旦那編 marito 32:遺跡の亡霊 Fantasma delle rovine
「ことねは、ジョルジュのケアを頼む。支援バフが切れるのは痛いからな」
「了解!」
「残り二人は、遠距離攻撃で叩き落としてくれ!」
「了解じゃ!」
「任せとき~」
元気な二人が応戦する。
「ワイの魔法を喰らえ~ 石の連弾!」
「回復の花々!」
はるっちの魔法で一面がお花畑になる。初めて見る地の回復魔法だ。
「このフィールドに乗っていれば回復が掛かるのじゃ。外に出んように!」
ジョルジュの演奏た途切れないように、庇いながらガーゴイルを叩き落す。
しかし数が多い。零距離で地の球を叩き付けて敵を消滅させる。
「いよいよワイの出番か。喰らってもらおうか、ワイの新技を」
「サブやん、頑張るです」
「あぁ、堅い信頼があるからこその技や」
「火山弾!」
周囲が地響きを立て、真っ赤な岩石が次々に噴き上がる。
岩石に当たったガーゴイルが弾かれながら墜落して行く。
「雑魚どもなんぞは、一捻りやぁ! くぁっはっは~」
「やりました~サブやん!!」
高らかな笑い声に黄色い声援が飛ぶ。
「何か最近のサブの幻影は能力アップしてない?」
「うむ。拙も噂で聞いたが、長い間一緒に戦闘を続けると育成されるというのぅ」
「にしても、サブのは異常に育ってる気がする。わたしたちの幻影はこんな反応しないよね」
「自分のノームとは全く違う反応だ。サブの一途な変態的愛情が育成を加速させてる気がする」
その時、地響きが起こり、地が割れ、地下への入口が現れる。
「なるほど、どうやら誘われているようだな」
「ワイの前に敵など居らん! 行くで」
「サブ! 焦ってはならんぞ」
はるっちの声を無視してほぃほぃ入って行く。
しゃーなぃと三人とも後に続く。
狭い入口を通過するとかなり広い部屋になっている。
中は暗くて先が良く見えない。
「灯!」
はるっちの魔法の灯りに部屋が照らし出される。
部屋の奥には大きな棺がある。長い間開いたことなどないように砂や埃が重なっている。
「む、吸血鬼か?」
「なら強敵だな。確認できればすぐに撤退だ」
いや、僕は吸血鬼じゃないよ
薄く、透き通った人が棺の上に現れる。
見た目は二十台後半のような男の姿
「死霊!」
そんなもんじゃないよ
祟ったりしない
単なる残留思念だよ
薄く掠れるような声で話しかけて来る。
ディアは、急に襲って来ることはないと判断したのか会話するようだ。
「遺跡で石像が動くという話があったのだが、あなたのせいかな?」
僕のせいかもしれないね
僕の魔力を感じてモンスターが集まって来たと思う
石像が動くというのはガーゴイルのせいじゃないかな?
聞き難い声だが、言ってることは良く分かる。
「自分たちは調査に来たんだが、ガーゴイルを追い出す方法はないのか?」
調査とは、ごくろうさま
僕が居なくなればモンスターも集まらないと思うけど
僕もどうやれば良いのか分からない
「ちょち聞かせて貰えへんか? 何か思い残すことがあるとか? 美人に見捨てられたとか?」
「サブじゃあるまいし! そんなことは……」
いや、そうかもしれない
長いこと、長い長い間、灰色の像と乾いた砂ばかり見て来たから
綺麗な人に葬られたいのかも
美しい踊りが見たいのかも
「そうか、それほど美人ではないが、拙がひとさし舞おう」
そう言って、はるっちはジョルジュに何か話し掛け、亡霊の前に静々と進み出る。
「灯!」
魔法の灯がはるっちを取り囲み、姿を浮かび上がらせる。
桜色の着物に朱の袴、いつもと違う立姿
「おいで」
その声に反応して、振袖姿の幻影が現れる。
和本を扇に持ち替える。
竪琴の和音に乗せて舞う。
月はおぼろに東山
霞む夜毎のかがり火に
夢もいざよう紅桜
しのぶ思いを振袖に
祇園恋しや だらりの帯よ
夏は河原の夕涼み
白い襟あしぼんぼりに
かくす涙の口紅も
燃えて身をやく大文字
祇園恋しや だらりの帯よ
鴨の河原の水やせて
咽ぶ瀬音に鐘の声
枯れた柳に秋風が
泣くよ今宵も夜もすがら
祇園恋しや だらりの帯よ
いつもと違うはるっちの姿に声もない。
麗しいね
そう、こういうのが見たかったのかも
ありがとう
亡霊は影が薄くなり、空間に溶けて行く。
「どうやら成仏してくれたようじゃの」
はるっちの声に、みんなは立ち竦むだけだった。
なんとか依頼達成で町へ戻る。
そして、ここは酒場小夜啼鳥
ジョルジュの新作叙事詩が披露されている。
題は “四人の勇者と芋虫の決戦„
…………
ここに二人の魔法の勇者が現れん!
女の魔法勇者、火の壁、火の絨毯で、芋虫を焼き払う!
男の魔法勇者には、可憐な妖精が添い、彼を称えん!
あなたこそと真の勇者、悪を打ち滅ぼす者
火の槍を振い、敵を貫く!
女の勇者、火の鎚鉾を握り締め
巨大な芋虫に向かい、高らかに宣す
汝、この世界に存在すべからず
我の力もて、冥府へ送り返さん!
…………
「えーと、こんな戦闘だった?」
「全く身に覚えがないことじゃな」
「実名が出てないことだけで良しとしようか」
おーぃジョルジュ脚色が過ぎるぞ~
歌い終わると割れんばかりの拍手の嵐
「こんなに受けるんかぃ?」
席に戻ったジョルジュを少々問い詰める。
「もう少し抑えて欲しかったな」
「全くじゃ、せめて勇者は止めて欲しかったのぅ」
「ワイはもっと派手でも一向に構わんと思うわ!」
「確かに事実に沿っているとは思うが、激しく誤解を招きそうだ」
ジョルジュは屈託なく笑う。
「町の住民は新作の冒険譚に飢えておりますからな」ポロロン♪
ポロロン♪やめぃ
*「祇園小唄」
作詞:長田幹彦、作曲:佐々紅華 映画「祇園小唄絵日傘」の主題歌、1930年(昭和5年)
著作権は消滅しておりますので、問題ないと判断しております。
次回 「奥編 27:マスター・スライム戦 La battaglia con master slime」