旦那編 marito 60:囚われのお姫さま(その4)Damigella in pericolo:quarto
前回:なにやら不死者四人衆と戦う。
獅子頭のにぃさまとエドの戦いは続く。
両者とも力任せに武器を振う。剣と斧が激しく衝突する。
「しぶといわね~!」
「そっちこそだな」
接近すると武器だけではなく、空いてる手の拳や足技も出す。
「おーぃ、こっちは終わったから手伝おうか?」
「煩いわね! 一人で大丈夫よ」
「手を出す必要はなさそうですな」ポロロン♪
何度も打ち合って、体力勝負と思われた頃に、にぃさまの剣が折れ飛ぶ。
「まぁ、こうなるんと思ったんや」
「全く当然の結果ですな」ポロロン♪
剣と斧なら耐久力違うわな。
獅子頭にぃさまはあっさり降伏した。
「火の矢!」
「水の壁!」
曲者おじさんの火魔法を水で防ぐ。予想通り魔法剣士だ。同タイプだけになかなか決め手にならない。
ただ、こちらには薬剤とベスがある。
ベスの爪攻撃は何度か敵を捕らえ、浅いながらもダメを与えている。
「回復の花々!」
「風塵剤! 火の絨毯!」
回復させないように、薬剤で牽制しながら、火でフィールドを焼く。魔法と違い詠唱による遅れがないので牽制には有利だ。
「むぅ……」
次第におじさんの焦りが出て来る。
「ジリ貧かぃ? この辺で勝負する?」
“な~~~„
ベスの奇襲、ナイス!
敵が怯んだ隙に攻撃を掛ける。
「麻痺剤!」
動きが止まった瞬間に追撃
「風の束縛!」
よし、掛かった!
“な~な~な~~~~!„
ベスが咆哮を叩き付けて注意を引く。
「風の矢!」
数十本の風矢を放ち、その後ろから突っ込む。
“な~!„
ベスの爪攻撃に合わせて剣で突く!
「ぐぁぁぁ!」
手ごたえ十分!
「おじさん、意外に弱いね」
「ことねはん、お疲れ」
「時間かかりすぎよ~」
仲間の労いの言葉が嬉しい。
「治癒の歌! とりあえず回復しておきましょう」
ジョルジュを歌を聴きながら、みんなが勝ったことを再確認する。つぇ~なうちのパーティは
不死者たちが、最終関門と言ってたので、次はラスボスだろうな。
広間の奥に進み、そこにある扉を開ける。
「はははっ! 良くぞここまで来た!」
何か安っぽい声が聞こえる。
「誰?」
「ラスボスにしては貧相ですな」ポロロン♪
「誰が貧相なんだ!」
魔術師の帽子と黒っぽい魔術師の服を来た若い男が喚く。
「そうよね~全然強そうに見えないわ」
「腕輪はん、こいつ本当にラスボス?」
「ん~、何だか変。普通のキャラクタじゃないみたい」
あ、ひょっとして
「運営さん?」
それに反応して高らかに宣言を始める。
「ははははっ! 運営などとはケチくさい。我はこのエピソードを創造した神なり!」
「中二病?」
「だいぶ拗らせておりますな」ポロロン♪
「誰が中二病か! まぁいい、我を倒したら姫を解放しよう」
そうか、このインスタンスは “囚われのお姫さま„ だった。忘れてたよ。
「お~ぃ、はるっち聞こえるかぃ?」
「おぉ、早いのぅ。こちらは何の問題もない。まったりしておった処じゃ」
はるっちは大丈夫そうだ。
「おぃ中二病! お前を倒せばこのインスタンスはクリアなのかぃ?」
「煩い。誰が中二病だ。俺は開発だぞ!」
おーぃ素が出てるぞ。
「まぁ、よろしいではないですか。倒してしまえば良いのです」ポロロン♪
「そうよ。面倒なことは抜きよ」
エドが斧を構えて襲い掛かる。
「行きますか。戦いの歌!」
「おっしゃぁ! 火の槍!」
全員で一斉に攻撃する。
「無駄だ、無駄だ。物理も魔法も状態異常も効かぬ」
「ウザっ!」
「これはマズいな。無敵設定されていたら、どうしようもあらへん!」
困ったな、これじゃ埒が明かない。と思ったその時
「サブやん、少し待って」
「腕輪はん?」
幻影がふわふわと中二病に近付いて行く。
ポコっ! いきなり持っている杖で叩く。
「何でお前のが……」
「サブやん、無敵なのは冒険者に対してだけみたい」
ポコポコポコっ!
