奥編 moglie 31:杏の里(その2) Villaggio di albicocca:secondo
ベルは肩の上に乗って話し掛ける。
「アルフィ、魔法に限界感じてるの?」
「うーん、何か才能というか、他の人見たいに攻撃力出ないし、発動も遅いみたいなんだよね」
「大丈夫よ、あたしが教えてあげるから」
軽く羽を震わせての顔の前に浮かぶ。
「これから、やろ」
「しかし……そんな」
「あたしは妖精よ!あたしは精霊。だから、魔法はあたしのものよ」
小さな手が腕に絡む。
「さ、行こ」
淡い靄の中、景色が霞む……
靄から出ると淡い緑の光に浮かぶ小さな広場、草木が生い茂る。
「さ、やろ」
「でも……」
「あなたはできるわ。心配しないで」
ベルは目の高さに舞い上り、笑顔で肯く。
「わかった。やってみようか」
手を引かれて広場の真中に進む。
「魔法は自然よ。自然にお願いをすることよ。素直にお願いすれば応えてくれるわ」
「そうなの?」
「そうよ。じゃ、ゆっくり眼を閉じて」
言われるまま眼を閉じと、ベルの声が意識の中に響く。
火の揺らぎを見て
風の流れを感じて
水の生命を受けて
地の囁きを聞いて
「心を穏やかにしてね。あとは、浮かんだイメージを言葉にするだけでいいの」
ベルの言うことなら何でもできそうだ。
「始めるわ!準備いい?」
ベルの言葉に頷いて、肩の力を抜き両手を前に出す。手のひらにいつもと違う魔力を感じる。
「最初は火よ」
火は揺らぎ
火はときめき
火はリズム
「火の矢!」
いつもと全く違う矢の数、炎が燃え上がる。
手から放たれた紅蓮の矢はが一本の樹を炭に変えてしまう。
「できた……」
「そう、あなたには才能があるわ、自分で心を閉ざしていただけ」
「次は風ね」
風は流れ
風はうつろい
風は夢
「風の球体!」
いつも見るより大きな球、近くの岩に投げ付ける。
切り裂くように空気が走り、岩を舞い上げ地が揺らぐ。
「凄い」
「呪文はきっかけを創るだけ、気持が届けば自然はお願いをきいてくれるわ」
「今度は水」
水は生命
水は煌き
水は友
「水の連弾!」
水飛沫を上げながら、水球が周囲を取り囲む。
近くの土塊に命中し飛散る。
「そして地」
地は慈しみ
地は囁き
地はこころ
「回復の花々!」
眼を開けば一面の花畑、吹き抜ける風にゆったりと揺れる。
「凄いなぁ。これはボクがやったこと?」
「貴方ではないのよ。自然がやることよ。自然がお願いを聞いてくれたの」
「ベル、感謝するね」
「大丈夫よ。もっと我儘でなくちゃ!」
「我儘でいいの?」
「魔法は我儘でないと発動しないの。いつもと違う自然をお願いするのだから」
藍色の瞳が笑顔の中で光る。
「魔法に自信がついたと思う。ベルのおかげ」
「気にしないで、貴方に教えるためにあそこに居たような気がするの」
「しかし」
「もういいわ、何も言わないで」
羽を震わせて、笑うベル
肩に座り、小さく口ずさむ。
いつも詠う妖精の詩
淡い香を包み込んだ風に乗せて、想念を運ぶ。
忘れないで わたしのこと
火が揺れるとき 思い出して
肌打つ温かさは こころをときめかせ
胸打つ鼓動は 想いを創造る
忘れないで わたしのこと
風が吹くとき 思い出して
うつろい行く夢は 木の葉をざわめかせ
梢をたたいて 水面を揺らす
刻む時は流れ行く水
早いもなく遅いもなく
いつまでも いつまでも
会うことと別れることは同じ
いつまでも 今の貴方でいて
忘れないで わたしのこと
緑の中で 思い出して
木漏れる日差しに 生命を煌かせ
愛しい想いを あなたにあげる
次回 「奥編 32:杏の里(その3)Villaggio di albicocca:terzo」




