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戦艦越後物語  作者: 陸奥
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第一章 第七節・『魔王の使徒』

 前回の更新からはや一年が過ぎ去り、その間も活動報告等を通じての近況報告を全くしていないにもかかわらず、いまだに待ってくださっている方々に、心からの感謝と謝罪をいたします。

 《戦艦越後物語・改》久しぶりの更新となります。ただ、無いようにはあまり自信がありませんです……。

(なんで、なんでこれがここに―――)

 楓の目の前で、静かにその場で佇んでいる巨大な“鳥”……。

 その“鳥”の名は―――

「―――A-10……!」

 ―――フェアチャイルド A-10『サンダーボルト』、またの名を『ウォートホッグ』というアメリカ空軍において異色の存在感を放つ対地攻撃機。

 楓が一目見てみたいと願っていた機体だが……まさかこの時代のここで実物を見ることになるとは、しかも直に触れるようなことになるとは思ってもいなかった!

 興奮する彼女の前には、ジェット機自体が暗中模索だったこの時代に、『越後』以上に存在してはいけないモノが圧倒的な存在感を持っていたのだ。

 だが、実物のA-10神を目の前にして、目を輝かせていた楓を一気にクールダウンさせる言葉が耳に入ってきた。

「瓜畑少佐、申し訳ないのですが……これは一体、何なのですか?」

 傍らの洞爺大尉が、瓜畑に尋ねた言葉に彼女はハッとする。

(そうだ、本来俺はこいつの存在なんと知っていないはず……)

 頭の中で慌てふためく彼女を、さらに追い詰めるような言葉が瓜畑から発せられる。

「あたしも詳しくは知らないけど、どうやら大佐は知っているようだよ?」

 そして楓を見る二人。大丈夫、まだごまかせると判断した楓はなんとか良い文句がないか必死に頭をひねるが……、

「いえ……」

 なかなか思いつくものではない。だが、ここで回航途中に提出された書類の中に、A-10の物があったことを思い出した。

「―――偶然提出された資料の中にこの機体の物があってですね。特徴的な兵装、外観、そして致命傷に等しい損害を被っても飛行可能という航空機だというのが印象に残っていたので、覚えていたんですよ」

 なんとか苦し紛れに返事を返すも、その内容は何の変哲もないつまらないものしか思いつくことはなかった。

(いい加減俺も平然と答えられるように出来ないと、いつボロが出るか分かんないな……)

「なるほど、そういうことですか。それで、この機体は、えー……えーてん、というのですか?」

 眼前にでんッ! と存在感を放つ、機首に備わった七つの銃口を持つガトリング砲を眺めながら、洞爺大尉が楓に尋ねる。大尉も(おとこ)である、やはりそれ(・・)の持つ、艦艇とはまた違う(くろがね)の存在感に惹かれたのだろうか。

「そう、この機体は未来のアメリカ空軍が保有している、A-10という機体だそうです。資料によると最大速度はP-38やF4U等の戦闘機以上、しかもB-17等のアメリカの(・・・・・)重爆以上の量の爆弾を搭載可能で、きわめて強力な対地攻撃能力を持つ未来の爆撃機なんだそうです」

(この時代のレシプロ戦闘機……P-51でさえ最高速度が700km前半なんだから、今の時点で追いつける航空機なんてほとんどいないはず……多分。そういえばこの時代の日本木の基準でいうとA-10は襲撃機なのか?)

 ちなみに襲撃機というのは、日本陸軍で使用されていた対地攻撃機の事である。有名なのは九九式襲撃機で、主な任務はA-10と同じく近接航空支援だ。

 しかし楓の興味は徐々に目の前のA-10の機体に傾きつつあった。

 想像以上に大きいGBU-8『アヴェンジャー』や様々な計器が並ぶコクピットの内部を見てテンションはどんどん上がっていく。彼女は銃口を覗いたり、前輪格納部の中を見たり等々、普段では絶対に出来ないことを好き勝手にやっていた。



