奥編 moglie 52:壁画(その2)Murale:secondo
前回:壁画のある部屋で牛と蛇との戦闘を行った。
蠍は鋏を構え、尻尾を高く上げて威嚇して来る。
「絶対、毒持ちですよね」
「見掛けと違い、蜘蛛に近いらしいな」
「こんな時に、冷静な生物講義ありがとうです」
コーリの話にサヤが落ち着いて応える。
「まぁ、片付けるしかあるまぃ」
ゲッツが、ゆっくり前に出て、槍と盾を構える。
「これも地属性ですか? 属性・貨幣!」
ルシアはカードを地属性にして投げ付ける。蠍に命中したカードは表面で弾かれる。
「ん、火属性のようです」
「了解、水纏い!」
「分かりました。水の加護!」
ボクとコーリで結界を張る。
攻撃された蠍が怒ったように尻尾を振る。
「敵もその気らしい。やるぞ!」
「分かった。蠍退治といくか」
サヤの声に、ゲッツが前に進みアルジェがふわりと宙に舞う。
黄蘭がボクの肩の上で狐火を展開させ始める。
「おうりゃぁ!」
「急降下!」
戦闘開始だ。
「むぅ、尻尾が面倒だな!」
蠍の両鋏と尻尾のトリプル攻撃を捌きながら、ゲッツが言う。
「ルシアは脚を狙え! コーリはゲッツの支援を、後は尻尾を集中攻撃だ」
「了解です。属性・杯!」
カードの連続攻撃が蠍の脚を切り刻む。攻撃距離は弓に劣るが攻撃速度は上回る。しかも微妙に炸裂して関節に打撃を与える。
こちらはスリング・ショットで尻尾を狙う。そろそろショット用の弾を工夫する必要がありそうだ。
ゲッツは蠍が振り回す尻尾を上手く躱しているが、やはり掠ることもあるので、解毒剤を使用して、その都度解毒する。
外皮は装甲のようになっていて、削るのに時間が掛かったが、蠍の脚が飛ばされる度に動きが鈍くなる。
「車輪!」
ルシアの必殺スキルで尻尾を叩き落とし、勝負は決まった。
「シャボン玉!」
「螺旋!」
後は集中攻撃で鋏を飛ばし、止めを刺す。
「ふむ、お代わりのようだな」
左側の壁から残りのもう一体が現れる。大きな片手鎚を持った怪人だ。
いくら攻撃を重ねても、なかなかダメージを表さない非常にしぶとい相手だったが、距離を取って戦えるので集中攻撃はやりやすかった。
黄蘭の幻術も効果が高かったようで、度々敵の攻撃が外れる。目立たないが意外に効く。やはり戦闘は、色々な方向から考えないといけない。これから強敵が出て来るはずなので対策は必要だ。
アルジェは強い。敵からの反撃がほとんど当たらない。隼は地面に叩き落されると弱いが、飛んでる時には無敵に近い。襲い掛かる度に敵が怯むのが良く分かる。レンタルで使っていた隼とは格が違うと言う、サヤの言葉に実感が伴う。
そうしてみるとゲッツの騎乗パートナーは急務だと思う。前衛の機動力が更に必要だと思う。
「そりゃあ! 刺突」
ゲッツの槍捌きはいつも見事だ。
「太刀風!」
ルシアの投げ上げるカードが、舞い上がるように怪人を切り裂き、怪人が倒れる。
「これで前座はおしまいか、いよいよ親玉かな」
前方の壁が細かく震え、壁画の悪魔がそのままの姿で抜け出して来る。
「ほう、結構な大物だな」
ゲッツが薄笑いを浮かべる。
「なかなかの冒険者のようだな」
「話が出来るとは、魔物の格は高そうだな」
悪魔の話に、サヤが応じる。
「では、少々であるが、諸君たちの実力を試させて貰おうか」
悪魔の声に、全員が身構える。
“こん„
肩に居た黄蘭が一鳴きして、空中に飛び。そのまま真直ぐ悪魔へと向かう。
「ほぅ、変わった奴がいるな」
悪魔の眼前で豊かな尻尾を振り、首を傾げながら低く唸る。
「ははっ! そうか」
悪魔は笑ってこちらを見る。
「われに向かうとは、なかなか健気よな」
「まぁ、逃げられそうもなく、他に取る方法もないしな」
サヤが言い返す。
アルジェが左肩から舞い上がり、サヤを守るかのように翼を拡げる。
「なかなか気の強いのが居るな。まぁよかろう、今日の所は勝負は預かりだ」
見逃してくれるということか?
悪魔は、ルシアを見て言う。
「そこの奴、カード・デッキを持っていたな」
「あたしですが、何か?」
いつもと同じ声で淡々と答える。
「名は?」
「ルシア・ガライ=パペル」
「ふむ、パペルとはな。カードを持つには相応しいかもしれん」
悪魔は楽しそうだ。
「よかろう、ぬしにはこれをやろう」
悪魔の手から一枚のカードが浮き出し、ゆっくり動き出し、ルシアの前まで来る。
「これは?」
ルシアの手の中にふわりと落ちる。
「まだ、そのカードは持っていないのだろう。有効に使うが良い」
「確かに――でも、よろしいのですか?」
「ぬしらの健闘を期待する。また会おう」
そう云い放つと、悪魔は壁の中に消えて行く。
「正直、連戦で消耗していたから、助かった」
サヤは溜息を吐く。
「ルシア、それは?」
ルシアがじっと見つめる持つカードには、悪魔と二人の人物の絵と “XV Diavolo„ の文字
「大アルカナの一枚ですね」
珍しく気持ちを露わにして、熱っぽく語る。
「憎悪、嫉妬、堕落、束縛、破滅などの象徴です。しかしそれらを捨て去り逆転すれば、解放され新たな回帰を示します。常に善悪は裏表なのです」
次回「奥編 moglie 53:急襲 Incursione」




