旦那編 marito 54:森の綾衣 Saia di foresta
前回:インスタンス:波の子守唄をクリアした。
「ふっ、ふふふふふふっ」
目の前の美しい女性が不気味に微笑む。
「これを、何処で?」
彼女が持っているのは “森の綾衣„
依頼 “森の恩恵„ でお化けワラビさんからドロップしたアイテム、様々な緑が散りばめられたとても綺麗な布だ。
持っている本人は、女性吟遊詩人の ベアトリッツ・デ・ディアさん
「えと、依頼のドロップ品なのですが、どこかで仕立てくれる処はないかと」
「私が買取ますよ! もちろんそれなりのものはお出しします」
ご、強引やなぁ……
「そのアイテムは一人ひとつ持ってますので、交渉は個人的にお願いします。私としては、仕立てる処を紹介して欲しいのですが……」
「ディアさまのご所望なら仕方がございませんな」
「ジョルジュ、いいの?」
「あたしも、戦闘に強い装飾品でしたら」
結局、ジョルジュとエドの分を渡して、見返りを貰うことになった。
で、さすがに有名人の紹介の威力は凄まじく、街中央の塀の北側にある高級品商店でで仕立てた。
数日はかかるというので、これはお休みだね。
各人で行動する。わたしはベスと遊んでいたよ!
できあがった装備品は、期待通りだった。
わたしは、装備品の裏地にして、魔法防御が跳ね上がった。しかも状態異常対策にもなるらしい。とても良いものが出来た。ついでに、ベスの首輪を造って貰った。魔法防御性能は上々だし、緑の首輪は良く似合う。
はるっちは、着物と袴を仕立てた。緑の柄が可愛い感じだ。
サブは、自分の防具に付加し、幻影用の装備も造って貰ったらしい。そんなことができるんかぃ?
これで、生命の腕輪に入っていた “森の綾衣„ が使えるようになった。
ベアトリッツさんの演奏会を覗かせて貰った。
街の東側、神殿のある少し南、大きな劇場がある。さすがに満席なので、隅の立ち見でこっそり見る。
ベスはお留守番、パートナーを連れて来てはいけないらしい。まぁそうだろうな。
エドとサブは、こういうのは苦手らしく、不参加となった。
「いずれはこういう所で演奏会を開きたいものですな」
ジョルジュはいろいろ感じているみたいだ。
「確かに、聴衆も多いし舞台も立派だけど、観客の雰囲気が全然違うね」
「そうじゃのぅ、何だか普通の冒険者とは根本的に違うような気がする」
違和感がずっと付きまとっていた。
打ち上げパーティの席で、この街の上流階級たちと話すことなる。
劇場の中に専用のパーティ会場がある。広い会場で用意されていたものも豪華だ。
ベアトリッツさんは、もちろんパーティの中心で、“森の綾衣„ で仕立てたドレスを着ていた。
とても目立つなぁ……
はるっちも “森の綾衣„ の着物を着ていたんだけど、注目はされなかった。まぁ著名度の差だろう。
ここの上流階級は二種類ある。
成功した冒険者たちと、聖職者たちだ。
「この世界は神が動かして居ります。もちろん世界を創造し、毎日を動かしているのは運営ですが、我々が指導して秩序を保たなければなりません。神はその方向と道程を守っております」
ここに居た聖職者の言葉だが、とても胡散臭く感じる。
なぜなら、運営の第一の目的は冒険者たちの行動研究のはず、意図的な誘導はないはず、この世界の宗教は何か意図がありそうだ。大きな血盟の一種と考えて居た方が良さそうだ。
冒険者たちも、これまで見て来た人たちとはかなり毛並が違う。
だいたいは戦闘指向が多く、冒険をして強くなるのを目的としているけど、ここの人たちは煌びやかな装備を身に着けて、権力指向のような気がする。
本当の実力のある冒険者はもっと地味に戦い続けていると思う。
建国3年錆月2日(2/Ruggine/Auc.3)
“腕試しの階段„ も第十ステップを突破した。
そろそろ、塔にも低階層なら入れるくらいの実力も付いて来た。
少しずつではあるが、前に進み出す。
次回「旦那編 marito 55:白い蛇 Serpente bianca」