「戦闘機以上の速度の爆撃機ねぇ……モスキートみたいな感じかね? けど、発動機が見当たらないね。後ろのあれかい」

「妙に羽の数が多いですが、あんなので飛べるんですか?」

 妙なテンションの楓を放っておき、瓜畑と誠の二人はA-10の低い翼の上からエンジンを見ていた。もちろん乗ってはいけないところには[No Step]と表記されているので、それには二人とも注意しているが。

「さて、それは実際に見ないと分からないけど……そういやぁ前に聞いたことがあるよ、ガスタービンっちゅう新型の発動機が開発されているってね。そいつは蒸気タービンみたいに、羽の数がそれはそれは多いそうだ」

「ガスタービン、ですか……それでは、もしかするとあれが?」

「かも、しれないね」

 タービンというものはこの時代、主に蒸気タービンが知られておりガスタービン―――すなわちジェットエンジンはまだまだ発展途上、研究段階の代物なのだ。それでも、イタリア、ドイツやイギリスといった一部の先進国では研究用として実用化に成功しており、それを搭載した航空機の初飛行も済ませているがこんな巨大なエンジンはいまだ存在しない。

 A-10に搭載されているエンジンは、高バイパス比のターボファンエンジンが使用されている。この時代はまだ、ターボジェットエンジンやパルスジェットエンジンなどで、それらも出力が小さかったり、耐久性が低く、燃費も悪いためまだまだ問題が山積みしているような研究段階の代物が多い。

 しかしA-10に搭載している物は、低燃費であり、耐久性もよし、しかも出力も大きい等々、非常に優れた物だ……そしてなにより、TF34は研究段階を既に抜けた実用段階の物。これは大きいと言わざるをえない、なにせ数々の初期不良、故障を解決済みなのだから。さらにこのTF34の派生型として、LM500というものがある。これは『はやぶさ』型ミサイル艇の機関としても採用されている船舶用エンジンで、このことからTF34は将来的に船舶用エンジンを作る資料としても、大変適した物なのだ。

「そんな研究中のものを装備している機体が、こんなに完成した状態であるとは心強いなあ……」

 実はA-10は1機だけではない、全機合わせて11機が『越後』甲板上に係止されている。飛行甲板に並ぶA-10の列線を眺め、誠は胸を高鳴らせた。もし楓が話した通りなら、たった11機ではあるがこれほど頼もしい機体はないだろう。だが―――、

「しかしま……使いこなせるかどうかとなるとまた別問題だがね」

「……そうですね」

 現物があっても飛ばす人間がいなければ宝の持ち腐れ……いや、飛ばす人間だけではなく整備士や補給部品も必要で、さらにいえばそれを造る工場や、訓練や整備を行う場所も必要になり、管制や誘導なども要る。他にも必要なものは多々あるが、これらをすべて挙げればきりがない。たくさんの表からはなかなか見えにくい部分が完全に揃って初めて、航空機は稼動できる。

 今あるのは、限られた数の操縦士に整備士、そして部品に機体だけ。もしかしたら場所も加わるかも知れないが、部品の供給はとても望めない。『越後』の技術をすべて開示したとしても、日本が実用に耐えれるものを作るには数年から十数年かかるだろう。ということは、少なくともこれから数年間は補給なし、という事になる。『越後』に搭載されている部品の数次第では飛行の回数も限られ、訓練もままならないかもしれない……いくら機体が強力でも、これでは役には立たない。

「まあそこら辺の面倒なことは、後々考えればいいさ。重要なのは今ここに“ある”ってことだからね」

「……つまりこれらの機体を、政府側にカタログスペック“だけ”公開して見掛け倒しの切り札にすればすればいいと?」

 その言葉に、瓜畑は目を丸くして誠の顔をまじまじと見つめ、次の瞬間腹を抱えて爆笑した。

「アッハッハッハッハ! そういう手もあったねぇ、いやいや気がつかなかったよ!」

「え、そう言うつもりでおっしゃったんじゃないんですか少佐!?」

「はーまったく、若い頭には勝てないね。私は整備屋だからただ機体を整備して飛ばすことだけ考えていたよ……そうか、そんな使い方もあるね……大佐! どう思います、洞爺の案は?」

