奥編 moglie 38:火の山の魔女(その6) Strega in vulcano:sesto
前回:ラスボスが現れた。
円に入ったらすぐに場所が変わる。全くのワープだと思う。
周囲は岩で囲まれた洞窟、彼方此方に在る溶岩溜から炎が噴き出す。
そして奥の石段の上には一人の女性が座っている。左目が赤、右目が茶の虹彩異色だ。
「やっと来たな。今回の冒険者たちはなかなかの強者と聞いていたので、歓迎したつもりだが」
良く通る綺麗な声だが、感情の薄い棒読みに聞こえる。
「あぁ、なかなかのおもてなしぶりだったが、お前が “火の山の魔女„ か?」
サヤは相変わらず、きつい言い方をしているが、ここに来てその意味が分かったような気がする。少しでも気を緩めてはいけないと自分に言い聞かせているのだろう。
「あぁそうだ。私がその本人だ」
「それでは、俺たちはお前を倒せばこの依頼がクリアというわけか」
「その通りだ。私に勝てればだが……」
「すみません。お名前を教えて頂けますか?」
コーリ、また何を?
「名前か……確かに君たちが持っているのような名前は私にもあったはずなのだが、忘れてしまったようだ。今は “火の山の魔女„ と呼ばれるだけだ」
「そうですか、哀しいですね」
「私はここで永遠の罰を受けている。死ぬことも逃げ出すこともできない」
「どんな罪なのでしょう?」
「それも忘れてしまったな。今は、君たちのような冒険者の相手をするのが私の務めだ」
魔女はゆっくり立ち上がる。
「さて、始めようか。君たちの実力を見せてくれ」
「水の加護! 風の加護!」
「コーリ、どうして?」
「まだ属性は判断できないぞ!」
「いえ、瞳が赤と茶です」
「ほぅ、なるほど、火と地の属性か」
「好判断だな。そこまで理解して来たのか。では行くぞ!」
魔女が右手を一振りすると、炎が波となって襲って来る。
「水の壁!」「氷の壁!」
無詠唱かぃ! コーリとの二重防御で、何とか攻撃を抑える。
「降雨!」
水粒を空中に撒き散らす。火相手には地味に効く。
「ゲッツ、無理に飛び込むな。敵を攻撃を抑えながら接近してくれ」
「承知! 時々回復してくれ」
「分かりました。回復の霧!」
「行くぞ! 撹乱!」
隼が果敢に敵に取付き、動きを牽制する。
「ふむ、鳥の攻撃はなかなか厄介だ。これでどうかな?」
手を合わせたと同時に赤い煙が一気にこちらを包み込む。
「気を付けろ! 毒だぞ」
「ピリッと来ます~ 落水の解毒!」
「次は、どうかな?」
腰を落としたかと思うと、右手で軽く地面を叩く。地が音を立てて揺れる。
「泥濘!」
地面を沼地にして振動を防ぐ。コーリGJ!
「守ってばかりでは勝てません! 霜柱!」
魔女の居る地面に一面の霜柱を撒く。
「水球剤! 風塵剤! 麻痺剤!」
この際、薬剤の出し惜しみもなしだ! 麻痺剤が思ったより効いてるみたいだな。
「コーリ! 雷使ってみて」
「分かりました。雷迅!」
「なるほど、一瞬硬直するみたいだな。螺旋!」
手強かったが、雷魔法で硬直が掛かるみたいなので、その隙に攻撃を重ねて行く。
「治癒の聖雨!」
「連射!」
「氷の槍!」
「とどめだ! 連撃!」
ゲッツの槍攻撃で遂にラスボスも倒れる。
「君たちは強いな。この世界で活躍してくれるだろう。私はまた少し休むことにする。幸運を祈るよ」
通常と違って、魔女の身体が地面に引き込まれる。
「あぁ強敵だったな。もう会うことはないが、良い修行をさせて貰った。感謝する」
サヤの言葉に、微笑みを返したように思う。
「お疲れさまでした。あなた方の勝利です」
その声と同時に、生命の腕輪が光る。多量のドロップ・アイテムが一気に登録されて行く。
珍しく装飾品が出ている。
サヤには、赤の波模様が入る、火の弓懸
ゲッツには、全面に炎の意匠が入る、火の盾
コーリは、真紅の綾織、火の衣
ボクには、朱の炎が揺らめく、火の貴石
付与能力は直ぐには分からないが良いものに違いない。帰ってからの楽しみが出来た。
「案内役の精霊さんよ。あんたは最後まで見てるだけだったな」
ゲッツ、最後まで煽らんでも……
「私は案内をするだけの身、我が君がお休みになった今は次のお目覚めを待つだけです」
ゆっくりと礼をして言葉を続ける。
「それでは、こちらが出口です。今後のご活躍を祈念いたします」
円が現れる。お馴染みになったワープ・ポイントだな
「丁寧な挨拶、痛み入る。もう会うことはないと思うが、次の冒険者たちをよろしく頼む」
案内役の火の精霊は霞みながら空中に消えて行く。
「さぁ、帰ろう!」
サヤの声に、みんな円に飛び込む。
その瞬間、生命の腕輪の効果音が響く。
“ワイド・インスタンス・クリア:火の山の魔女„
次回 「奥編 moglie 39:明日から先へ Da domani a domani」




