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旦那編 marito 44:赤い花たち Fiori rossi

前回:住む所も決まって、“冒険者の集う街„ での修行が始まる。

 一夜明けて今日は、建国2年唱月(うたつき)29日(29/Coro/Auc.02)

 そういえば、そろそろ年が変わるのか、ゲーム内お正月なんだよな。

 何かイベントがあるのかもしれない。


 さて、“冒険者の集う街„ に着いて一日が過ぎた。

 さすがに冒険者たちの集結地だけあって、色々な冒険の場所が用意されているそうだ。

 東側には、天まで届くような高い塔と地の底まで続くダンジョンがある。

 西側には開拓中の集落があるらしい。

 北にずっと行くと世界(イル・モンド)首都(ウルブス)があるらしい。

 そして、南西側には、初めてこの街に来た冒険者用の “腕試しの荒野„ と呼ばれる場所がある。

 いよいよ本格的にゲームの中心という場所に辿り着いたと感じる。

 でも、焦りは禁物。このゲームに復活(レスレツィオーネ)はない。

 とりあえず、 “腕試しの荒野„ で自分たちの実力(ちから)を確認することにする。

「で、どんな所なのじゃ、そこは?」

 部屋の真ん中にあるテーブルで朝食を取りながら話をする。

「この街に来た冒険者たちは、まずそこで腕を確かめて、十分に戦えることが分かってから彼方此方に行くらしいよ」

「ワイの聞いたウワサで良ければ――何でも最初はその場所はなかったらしい。そのため、実力(ちから)に合わないダンジョンや(トッレ)にいきなり行って、死人続出したとか」

「ありそうな話だわ~」

「なるほど “冒険者たちよ、少し落ち着け„ ということですな」ポロロン♪

 ジョルジュくん、食事中には竪琴(アルパ)弾かんで欲しい。

 “なー„

 ベスは大人しくご飯食べてなさい。

「まぁそういうことで、今日の結果で今後の強化方針決めんとなぁ」

「どうするんじゃ?」

「やれそうなら、ダンジョンか(トッレ)を覗きに行こう。駄目そうなら、各自で臨時パーティなんかに参加して色々教えて貰う。つまり寄生かな」

「妥当な所でしょうな」ポロロン♪

「ワイもそれでいいと思うわ。まだ街巡りもしとらんしな」

「サブやん……」

「腕輪はん、ワイは一筋やぁ」

 相変わらずだな。少しは経験から学べや!