「……へ? え、ああ、とてもいい案で、検討する価値は十分にあると思いますよ。全力を発揮できるかどうかはともかく、カタログスペックだけ(・・)なら、現行の機体ではどのような機体も太刀打ちできませんからね、A-10は」

 アヴェンジャーに夢中で全然話を聞いていなかったが、一応耳に音は入っていたので何とか答えを楓は返す。

 と、その時。瓜畑が何かを思い出したのか、パンと手を鳴らした。

「そうだ、大佐。他にもいくつか航空機があるのですが、ご覧になりますか?」

 他にも……? と訝しがる楓に、瓜畑はこう返した。

「えーと、確か……」


―――F-2とF-22ってやつですね。


 その後の事については、また別の機会に譲ることにする。ただF-2とF-22を見たときの楓のテンションは、A/B(アフターバーナー)を焚いた戦闘機のごとくぶっ飛んでいたということは、言うまでもない。




 薄暗い部屋の中では、十数人の男たちが横須賀周辺の海図を中心に周りを囲み侃々諤々の議論を行っていた。そこへ艦橋に走っていた伝令が戻ってきた途端にピタリと声が止み、全員が伝令の報告を一言一句たりとも聞き逃すまいと耳をそば立てる中、伝令が声を張り上げんと口を開く。

「報告! 一一〇〇時に至るも、『当該艦』に新たな動きはなしと認む!」

 その報告に室内には、安堵とも落胆ともとれるため息がもれる。それは今までと全く変わりのない報告でしかなかったからだ。

「……『当該艦』に対して、鎮守府からの動きもないのか」

 若干の間をおき、重々しい口調で、この中で最上位の将官が伝令に問うた。

「は、未だ陸戦隊が臨検を行う様子も、軍使を派遣する様子も、全くありません!」

 その答えを聞き男たちの間には、焦燥とも疑念ともつかない雰囲気が漂う。

 既に『当該艦』が入港して二日目になる。それにもかかわらず鎮守府は何の行動も起こせないでいた。理由は容易に考えられる。突然の介入を図った東京憲兵隊と、それを断固阻止すべしとの軍令部からの命令を受け、本来の任務を放り出してまで出動せざるを得なくなった横須賀特別陸戦隊とによって発生した陸海軍の緊張状態。それによって海軍側の当初の思惑から全く外れた展開となり、さらに政府内では未だに結論が出せずに混乱していた。

 そこへまた扉が開き、水兵が一人、入室する。

「軍令部より、再度返答あり。〔『当該艦』に対する処遇は目下検討中、追って知らせるものとす。軽挙妄動することなかれ〕とのこと!」

 それが、つい先ほど問い合わせた軍令部からの返事であり、もはや聞きあきたその電文に彼らの苛立ちは最高潮に達する。

 そしてついに耐えきれなくなったのか、一人の佐官が声を張り上げた。

「何をぐずぐずしているのだ軍令部は! かの艦は帝都をも射程内に捉えているというのに、何の行動も起こさないとは!」

「軍令部も政府も状況は把握しているはずなのに、何度問い合わせても返事はけして手を出すなの一点張りのみ。一体いつまで検討を続ければ気が済むのだ……ッ!」

 軍令部、そして海軍省や政府に対する罵倒雑言が室内に噴出する。彼らは連合艦隊司令部の参謀だ。戦艦『長門』に座乗している連合艦隊司令部は状況を把握すべく、各方面と連絡を行っていた。不自然なまでに動きのない上層部に対し業を煮やした連合艦隊司令長官、山本五十六大将が早期に『越後』側と接触するよう関係各所に働きかけているためだ。その為『長門』の通信室から長官公室や作戦室にかけての通路は頻繁に伝令が行き交い、次から次へとくる電文に通信室は文字通りてんてこ舞いの有り様となっていた。

