モック爺さんとの打ち込み訓練となる。

 両者ともに重しのない木刀を持ち、本格的な実戦訓練だ。先ほどの素振りも、この訓練で見つけた課題を克服するために行われる。

 昔はモック爺さんが重しの入った木刀を使ってくれていたが、最近は軽い木刀となった。それが成長のように感じられて、僕はとてもうれしい。

 しかし、それでもモック爺さんから一本を取ったことが無い。


「せぇぇあっ!!」


 今日も気合を込めた一撃が空を斬り、気付けば空を向いてすっ転ばされていた。


「くそー、まだだめかー」


「ははは、なかなか筋が良くなってきているがなぁ。もう少しだて」


 モック爺さんが寝転ぶ僕の横にある丸太に座り込んだ。どうやら今日はこれで終わりらしい。もうすっかり日暮れが近い。


「うーん、昨日は霞渡りも使えたのになぁ」


 あのゴブリンキングとの戦いで、偶然と下準備が重なったものではあったが。


「ほう! あの歩法を使えるようになったんなら大したもんだわい。そういやぁ、起き掛けに何か言うとったな。何があった?」

 

 僕は上半身を起こすと、モック爺さんに向き直った。

 どうせ昼間は聞いていなかっただろうと、僕は最初から話すことにした。


 初めてパーティに参加し、初めてのダンジョンに挑んだと聞くと、喜んだ顔をしてくれた。


 ゴブリンを取り逃がして後衛を危険にさらした話には、口をへの字に曲げて呆れた。


 ゴブリンの大群に襲われ囮にされた時の話には、無表情になった。あれは本気で怒っているときの顔だと知っている僕は、少しだけ縮み上がった。


 仮面を手に入れた時の話には、合点がいったというような顔をした。


 ゴブリンキングとの戦いのときは、身を乗り出して興奮していた。


 そして、仮面の不思議な力を発揮した時の話には、手を叩いて笑った。


「はっはっはっは、なーるほどなるほど、それであの昼の遊びに繋がったわけか」


「だからー、遊びじゃないんだって、本当に本当なんだって!」


「わかっておる、わかっておる。おそらくあれは、聖遺物アーティファクトなんじゃないかのう」


「あーてぃ、ふぁくと?」


 名前だけは聞いたことがある。

 神代。

その昔、神様がまだこの世界にいらっしゃった時代。

その頃に神々の手で作られた数々の奇跡の産物を纏めて「聖遺物アーティファクト」と呼ぶと。

絶大な力を誇り、ものによっては一国を傾けるほどの価値があるという。


「す、すごい……でもそんなものがゴブリンの巣にあるかなぁ?」


 そんな話をすぐには喜ぶほど、僕も子供ではなかった。


「ははは、ゴブリンがどこぞで拾ったか、冒険者が拾ったものが巡り巡ってゴブリンの巣に渡ったか、それは分からんがな。その辺のことは明日あたりカーネリーの婆さんに見てもらったらみたらどうだ」


 カーネリーとは、この村の唯一の神官にして僕の幼馴染リスファルの祖母に当たる人物だ。確かに聖職者として知識は豊富だろうし、何かわかるかもしれない。


「いや、それよりもじゃ、お前を囮にしたとかいうクランの奴ら、きちっと落とし前付けたんじゃろうなぁ?」


「え?」


 そういえば、仮面の存在にすっかり興奮していたけど、彼らの存在をすっかり忘れていた。正直、もうどうでもよくなってすらいる。


「え? じゃないわい。お前、命を軽んじられたんだぞ。いわば、お前の誇りを傷つけ、その保護者であるワシの顔に唾を吐きかけたも同然じゃ。ただで許してやる謂れは無かろう」


 そういえば、モック爺さんは誰よりも冒険者としての誇りを気にする昔気質の人だったんだ。酔っぱらった時には昔ばなしを良くするようになり、自分のパーティを馬鹿にしたチンピラをボコボコにしてモンスターの餌にし掛けた様な事も言っていた。

 だが、正直僕としてはもう関わりたくない。ある意味トラウマだ。このまま何も無く終わるのであれば、それはそれでいいとすら思っていた。


「あい、いやぁ、でも、もうどこにいったかわかんないし、そもそもモンスターに殺されちゃったかもしれないし」


「なに? お前まさか、そのパーティが無事に戻って来たかどうかも分からんのか?」


 そういえば、さっきの話は転身したところまでは話したが、どうやって帰って来たかのところまでは話していない。モック爺さんは、僕と一緒にパーティも窮地を脱したと勘違いしているのだろう。


「だ、だって、途中ではぐれちゃったし、ダンジョンの中は広いし、それに囮にされてちょっと悔しかったし……」


「ばぁっかもぉぉぉん!!!!」


 ここ数年で最大級の雷が落ちた。

 頭頂部に衝撃を受け、目から火花が飛び散り、続いて来た激痛に頭を抑えて転げまわった。


「いっだぁぁぁぁ!!」


「それとこれとは話が別じゃろうが! 一時とはいえ命を預けあうがパーティ! 例え裏切りに会おうとも、せめてその生死を確認するのが冒険者としての矜持! それをお前、自分だけ帰ってきてはい終わり、それでいいわけがなかろうが!」


「ごっ、ごめんなさぁい!!」


 その日、数年ぶり何度目かも分からない夜通しのお説教大会が始まってしまったのだった。


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