「ひょっとして――行けっ、ベス!」
“な~~~~~„
「な、なんだこれは!」
ベスに襲われて中二病は悲鳴をあげる。
「やってしまうのじゃ、小青!」
はるっちの傍に居た白蛇が首に巻き付いて締め上げる。
「おまぇら~、これはバグだ」
叫びまくる中二病……
「あーやっぱり、冒険者の攻撃を無効にしてただけか」
「なんとまた。幻影とパートナーは対象ではなかったと」ポロロン♪
「たくっ、開発のデバグにユーザー使うなよ」
「分かった。姫は解放する」
はるっちを閉じ込めていた扉が開く。
「やれやれじゃが、意外に早かったのぅ」
のんびりとした口調ではるっちが出て来る。
「さて……と。これでクリア?」
幻影とパートナーにボコボコにされた中二病に話掛ける。
「分かった、分かった。インスタンス・クリアだ。まさかこんなバグがあるとは」
「おや? 報酬も何もなしかぃ?」
「デバグに付き合ったのです。何もないとは思いませんが」ポロロン♪
「そうじゃのぅ、正規に運営通報したらどうなるかのう?」
「待ってくれ」
中二病は焦りまくって応える。
「それなりものもは渡す。しかし、ゲーム・バランス崩すようなものは勘弁してくれ。それと、市場に流れては困るので、専用装備にしてくれ」
しようがないか、チートレベルものを貰っては、ゲームの目的である研究そのものが崩壊する。
「しょうがないわね。まぁ楽しく遊んでるから、それくらいでいいわ」
みんなの前に薄黄色に光る腕輪が現れる。
「オリハルコンの腕輪だ。右手に装備してくれ、それで他人には譲れない専用装備となる。能力は全属性に対する攻撃・防御能力が向上する」
洒落た意匠の装飾品、右手に装備すると見栄えもなかなかだ。
「それから、全員に “パートナーは友達„ の略綬を付与する。これでパートナーとの連携が向上するはずだ」
左胸にある略綬一覧の中に、花萌葱と薄緑の模様の入った略綬が追加される。
「サブやん、素敵ですぅ~」
「腕輪はん、これでますます楽しくなるやろう」
「はぃ~、絆が一層深まりますぅ~」
ふと気付いて中二病に問いかける。
「んで、この幻影についてだけど。知ってること教えて!」
「そうじゃ、サブの幻影は何か特別なのか?」
有無を言わせず迫る。
「詳細は勘弁してくれ、簡単に言うと幻影システムを開発していたときのテスト用の一体だ」
「詳しいな」
「プロジェクトに入っていたからな」
「ほぅ、何でまたそんなものが、実装されたのじゃ?」
「コードネーム “ムーサ„ と呼ばれていたうちの一体だ。何でテストコードが実装されているかは俺にも分からん。これ以上は聞かないでくれ」
「おぃ、まさかとは思うが、腕輪はんを取り上げたら、現実で会社に殴り込むぞ! 分かっとるだろうな!」
「それは俺には出来ん。実装されているデータは運営側の責任だ。開発は手を出せん」
「チクったりせんよな!」
サブ、怖いわ!
「今日のことが変に伝わると開発側の立場が悪くなる。そんなことは出来ん」
「まぁ、この辺で解放してやろうよ。みんないいよね」
「有難い。確かにテストのような形で付き合わせたのは悪かった。今後こんなことはしない。そっちのパーティの健闘を祈る」
アホの中二病は脱出して行った。
生命の腕輪の効果音が鳴り響き、仮想画面に表示が現れる。
“インスタンス・クリア:囚われのお姫さま„
やれやれ、何とかクリアした。
とんだ中二病に巻き込まれたけど、結果オーライかな。
次回「奥編 moglie 56:闘技場 Colosseum」




