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奥編 moglie 48:サヤの友 Una amica di Saya

前回:ベテランの鷹匠さんとサヤのパートナーを探す。

 ベテランの鷹匠(たかじょう)と思われる、ゆうきさんが連れて行ってくれた場所は、緑の芝生が一面に広がり、所々に木がある小高い丘陵だった。

 山頂付近に一本の木がある。そして、確かに猛禽類と思われる鳥が蒼空の中を飛んでいる。

「ここだ」

 ゆうきさんが、木の近くを示す。

「ここですか?」

 サヤが確認するように言う。

「そうだ。ここで待っていると、お前に興味のある鷹や隼がこの枝にやって来る。後は見合うだけだな」

「分かりました」

「いつやって来るか分からん。椅子にでも座った方が良いぞ」

「いえ、迎えるのですから、立って待ちます」

「そうか、好きにすると良い」


 サヤは立ち続ける。

 近くに野宿(カンペッジョ)を用意して長期滞在に備える。

 さすがに夜は鳥が来ないのでテントで休むことになる。

 

 食事は自炊で準備した。

 ゆうきさんの分まで用意したけど、時々肉とか差し入れてくれたから問題はない。

 先が見えない中の野宿(カンペッジョ)だから、日に日に宿泊状況が充実して来た。まぁ暇だったせいもあるけどね。

「いつ頃までかかるでしょう?」

 ゆうきさんに尋ねてみる。

「さあな。こればかりは分からん。相性に依るとしか言えん」


 サヤは明るい間は毎日立ち続けた。

 時折、鳥が降りて来るが気が合わないらしく、そのうち飛び去ってしまう。

 まぁ急ぐことではないと、交代で狩りに行く。ゆうきさんも、時々鷹を連れて何処かへと行っていた。


 何日経ったろうか、ある日珍しく枝に三羽の鳥が止まっていて、サヤと見合っている。

 気の合う鳥が居ればいいなと見ていたら、運命(フォルトゥーナ)が来る。

 真っ白な隼が、木に止まっている鷹を押しのけて舞い降りて来る。追い払われた鷹は飛び去って行った。

 隼はじっとサヤを見ているようだ。サヤも見つめ続けている。

 いつまでも動かないので、心配して見ていたら、ゆうきさんに言われてしまった。

「放っておけ、気の済むまで見合ってるだろうよ」

 仕方がないので、お茶を湧かすことにする。

 何度見ても、ずっと見合っている。


 一刻も経ったろうか?

 隼はふわりと舞い上がり、サヤの左肩に止まる。

 サヤはそのままじっと佇んでいる。

 声を掛け辛い。でも鷹匠さんは気楽に話し掛ける。

「うまくいったようだな」

「あ、はぃ――ありがとうございます」

 ホッとして近づき、隼を観察してみる。白地に背中と羽に薄い銀色の斑点が並ぶ。

「これは珍しい。シロハヤブサだと思うが、普通は斑点が黒なのだが……」

「珍しいのですか?」

「あぁ、こういう銀色のは初めて見るな。しかも雌のようだ」

 鷹匠さんが手を伸ばすと、隼は見返すように首を振る。

「はははっ! 気の強い娘だ。俺を威嚇しているな」

「あの」と聞いてみる。

「もう大丈夫なんですか?」

「大丈夫というか、もう主人を守ろうとしている。余ほど気に入られたようだぞ」

 “く~~~„

 少し甲高い声で鳴く。

「隼ってこんな声で鳴くんですね」

「あぁ、普通の人間はあまり聞いたことがないかもしれんな」

 ゆうきさんは、サヤに声を掛ける。

「名前を付けてやれ」

「はぃ、アルジェンタにします」

 決めていたのだろうか? サヤは即答する。 

「アルジェと呼ぶ。いいな?」

 “く~~„ と首を擦り付けるようにして鳴く。

「それでは、俺はお役御免だ」

 立ち去ろうとするゆうきさんにサヤが言う。

「あの、お礼を」

「俺は、お前が鷹匠たかじょうになるまでの約束だ。後は好きにやれ!」

「どちらへ?」

「まぁ、適当だ」

 ゆうきさん、本当に何処かへ行ってしまった。

 何だか不思議な人だ。高レベルになるとあんな人たちが増えて来るのだろうか?


 しばらくして、狩に行っていたゲッツとコーリが帰って来る。

「あ、上手くいったのですね。おめでとうございます!」

 コーリが、直ぐに隼を見つけて喜ぶ。

「ありがとう。アルジェだ。よろしく頼む」

「おぉ、なかなか精悍だな。頼りになりそうだ」

 隼は警戒するように二人を見る。

「アルジェ、仲間だ。心配するな」

 首を傾げるようにして二人を観察している。

「可愛いですねぇ~」

「ははっ! 仲間を襲わないでくれよ!」

「あれ? ゆうきさんはどうしたのですか?」

 コーリは周囲を見回して気付いたらしい。

「あぁ、お役御免だと言って何処かへ行ったみたい」

「そうか。凄まじい強さを感じた。あれ程の強さでないと、これから先は通用しないのだろうな」

 ゲッツは感じる所がありそうだ。

「んじゃ、撤収しよう!」

 みんなで野宿(カンペッジョ)を片付ける。

 目的は達成した。心強い仲間が出来た。


「さぁ、帰ろうか」

 サヤは街に向かい歩き始める。

 アルジェはふわっと飛び立ち、サヤの頭上で軽やかに舞う。

 白銀(しろがね)の羽毛が陽光で朱に煌めく。

 サヤは何も言わないが、後姿で分かる。嬉しそうだ。

次回 「49:白銀の君 Argenta」

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