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旦那編 marito 49:木彫の人形(その1)Bambola intagliata in legno:primo

前回:インスタンス・スキャンをクリアした。

 レベルアップの戦闘(バッターリア)が連続し、何だか気が滅入って来たので、“腕試しの階段„ の南側にある丘陵の森に行く。ここでも違ったことが経験出来るらしい。色々と準備してあるなぁ

「今日は気分転換で行くよ~」

 森に行く途中で、みんなと状況を話合う。

「気分転換は分かったのじゃが、どんな所かのぅ」

「同じことを繰り返しても絵になりませんから、こういうのは有難いですな」ポロロン♪

「ワイは、腕輪はんが居れば、どこでもいいわ!」

「新しい敵は刺激になるわ~」

 やはり、みんな楽しそうだ。いくらレベルアップの効率が良いとはいえ、同じことの繰り返しでは飽きも来るし、緊張感もなくなって来る。

 それに、他とは少し違うフィールドらしい。期待が持てるかも


 丘陵は、様々な種類の木立が並ぶ広葉樹の森。見通しは良く明るい日の光が降り注ぐ。

 緩斜面の細い道が続き、ゆっくりと登る。

 一面に落葉が並び傾斜地には落葉の間に土の表面が見える。落葉の間に木の実が落ちている。

 豊かな森という感じだ。 大きな木の根が小道にまではみ出している。

 そして、道沿いの彼方此方に木彫の人形が置いてある。

 ここまでモンスターは全く出現していない。これが仕様だろうか?


 木彫の人形の意匠は本当に様々で、その姿は、御伽噺に出て来る古木の妖精のような感じだ。可愛いものから不気味なものまである。

 木彫にはそれぞれ札が掛けてあり、その性質を表す。

 夢想、魅了、幻夢、矛盾、憎悪……

 この木彫に話掛けると戦闘(バッターリア)となる。

 やっぱり、札に書いてあることに関係するんだろうな。

「どうする?」

 みんなに聞いてみる。

「どうって、やってみるしかないんやないか?」

 サブはいつも気楽に見える。

 でもそれは見掛けだけだよね。最近やって分かって来たと思う。

 気楽さは努力と結果の現れ、そして自分を鼓舞する。

「レベル的に問題ないって情報だわ~。やってみましょうよ」

 エドはいつも元気に見える。ミクのことは乗り越えたのだろう。忘れる必要はないよね。

「そうじゃな。防御を掛けるぞ。属性の加護プロテツィオーネ・ディ・アトリブート!」

 初めて聞く魔法、思わず聞いてしまう。

「はるっち、その魔法は?」

「あぁ、四属性の加護を一気に掛ける魔法じゃ。一回で済む分、楽じゃな」

 笑って応えてくれる。

防御の歌カンツォーネ・ディ・ディフェーザ!」

 ジョルジュは何も言わなくても、ちゃんと準備してくれる。

 一緒に生活していると、まとまりが出て来るのは間違いない。気が合わないこともあるかもしれないけど、何とかやっている。この辺は現実(レアーレ)と同じだけど、ゲーム内だと結構本質が出て来るから、うちは結構良い状態なんだとは思う。


 意を決して、ひとつの木彫の人形の前に出る。ベスが寄り添って来る。

 表示は “勇気„ 何が出て来るんだろう? 少し楽しみではある。

「入るよ!」

 みんなに向けて話し、人形に触れる。

 “汝、我の空間に入るや?„ と聞かれたので、“入る„ と宣言する。

 人形はいきなり大きくなり、その姿のまま黒雲のように膨らむ。

「おぉ、期待が持てそうや」

「サブやん、頑張って!」

「腕輪はん、任しとき!」

 いや漫才はいいからさ。


 “その方たち、我が試練を受けるというのか?„ 

 木彫の声に、イエスと応える。

 黒雲が辺りを覆い、試練の空間に引き込まれる。


 青、全く青い空間に囲まれる。PCエラーの時に現れるブルースクリーンみたいだ。

 正面に大きく拡がった木彫の人形が居る。不気味な顔を歪めてニヤリと笑う。

「おっしゃ、小手調べや! 火の槍ランチァ・ディ・フォコ!」

 サブの火魔法攻撃が真直ぐ人形に向かう。

 キン! と金属音を立てて跳ね返される。

「なんや?」

「初めて見ますね」

「拙の知らない結界(バッリエーラ)じゃな」

 敵は大きく口を開いて、気に障るような高周波を浴びせて来る。

 背筋に震えが走って、思わず怯む。

「これは、精神攻撃?」

「どっかであったような攻撃だわ」

 エドの声に、そういえば同じようなことを経験した気がする。

「お化けワラビの時にじゃな」

「つまり我々の “勇気„ を試すという訳ですな」ポロロン♪

 なるほど、これからはこういう敵がたくさん出て来るんだろうな。

憩いの歌カンツォーネ・ディ・リポサータ!」

 ジョルジュの歌は状態異常耐性を上げる。

「 “勇気„ を試しているなら、白兵戦かも。エド、ベス行くよ!」

「分かったわ!」 “なー„

「後ろは支援頼む! とりあえず “纏い„ は控えて」

「了解じゃ」

 (スパーダ)を抜き放ち、薄く光る結界(バッリエーラ)に対して切り付ける。

 パリーン! という割れるような音と共に飛散る。

 木彫の人形は薄笑いを浮かべる。

 全く遊ばれているようだ。

「ベス、牽制」

 “なー„

 軽やかに飛び跳ねながら、敵の横から攻撃の構えを見せる。

 黒雲は煩そうに何度か腕?を伸ばして攻撃するが、ベスの素早さとはかなり差がある。

「エド、行くよ!」

 (スパーダ)を構えて突っ込む。

「分かったわ!」

 エドも斧を振り出しながら続く。

戦いの歌カンツォーネ・ディ・グエッラ!」

 ジョルジュの竪琴(アルパ)が鳴り響く。

 人形は黒雲の伸ばして来るが、躊躇はできない。(スパーダ)で敵の本体が居ると思われる位置に切り付ける。

連断タッリオ・コンセクティーヴォ!」

 エドの斧スキルが炸裂する。

 “なー„

 ベスは前脚で爪の連続攻撃、思ったより器用かも

回復の炎フィアンマ・グァレンテ!」

回復の微風(ブレッザ・グァレンテ)!」

 後衛から回復の支援がある。

 よし、何とかなりそう。後は攻めるだけ!


 どうやら黒雲が収まって、元の木彫の人形に戻る。

 やったかな?

 “幼き者たちよ。汝らの勇気は認めよう。しかし未熟じゃ、我が眷属たちと戦うがよい„ 

 どうやら、勝利を認めてくれたらしい。


「なんとかなったけど、いままでにないスキル使ってくるね」

「そうじゃのぅ、まだこの辺で修行した方が良さそうじゃ」

「小拙もそう思います。先は長いのですから」ポロロン♪

次回 「旦那編 50:木彫の人形(その2)Bambola intagliata in legno:secondo」

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