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奥編 moglie 54:月毛 Palomino

前回:砦に救援に行った。

 魔族たちと冒険者の集団が向かい合う。

 魔族といっても大半は魔族化したモンスターたちだ。通常のモンスターよりパワーアップしているので、そうとう注意が必要だ。

「ゲッツ、挑発(プロヴォカツィオーネ)は使うな。敵が多過ぎる」

「了解だ」

 サヤの言葉にゲッツは前に出て盾になる。

 作戦は簡単だ。魔族に対して戦いながら少しずつ後退し、砦から引き離す。隙を見て予備部隊を砦に突入させ、救援を行う。砦が持ち堪えれば魔族たちは退却するだろうとの見通しだ。


 遠距離職たちが攻撃し、敵の襲撃を前衛が抑えつつ、ゆっくり後退して行く。

 特に攻撃距離の長い弓を持つサヤの役目は大きい。

「とにかく正面の敵を叩け、他は無視して良い! 長期戦だから魔法は控えながらだ」

 サヤは指揮しながら、連続で矢を放つ。

「敵は無属性のようだ。属性気にせず叩くのが優先だ」

「了解です。回復優先しますね。治癒の聖風ヴェント・サント・ディ・グァリジオーネ!」

 ルシアは落ち着いた様子でカードを投げ続ける。時折、カードが炸裂して火の塊が跳ね、魔族を叩き落とす。

 ボクはスリングショットに炸裂弾で対応する。薬剤(ポツィオーネ)(トラッポラ)は節約するけど、敵の集中攻撃には対処するしかない。全体的には上手く行ってるようだけど被害は出ているようだ。退場者が出ないといいけど。

「黄蘭、ゲッツ優先で敵を抑えて!」

 “こん„

 一言吠えて、狐火をゲッツの周囲に展開させる。

「これは良いな。敵が嫌がる」

 敵は狐火を嫌がり、避けるようにしてゲッツに向かう。方向が限定されるので対処しやすい。

 黄蘭の狐火はどうも正体不明だ。

浦波(うらなみ)!」

 ルシアの大技が飛ぶ。二十枚以上のカードが地面スレスレを這うように突き進み、敵の集団に真下から噴き上げるように炸裂する。

 敵の一角がごっそり吹っ飛ぶ。すごぃなぁ……味方で良かった。


 魔族の攻撃は激しく、こちらもピンチ続きだ。

 その度に、ルシアの巧みなカード捌きとアルジェの打撃力に救われる。

 コーリは防御・回復魔法で手一杯になっている。

 全体に疲労して来ている。もう遠慮してはいられないので、麻痺剤ポツィオーネ・ディ・パラーリジの連打になる。効果高いけど、これ値段も高いんだよな。

 その時、予備部隊の突入する声が聞こえる。

 よし、やった! と思ったが、そこでサヤの声!

「気を許すな! 状況が変わった時こそ危険だ」

「了解です! 回復の花々フィオーリ・グァレンテ!」

 コーリが辺りに回復フィールドを展開する。

 うちは何とか乗り切ったが、直ぐ左の冒険者の所が決壊する。

 薬剤ポツィオーネをまとめて放る。色彩豊かな液体が飛散ったが、騎乗していた前衛の戦士が落馬する。

 魔族たちの攻撃が集中する。

真一文字(レッタ)!」

 サヤの命令にアルジェが飛ぶ。魔族数体が弾け飛ぶが、敵の攻撃は治まらない。

 隣のパーティは混乱して、撤退するしかなさそうだ。何か叫んでいたようだけど、周囲の音に掻き消された。

「ルシア、前を抑えてくれ!」

「りょうかぃ……大盾(スク―ド)! 山颪(やまおろし)!」

 カードが展開され敵を抑えると同時に、横一列になったカードが襲い掛かる。

 ルシアのスキル群は、こういう多数との戦いには威力が大きい。

炎の壁ムーロ・ディ・フィアンマ!」

 コーリの防御魔法が幾重にも置かれ、敵を牽制する。

 サヤの矢が味方の戦士を襲っている魔族を叩き落し、その隙にゲッツが走り寄る。

「大丈夫か? 直ぐに撤退する」

 騎乗していた馬が傍まで寄って来る。

「すまん。しかしもう無理のようだ。後は頼む」

「あきらめるな!」

「無念だ。この馬を――名を放生(ほうしょう)と云う。頼んだ……ぞ」

 彼の姿は黄色の光で弾けて消えて行く。退場者を目の前で見るのは初めてだ。

 残されたのは、一頭の馬。淡い黄色の毛並

 そうか、この馬――ここまで乗せてくれた、あの馬かぁ

「ゲッツ! 迷ってる暇はない。騎乗して戦え!」

 サヤが檄を飛ばす。

「すまん。誰かは知らぬが借り受ける」

 ゲッツは騎乗して前線に戻る。

 戦闘(バッターリア)は、まだ続く。


 激闘は三刻は続いた。

 砦は何とか持ち堪え、魔族たちは撤退して行った。

 魔族が集団で襲うとは、砦が縄張りを荒らしたということなのだろうか。

 ボクたちには分からない。何かゲーム上でのストーリーがあるのだろうか? 

 まぁ、考えても分からないものはしようがない。

 

 救援隊は一部を砦に残して引き上げることになった。

 行動自体は各パーティに任される。この辺での野宿(カンペッジョ)も面倒なので、夜行軍してでも街に戻ることにした。

 周囲に目を慣らすため、灯は極力抑え、ゆっくり進む。いくつかのパーティも近くを歩いているようだ。

 ゲッツは騎乗しながら何かを考えている。

 馬の持主が退場したから、気持ちは分かるけど。深刻になり過ぎても、と思って話し掛ける。

「綺麗な毛並の馬だね」

「あぁ、良い馬だ。言うことをきくし、戦い慣れてもいる」

「そうなんだ」

「俺には勿体なさ過ぎるな……」

「これは月毛(つきげ)だな」

 サヤが毛並に軽く触りながら言う。

「そうですね。でも普通はもう少し薄い色のような気がします。この子は黄色味が強いです」

「ルシアさん、詳しいですね」

「あ、まぁ――現実(レアーレ)では馬が走るのを良く見てましたから」

「なるほどですね」

 コーリが楽しそうに笑う。

「しかし、放生(ほうしょう)か、どこかで聞いたような気がするのだが」

「少なくとも、競馬馬(カバッロ・ダ・コルサ)の名ではないですね」

 ゲッツが馬上から、ぽつりと漏らす。

「しかし俺はあの方の名前も聞かなかった」

「託されたのですよ。ゲッツさん、可愛がるのが供養です」

「そうだぞ、ゲッツ。それに騎乗していれば、知っている人が教えてくれるかもしれん」

 みんなから声を掛けられ、自分を納得させるように言う。

「そうだな。大事に預かるのも務めかもしれん。そう思うことにしよう」

次回「奥編 moglie 54:月毛 Palomino」

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