旦那編 marito 59:囚われのお姫さま(その3)Damigella in pericolo:terzo
前回:はるっちを救いに迷路を進む。
入った部屋は広かった。
大き目の不死者が四体。
「勇者たちよ、ここが最終関門だ。覚悟はいいか?」
真ん中あたりに居た顔が牛で身体が人間、ミノタウロス風の不死者が語りかけて来る。
では応えてあげよう!
「話は分かった。四対四のタイマン勝負?」
「そのとおり、そちらが勝ち越せば捕らえた姫の所へ案内しよう」
「勝負は敗北宣言させればいいの? それとも殲滅?」
「宣言すれば良い。こちらも敵わないと判断すれば敗北宣言する」
「殺し合わなくてもいいのね。分かった。準備できるまで待って」
「我らは正々堂々と戦う所存、存分に準備召されい」
「さて、どうしよう。ジョルジュ、一対一で大丈夫?」
「ご心配なく。普段は支援に徹していますが、戦闘も問題ないことをお見せします」ポロロン♪
敵は左から、杖を持ったやや小柄の爺さま。魔法系かなぁ
二番目が、獅子の頭に人の身体、がっちりにぃさん。ぜって~物理系だな。
三番目が、ミノタウロスのおっさん。まぁ脳筋タイプでしょ
四番目が、人間の姿だけど曲者のような気がする。こいつが一番危険かも
「じゃぁ、一番左のがジョルジュ担当、二番目をエドお願い」
「了解ですな」ポロロン♪
「分かったわ~、直ぐ済むわよ!」
「ミノが私で―-」
「待ちぃや! ボスはワイがぶっ倒す」
「いいの?」
「任しとき! どうもこいつは気に入らんからボロボロにしたる!」
「まぁ……任せた。わたしは一番右ね」
それぞれ前に進み出る。
「決まったようだな。それでは始めよう」
戦闘開始だ!
「牛頭! ボコボコにしたるから、敗北宣言とかするなよ」
「ほう、元気が良いな。武器は持たずとも良いのか?」
「ワイは魔法だけで十分や! 火の槍!」
火が槍の形をとって敵に真直ぐ向かう。
「ふっ、笑止」
ミノタウロスのおっさんは左手で魔法の槍を受ける。火が吸い込まれるように消える。
「サブやん、敵は火!」
「分かっとるわぃ。水の加護! 水纏い!」
水属性の結界を張り、両手に水属性を付けて対峙する。
「さぁて勝負や! 降雨!」
「儂の相手は吟遊詩人か。戦えるのか?」
「竪琴の恐ろしさをたっぷり教えてあげます」ポロロン♪
ジョルジュは、あまり聞いたことのない歌を演奏する。
「これは?」
杖を持った爺さまが当惑する。
「幻惑の歌です。いかがですか?」
「むぅ……」
「小拙の居る場所すら判別できませんね」
「この上は……」
「ダメですよ。不協和音!」
「こ、この音は?」
「気に障る音なのであまり使いたくないのですが、集中出来ないはずです。これで魔法発動は完全に抑えられましたね」ポロロン♪
「では、真っ向勝負で行くわよ! 獅子頭!」
「望む処だ!」
獅子頭のにぃさまは、手に持つ剣でエドの先制攻撃をがっちり受け止める。
「なかなかやるわね。オランダシシガシラ!」
「俺は金魚ではないのだが」
「金魚並みに三枚に下ろしてやるわ!」
「どちらが下ろされるか、試してみるか?」
獅子頭にぃさまの激しい攻撃を斧で巧みに避けて行く。
心配はなさそうだ。
「さて、がっつり行こうか?」
「なかなか自信家だな。私に勝てるのか?」
曲者おじさんは自信ありそうだな。
「ま、手強そうだとは思うが。行けっベス!」
“な~~„
「パートナーとは卑怯なり」
「こんな時に卑怯とかあるかぃ! 勝利優先」
ベスに気を取られた瞬間に仕掛ける。
「麻痺剤!」
黄色の液体が飛散り、敵の動きが一瞬だが止まる。よし、効き目はあるな。
「火の矢!」
小手調べと放った十数本の矢が火を纏いながら敵に襲い掛かる。
しかし手応えが薄い。
「おじさん、水属性かぃ?」
「ふっ、まぁそんなところだ」
「分かったよ。遠慮せずに行こう! 風の加護! 風纏い!」
「ほう、なかなか器用な技を使うな。石の連弾!」
「おっと、そう来るか。解除!」
石礫の連続攻撃を避けながら、結界を解除する。
「防御に属性はできないみたいだな。無属性でお相手しようか」
ディアから貰った剣を構え直す。
「氷の槍!」
「なんの!」
サブの数十本の氷の槍を幅広の剣が弾き飛ばす。
「おぅりゃぁ!」
ミノタウロスのおっさんの剣が振り下ろされる。
「ほぃっと!」
サブが軽く飛んで避ける。
「なかなか手強いな。
「サブやん、あれしかなさそう」
「せやな」
「ほう、どんなものか見せて貰おうか」
おっさんは楽しそうに笑う。
「行くで~! 青い波!」
「笑止、その程度か」
真向から振り下ろされた剣が青い水を切り裂く。
「おっしゃぁ! 粘球!」
「ぐっ!」
丸い水球がミノタウロスの顔面に張り付く。
「どや、呼吸が出来んやろ」
ミノのおっさんは張り付いた粘液を引き剥がそうと喘ぐ。
「この厄介な!」
力任せに振り解く。
「なかなかやな。次のは防げるのかな?」
床一面に水が拡がる。おっさんの苦しむ隙に仕込みがあったらしい。
「この水は?」
幻影がミノの周囲を飛び回り、それに合わせるように粘性の強い水が脚に絡み付き、次第に身体全体は這い上がって来る。
「粘水でたっぷりの塩加減や、粘膜に塩が沁み込むとどうなるかな?」
「なんと……」
言う間にも、粘性の塩水がおっさんの身体中に絡み付く。
「さっきと違って水の量は十分や。振り解くのは大変と思うで」
塩水は顔にも絡み付き、口からも鼻からも侵入する。
おっさんは転がり回って苦む。
「さて、降参か? そうでなければそのまま昇天やな」
ミノさん、声も出せずに手を挙げて勝負を放棄する。
「脆いのぅ、うちのパーティはこんなんじゃギブアップせんわ!」
「サブやんが強いのです!」
「腕輪はん、もっと褒めて!」
ミノタウロスのおっさんは、そのまま消えて行く。
「おや? 反撃もできませんか? 少々役不足ではありませんかな?」ポロロン♪
爺さまは膝をついて両手で耳を塞ぐ。
「それくらいでは防げませんよ」
「相性が悪かった――お前の攻撃は魔導士にしか効くまい」
呻くように声を絞り出す。
「おや、戦士用には別の対策がありますよ。音は動物にとって重要なもの、そこを狙われると意外に弱いもの、平衡感覚すら失いかねませんよ」
爺さま、もう言い返すこともできないらしい。
「それでは止めと行きましょうか。精神汚染!」
「ぐぁぁぁ!」
爺さまは声を上げて痙攣し始める。
「脆すぎです。小拙のパーティならこれくらいで倒れたりはしませんな」ポロロン♪
爺さまはゆっくりと消えて行く。
次回「旦那編 marito 60:囚われのお姫さま(その4)Damigella in pericolo:quarto」
戦闘を書いてたら長くなってしまいました。その3でエピソード終了の予定だったんですが……orz




