奥編 moglie 41:景色は移る Lo scenario si muove
前回:火の山の魔女を倒し、冒険者の集う街へ向かう。
石砂利の道を進む。
明日に向かう町を立って新しい街へ向かう。“冒険者の集う街„ というらしい。
どんなところだろう? 新しい出会いとかあるのだろうか?
低い山並みが何処までも続く。
赤茶の大地と枯れた草原が広がる。
一本の道が大地を突っ切って地平の彼方に消えている。
振り返ると、明日に向かう町が小さく見える。
忙しく激しい時間を送って来たように思う。次は落ち着いて楽しめるといいな。
あの人はどうしてるだろう?
同じ日に始めたんだから、進行も同じくらいよね。
もう “冒険者の集う街„ に達しているだろうか?
姿も性別すら分からない。すれ違っても気付かないだろう。
退場はしてないと思う。してたら、指差して笑ってやる。
みんなあまり話をしない。
色々思い出しているのだろうか?
特に、サヤは朝からぼーっとしている。
「サヤどうしたの?」
「あぁすまない。ちょっとな」
「ははっ! ペット・ロス症候群だな。俺もそうだ」
「お馬さんと隼さんを返却しましたからねぇ~」
「あぁ、隼の印象が強すぎてな。少し気が抜けたらしい。新しい街に着いたら、早速隼の調伏について調べないといけないな」
そうか、馬も隼も強かったからなぁ
「俺も、そうだな。騎乗できるパートナーは種類が豊富らしいので、良く調べないといかんな」
「そうなの?」
「あぁ、馬が代表的だが、このゲームでは虎や大型犬、果ては一角獣や天馬などに騎乗しているキャラクタも居るらしい」
「そっか、また忙しくなるね」
主要交通路だけあって、人通りもあるし、偶に馬車なども走っている。
道幅は四メートルくらい。これが世界も標準なんだろうか?
モンスターはほとんど居ない。遠くに眺めるくらいで道には近寄って来ないようだ。
途中には休憩所のような所があって、腰掛が置いてある。
これまでとは打って変わって穏やかな旅路だ。
「サヤ、今度の街はどんなところか情報ある?」
黙って歩き続けるのも退屈なので聞いてみる。
「野宿の時に色々話そうと思っていたのだが、様子などは歩きながらでも良いだろう。みんな気が付いたことは言ってくれ」
「分かった」「了解だ」「分かりましたですぅ~」
声が重なる。
「次の街について聞いたことだが――」
サヤは話始める。
“冒険者の集う街„ はかなり大きな街で人も多い。
スタートポイントで散らされたキャラクタたちが実力を付けて、関門を突破して集まって来ている。
生産職も腕利きが多く、装備品などはかなりの品が入手できる。
狩場も色々なタイプがある。腕を磨くなら格好の場所がある。
迷宮も本格的なものがあり、不死者が出没する。
「いよいよ本格的にゲームの中心に入って来たという感じだな」
「そうだね。何だかワクワクして来る」
「いずれにしても段階を踏んでからだろう。まずは装備の充実と実力を付けることだ」
ゲッツは慎重だな。
「そうですよ。焦って退場とかなったら、目も当てられません」
そうか、コーリは一回退場してるから、リターン・マッチだよな。
「せっかくここまで来れたんです。また泣きたくはありません。今度は先まで行けるように頑張りたいです」
道を進むにつれて、常緑樹が増えて来る。道の両側にぽつぽつと立ってて街路樹になっている所もある。
傾く日の光で、樹々の影が道に縞模様を描きだす。
振返っても町は見えない。先に進むだけだ。
夕刻になり、次第に薄暗くなって来た頃に、石塀に囲まれた建物が見えて来る。
「簡易宿泊所のようだな。今日はあそこに泊まろう」
サヤがみんなに提案するように言う。
「ふむ。さすがは幹線道路だな。便利なものがある」
「安心して寝れますぅ~」
「聞いていたところでは、食事は自分たちで作るみたいだぞ」
「まぁそうだろう。こういうところまで食糧を運ぶのは大変だろうからな」
「屋根のある所で寝れるだけで十分じゃない? 夕食の材料は在庫あるしね」
新しい街、新しいステップへ進む。景色は移る。
次回 「奥編 42:街道 A via」