「まあ、待て。少し落ち着きたまえ諸君」

 部屋の隅で静かに状況を見守っていた将官の声で、未だ熱気は収まっていないものの作戦室に静寂が戻った。彼の名は伊藤整一、連合艦隊の参謀長だ。

「……しかし、伊藤参謀長。所属不明の軍艦、しかも戦艦を放置したとなれば、このままでは海軍の威信に関わりますぞ」

「うむ、確かにその通りだ……しかし、この状況も長くは続くまい」

 参謀たちの危惧を、確信を持った声で伊藤は否定した。

「何故です」

「山本長官も、臨時とはいえ横鎮の指揮を執っている鶴鷺大将も、ただ座して事態を諦観しているような方たちではないからな。近く行動を起こすことは間違いないし、『当該艦』の方も一日の間、こちらが何の動きも無いようでは流石に何らかの接触を図ろうとするだろう」

 参謀たちの多くはそう上手くいくものか、と疑問の表情を浮かべたものの、果たして伊藤の読みは正しく的中することになるのだった。




 士官室で昼食を済ませ、部屋に戻ってきた楓は非常に機嫌が良かった。

 なぜならば、本物のF-22やF-2、そしてA-10を間近に見て、触り、主翼の上に乗っかったり操縦席に座ったりと航空祭なんかは勿論、本職にでもならないければ滅多にできないことをやることが出来たからだ……流石に機体に抱きついたりする度胸はなかったが。

 甲板上にはF-22、F-2が各2機、そしてA-10が11機。そして日立や小松など、日本を代表する重機が多数、さらに輸送用にかC-130輸送機が2機と至れり尽くせりの陣容だった。

 上機嫌のまま椅子に座り、午前中の艦内各所からの報告を見ていた楓だったが、しかし段々と眉間にしわが寄っていく。報告の中には傍受した通信を解析した結果、戦艦『陸奥』、『伊勢』、『日向』、重巡『利根』を始めとする艦艇が東京湾口を封鎖しているというものもあったが、それはいい。仕方のないことだ。しかし楓がしわを寄せている原因はそれではない、いくつかの報告書にふざけているとしか思えない報告があったからだ。

 例えば"通路を歩いていると、後ろに誰かいるような、尾行されているような気配を感じるが、誰もいない"や"鏡に少女の姿が映るが、振り返ってもそこには誰もいない"等、正直言って……とくに後者は白昼夢でも見たんじゃないのかと言いたい。

 こんな与太話をいったいだれが信じるのかと、呆れてしまう。こんなものは夏によくやるTVの心霊特集だけで十分だ。そう心の底から思いつつ、部屋を出る。断じて一人でいるのが怖くなったわけではない。顔が青ざめているの疲れがたまっているからだろう。

(……よくよく考えれば、この艦に乗っている人って死んだ人ばかり、なのか?)

 不意に浮かんできた怖ろしい想像を振り払うためか周囲への注意力が散漫していた楓は、前から歩いてきた見慣れない女性達の中の一人が、この艦にいるはずのない(・・・・・・・)階級章を付けていることに気がつかないまますれ違ったのだった。



 すでに陽は水平線の向こうに消え、『越後』の周囲も闇に沈みつつあった。そんな中、楓は自分が本当に艦魂なのかどうかを確かめるべく、実験を試みていた。

(……誰も、気付かないな)

 艦魂というのは、誰でも見えるわけではない……というのが楓の中の艦魂のイメージだ。しかし、楓自身が艦魂かどうかを確かめるとなると、それは一人だけでは難しい。姿を消す、と意識するだけで消えてしまえるようなものなのかどうか、しかも確認するにも写真の中にも鏡の中にも自分自身の姿は見えたままだから、確認のしようがないのだ。

 その為、本当に見えていないのかどうかを確認するために、普段なら必ず敬礼してくる下士官や兵達の前で姿を消すと意識しながら立ち止まってみたりするなどしたが、彼らは何の反応も示すことなく通り過ぎて行くだけ。と、いうことは彼らに自分の姿は見えていないという事なのか?

 腕を組み、首を傾げながら考え込む楓の肩に、後ろから手が掛けられた。思わず反射的に振り返ってしまった楓だったが、振り返る最中にあることに気付く。

(俺って今、周りに見えてないんだよな……?)

 なら、この手は一体……。

 そう思いながら楓が振り返ったその先には―――


「やっとだ……やっと見つけたぞ越後ッ……!」

「ひぃッ!?」


―――この世のものとは思えない般若(美人)がおりましたとさ。

※後日、追加いたします。

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