奥編 moglie 50:カード使い Cartaia
前回:サヤはアルジェをパートナーにした。
「杖!」
属性を付与されたカードが飛ぶ。
「破裂!」
カードから炎が湧き上がり、近くの植物型モンスターが吹き飛ばされる。
「盾!」
複数のカードをスクリーン状に並べて敵の突進を阻む。
これまで見たことのない不思議なスキルだ。
今日は、パーティに冒険者をひとり勧誘して、“腕試しの荒野„ に来ている。
投げるカードの距離は矢を射るほど長くはないが、カード自体が相手を切り裂き、また敵の中で魔法を炸裂させることもできる。なんとも便利なスキルになっている。
その娘は、ルシア・ガライ=パペル (Lucia・Garai=Papel) と名乗った。
黒っぽい上下に、焦茶のフード付コート、左手にカード・デッキを持つ。
鳶色の髪、緑の瞳、フードを深く被ると占い師の雰囲気がある。
その日の夜、野宿で自分のことを話してくれた。
囁くように話しても良く耳に通る、軽く優しい声の響き。魅了されてしまいそうだ。
“喋るのはあまり得意ではありません„ と言いつつ長い話となった。
「何故か世界に来た時から、カード・デッキを持っていました。今まで同じような武器を使っている人に出会ってません。装備店にも全く売っていません。トランプ占いが大好きだったので、たまたまそうなったのかもしれませんね。
最初は何のカードなのか、武器ということすら気付きませんでした。トランプに似てるけど違う意匠で、何だろうと思って毎日眺めてました。
でも、みんな強い武器を使ってどんどん強くなるのに、自分は何も出来なくって、哀しかったです。毎日、朝焼けの村の片隅に座ってました。占いができないかな? と調べたんですが、村には資料が全くありませんでした。
ある日、もう忘れるくらい前、カードで手を切ってしまいました。直ぐに回復剤で治療したんですが、“これって武器じゃね?„ って気が付きました。
それから、いくつかのパーティにお願いして戦闘をしました。その時初めて投げれば物理攻撃になることが分かりました。面白くなって毎日狩りをしました。そのうちにだんだん遠くまで投げられるようになりました。投げてもカードは減りません。本当に無限に投げられそうです。
ある時、一人の冒険者から、タロット・カードだと言われました。その人は趣味だったらしく色々教えて貰いました。
タロット・カードって本当はデッキ全体で78種類あるらしいです。でも私のは56種類しかありません。アルカナと言って、大と小があるのですが、私のには小しかありません。
占うには大アルカナのカードが必要らしいのですが、入手方法が分かりません。大きな街に行けば何か手掛りがあると思って、強くなろうと頑張りました。
夢を求める町で、カードと属性が関係あると教えて貰えました。
杖のマークが♣にあたり火、剣は♠で風、杯は♥で水、貨幣は♦で地
それでカードに属性を付与することができるようになりました。威力が跳ね上がりましたね。
その後、強くなるのに時間がかかりましたが、やっと “冒険者の集う街„ に辿り着きました。
この街にはタロット占いについての資料はありましたが、戦うための情報は全くありません。現実も同じですね。
カードを破裂させたり、盾にできるようになったのは、本当につい最近です。手探りでやって行くしかありません。
はぁ~、疲れました。こんなに長く喋ったのは久しぶりです」
ルシアはにこにこ笑いながら話てくれる。
「話は良く分かった。でも何故うちのパーティに参加を?」
「それは」
ルシアはアルジェの方を見ながら笑う。
「鳥さんが可愛かったので、近くで良く眺めてみたかったんです」
「アルジェ、お前は人気者らしいぞ」
“く~„
サヤは、ゆっくりお茶を飲みながら、みんなの顔を見て行く。
ゲッツもコーリも頷く。もちろんボクもだ。
「ルシア、無理にとは言わないが」
サヤは誘うことに決めたらしい。
「しばらく、わたしたちと一緒に行動しないか? この辺の敵はかなり強い。うちは回復役が居るので安全になると思うし、前衛も遊撃も居る。こちらも魔法を使えるストライカーが欲しい所だった」
ルシアは首を傾げて少し考えたが頷きながら応える。
「コミュ障なんですけど、それでも良ければ」
「ちょうど、わたしたちの住んでいる所が一部屋空いている。そちらへ来てもらえれば嬉しいのだが」
「良いのですか? 安心して住める所があるのはいいですね」
「おう! 歓迎するぞ」
こうしてボクたちは新しい仲間を得る。気が合えばいいな!
次回:「旦那編 marito 51:幻影たち Visioni」




