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旦那編 marito 50:木彫の人形(その2)Bambola intagliata in legno:secondo

前回:木彫の人形を選んで戦闘(バッターリア)をした。

 明るい日差の中、森の細い道を進んで行く。

 道沿いに様々な木彫の人形が点在する。全体の数はどれくらいだろう、ちょっと想像が付かない。

 全てを試すのも手間が掛かるので、これぞと思ったものにチャレンジしてみる。


 胸を張り、髭を貯えた威厳のある顔を持つ木彫の人形、掲示されている文字は “知己„ 

 黄色に霞む部屋で、真っ黒なシルエット。漆黒の葉々を飛ばし攻撃して来る。

 “汝、知己を如何とする?„

「簡単じゃな。義のあるところ火をも踏む」


 射貫く両眼、傲然と立つ年老いた姿、掲示されている文字は “血統„ 

 真紅の光が部屋全体に拡がる。赤い液体が撒き散らされ、脚に絡む。

 “正しき血統とは何か?„

「はっ、笑わせるわ。青い血ならカブトガニや。ヘモグロビンに差はない!」


 激しく睨み付ける老いた女性の顔、掲示されている文字は “愛憎„ 

 炎が舞う。火の粉が次々に襲い掛かる。

 “汝の愛するもの、憎むもの、如何に?„

「人の業でしょうな。心の持つ弱点です。それはあなたも同じでは?」ポロロン♪


 思慮深い風貌、穏やかで見通すような瞳、掲示されている文字は “義務„ 

 枯れた草木、ひび割れた地、砂漠の陽光が降り注ぐ。

 “すべてのものが負うべきものとは如何?„

「生きることじゃな。それ以外は人の造った砂上の楼閣じゃ!」


 恵比寿顔というのかな? 丸くてにっこり笑顔、掲示されている文字は “飽食„

 切れ長の目を更に細めて笑い掛けて来る。不気味な……

 “食に疲れた。汝、新しき味を知らぬか?„

「アホのすることやな。他にやることはないんか?」


 不動明王の顔? 眉を上げ、目を見開き、唇を一文字に、掲示されている文字は “憤怒„

 漆黒の空間のなか火花が散る。手に持つ剣で切り掛かって来る。

 “何故、何故人は悪しきことばかり行う!„

「自らへ怒りが正しい。それ以外は責任転嫁じゃのぅ」


 目を細め眠っているかのような顔、掲示されている文字は “夢幻„ 

 全体に霞が掛かっているようにふわふわした空間

 “汝らは、幻を追うか?„

「無限なら数学的に意味がありますな。夢幻泡影(むげんほうよう)なら、儚きこと。ならば、あなたは何故そこに居られるのか?」ポロロン♪


 みんな容赦ないなぁ。常識を叩き潰すってのはこのことか……


「何か、疲れるわ! 面倒なことばかりや、もう少し健全なことは考えられんのか」

 サブが溜息を吐く。

「溜息は幸福が逃げて行くと言うぞ」

 思わず笑ってしまう。はるっちは身内にも容赦ない。

 確かに精神的に疲れる戦闘(バッターリア)ばかりだ。

「ジョルジュ、どうしたの?」

 笑っていたジョルジュに思わず聞いてみる。

「いや、師匠フュルベールの言葉を思い出しました」ポロロン♪

「え、どんな?」

 “世界(イル・モンド)は、難しい。物理的に強いだけでは先へ進めなくなる。精神的にも強くなくては„

「全くそのとおりじゃのぅ。この世界は屁理屈が多いようじゃ」

「嫌ねぇ~、もっと単純に叩き伏せるのが良いわ~」

「マジで言うと、ワイは少し心配や。状態異常攻撃に対応が必要と思うんや」

 これから先、きっとそういう敵が出て来るのだろう。

「考えすぎてもね。とりあえずそろそろ戻るよ!」

「そうよ。明日は明日の風が吹くわ!」

次回 「奥編 46:狐の加護 La protezione da volpe」

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