旦那編 marito 19:ひとつの別れ Addio a lei
「ことね!」
聞き覚えのある声に振返る。
希望の町神殿の南側、ちょうど装飾品を探しに行こうかと歩いている所だった。
「エド! 久しぶり~、元気そうだね! ミクはどうしたの?」
途惑うのか躊躇うのか、いつもと違う様子に不安を覚える。
「ミクさんね……退場しちゃったの」
「……えっ! ミクが? 何それ?」
聞くはずのない言葉に立ち竦む。真っ白になるってこんなことだろうか?
「気になるわよね。時間ある? それならゆっくり話すわ」
演劇の台詞を聞いているような現実感の無さ。ただ後を着いて行く。
近くの酒場の隅、向き合って座る。
温かいお茶をダブルで注文する。まだ昼だし
「そう、本当に運が悪かったのよ~」
淡々と話し出すエド――きっと彼も消化しきれていないのだろう。
「ちょっと前の話なのに、もう遠い出来事のような気がするわ」
二人は、希望の町に着いてからは順調だった。
安宿であったが、宿泊場所を確保し、連日臨時パーティを探して冒険者ギルドの依頼をこなしていた。
「順調過ぎたのね。気が緩んでいた……そう言うしかないわ」
ある日、気軽に依頼を受けた。
何度もやったものだったから、気にも留めずに選択した。
パーティを募集したが、たまたま誰も居なかった。
二人でも大丈夫だろうと出発した。
「あの判断が間違っていた。今はそう思う。でも、あの時は全くそんな気持ちはなかった。いつもの作業をこなすだけだと」
思い出すのを嫌がるように、ぽつぽつと言葉を選びながら話している。
「内容はブルスネークの歯を集めること。単に大きい蛇よね。気を付ければソロでも倒せるくらいよね。でも蛇の居る場所を探してたら、岩場に入って……そこにゴーレムがいたの」
ゴーレムは岩が集まって人型になったようなモンスターだ。
力は強いが動きが鈍いので、遠距離からちまちま攻撃すれば時間は掛かるが倒せる。
「あたしたちは前衛二人だから、攻撃するのが難しい。少しの間、どうすればいいか迷った。その時ゴーレムの攻撃が岩に当たって石の破片が降って来たの」
手を震わせて、かすれた声で続ける。
「石がミクさんに当たって倒れた所にゴーレムの拳が……」
咄嗟で何もできなかった。と
「“逃げて!„ それがミクさんの最後の言葉だった」
後は恐怖で逃げて逃げて、町に逃げ帰った。
「私は何をすれば良かったんだろう? 何ができたんだろう? 毎日そういう想いが頭を横切るの」
言葉が続かない。
聞く方もあった出来事とは思えない。エドの姿が遠くで霞んでいるような
「運が悪かった……そう思うしかないのよ……」
「あの人のことだから」
そう応えるしかない。
「そう、あの人のことだから、きっとこの世界に戻って来てると思うの。でも、あのキャラクタには会えないのよ」
ミク――あまりに早すぎるよ。
ミカエラ・アルムグレン退場、建国2年祈月25日(25/Preghiera/Auc.2)
次回 「旦那編 20:戦士への挽歌 Elegia per Michaela Armgren」