「アホはさて置き、そこはどうなってるんじゃ?」

「街に近い側から奥に従ってモンスターが段々強くなるらしい」

「ほぅ親切設計じゃのぅ」

「行くまでの所要時間とか大丈夫なのかしら?」

「フィールドに入る最初の所だから、日帰りは可能だと思う」

「上手く行かなかったら逃げればいいんや。お試しで十分やろ」

 サブ、全くその通りです。

「とりあえず、行ってみよう!」

「「「「おー!」」」「なー!」


 西門から街外へ出て、南西へと向かう。

 城壁の直ぐ外側、西門から南門にかけてテントが立ち並ぶ。

「どうしたんだろ? こんなにテントが」

「拙が思うに、街中に宿や住居が見つからない場合、こうやってテントを張るじゃないかのぅ? 経費節約にもなりそうじゃし」

「そうだと思うわ、街は混雑している感じがするから、入れない人たちが出るってことじゃない?」

「ワイらは、幸運だったということやな。ジョルジュはんには感謝や」

「いやいや、たまたまですな」ポロロン♪


 南西に向かい進んで行く。

 幹線道路と違い石畳などなく、赤土と石砂利の道が続く。

 周囲も木は疎らで、灌木(アルブスト)が拡がっている。

 空気が乾燥しているせいか景色が綺麗だ。

 ベスは先頭を歩くエドの傍を楽しそうに歩く。


 一刻ほど過ぎた所で、明らかに雰囲気の違うフィールドに出る。

 背の低い草々が拡がる百メートル四方くらいの場所で、見通しが良い。

 聞いた所では、ここでは地属性の植物だけが出るらしい。

 最初の腕試しにはもってこいだね。


 フィールドに入った途端に現れる。

 真っ赤な花を付けた芙蓉が次々に生えて来る。高さは一メートル半くらい。

「移動しないみたいだから、魔法で行く。エドは待機で」

「わかったわ~」

戦いの歌カンツォーネ・ディ・グエッラ!」

 ジョルジュの歌が響き渡る。

炎の球パッラ・ディ・フィアンマ!」

 はるっちの魔法が炸裂すると花が燃え上がる。

「間違いなく地属性じゃ、火魔法で集中がいいぞ!」

「おっしゃ、ワイの得意技を喰らえ~! 火の槍ランチァ・ディ・フォコ!」

「続けて行くよ。 火の矢フレッチェ・ディ・フォコ!」

 花は燃え上がるがなかなか倒れない。

 しかも近寄り過ぎると毒息を吐いて来る。

「エドは近いのを狙ってどれくらい効くか確認して、毒には注意! 火纏いダ・インドレッサーレ・フォコ!」

「分かったわ~、思ったより面倒ね」

 前線のエドは苦戦している。ベスも一緒に頑張ってるがやり難そうだ。

 でも、ベスって意外に素早いな。


 そうこうしているうちに、別種の赤い花が生えて来る。花弁か幾重にも重なって大きな花になっている。しかも、遠距離から種を飛ばして来る。

「更に面倒なのが湧いて来るわ!」

「これって何の花?」

芍薬(しゃくやく)じゃな。美人の代名詞になるほど綺麗な花じゃが、こうなると厄介なだけじゃ」

「何だか新手が加わってきたわ!」

 細い茎の先端に真っ赤な花が咲いている。花弁は一重だけど、五つの花弁がある。

「これって、ハイビスカス?」

「そうじゃな、南国の綺麗な花なんじゃがのぅ」

「何だか、絡み付こうとしてるみたいだわ~」

「エド~、あまり踏み込まないで、絡まれると助けるのが大変そう」

「分かったわ~」

 “なー„ 

 ベスにも通じているようだ。


 その後は火の絨毯タッペート・ディ・フォコを多用して根元から焼き払ったけど、時間が掛かった。移動しないから遠距離で何とかなったけど、これが移動して囲まれたらかなり危険だ。

 易しいフィールドだというのに、これだけ手間がかかるとは、大いに反省しなきゃいけないな。

 無理をして退場する人が居るというのが良く理解できた。


 適当な時間で切り上げて街に戻り、多量にドロップした “植物の茎„ をギルドに買い取って貰った。

 何かの材料になるんだろうか?


 部屋に戻って反省会をする。みんな結構疲れているようだ。

「では、反省会を行います。苦戦したとは思う」

「いやぁ~舐めてたわ。希望の町では、どのモンスターも割合簡単に倒せたから気楽に考えていたわ」

 サブが珍しく反省しきりだね。

「確かにそうですな。相手が移動しないので後衛は安全でしたけど、これが四方から襲って来るとなるとかなり対処が難しいと思いますな」

 ジョルジュもいつもと違いかなり難しい顔だ。

「しばらく戦いに慣れることが必要と思うぞ」

「そうね。やっぱり臨時パーティなどに参加して経験つまなきゃいけないと思うわ」

 しばらくは基礎能力アップに励むしかなさそうだ。

「どう考えても、今のままじゃ前に進めないね。しばらく各自で修行に励むことにしよう。但し、安全第一。無理はしないで、生き残ることが最重要なので、卑怯と言われてもいいから危ない時は撤退を優先して」

「そうじゃ、焦りも驕りも禁物じゃ。明日から頑張ろうぞ!」

 “なー„

「ベスも大事な戦力だよ。明日から私と一緒に修行だよ」

 “なー„

次回 「奥編 moglie 43:冒険者が沢山です! Ci sono molti avventurieri」

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