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黒の主  作者: 沙々音 凛
第十九章:傭兵団の章三
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37・彼の望み2

 三十月神教で死者を生き返らせる魔法があるのはリパとアルワナ。だがその魔法の理論はかなり違う。リパの蘇生術は言葉通り『生き返らせる』。まず体を治してから生命活動を再開させる術で、死後時間が経って魂が離れてしまうと蘇生は出来ないから時間の勝負というのは有名な話だ。だからこそ体の損傷が激しいと治すまでに時間がかかる分成功率は低くなる。対してアルワナの反魂術は、魂を呼び戻して体に入れる術だと聞いた事がある。だからリパの蘇生術が失敗した後に、どうしても諦めきれない場合にアルワナの反魂術が使われる。アルワナは離れた魂を体に呼び込む術だから、こちらは体が無事ならば魂が離れた後でも呼び戻せるらしい。


「ただアルワナの反魂術はどんな魂でも呼び戻せる訳じゃないんだ。ちゃんと死の世界に旅立って眠りについた魂は呼び戻せない。けれど、未練があってこの世界に残っている魂なら呼び戻せる。……だからちゃんと確認はしてるよ、彼女はまだ僕の傍にいつもいてくれてるって事を」


 うっとりとした笑みを浮かべるその顔は完全に狂人のものではある。ただ彼が狂っているのはそれに関してだけで、仕事をさせる分には有能で理性的である事は分かっていた。であれば、セイネリアにとっては彼の望みが狂っているかどうかなんてどうでもいい話だ。


「生き返らせたいのはお前の恋人か」

「そう」

「お前がやたら金を欲しがっていたのもそのせいか」

「そうだよ、人間一人分の体を作るための設備に必要な金、それを維持するための金、あんたも知ってると思うけど、擬肢っていうのは一回作ればそれで終わりって訳じゃない」

「つまり、定期的に体を作り直して、その度に反魂術を頼む訳か」

「最悪、そうなるね。部分的に修復して入れ替えていけば、毎回反魂術を使わなくても済むかもしれないけど」


 この男の願いは狂っているが、魔法使いとしての能力は疑いない。彼のその答えは、ちゃんと理論的に考えてある程度は試してみて見通しを立てた結果なのだろう。


――狂ってる、が、理論的に考えて正しい行動は出来る、か。


 ある意味自分と同じかもしれない。そう思ったら笑えて来た。ククっと喉を鳴らして、頭を軽く押さえた後、やけに楽しそうな笑みを浮かべている魔法使いの顔を見る。


「それで、お前の望みはその体を作るための魔力を借りたい、というだけじゃないんだろ? 俺の部下となるからにはその設備にかかる金も出せというところか?」

「そうだね、ただ作るために必要な設備は自力でどうにかするよ、維持にかかる分をお願いしたいかな。となればあんたの傘下に入る方が早いでしょ、それにこれは別の思惑もある」

「別の思惑?」

「そ、僕のやりたい事は確かに魔法ギルドで禁止されてるから、まぁ追放というだけではなく罰を受ける可能性はあるよね」

「そうだろうな」

「でもあんたの下にいて、あんたの事を近くでずっと見てる事が出来る、となれば話は別だと思うんだ」


 成程――セイネリアは口元を歪める。

 現状、セイネリアを傍で監視できるなら少なくともこの男が魔法ギルドに拘束される事はなくなる。折角目的の傍における貴重な駒を回収はしないだろう。


「ただ多分、魔法ギルド提供のポイントを使った転送は使わせてもらえなくなるとは思うんだ、何かあった時に好きに逃げられたら困るだろうからね」

「確かにな」


 そこまでの状況を先読みして交渉してきたという事で、確かにこの男は頭がいいと思う。セイネリアと似た思考部分もあるが、立場と望みが違いすぎるから自分と違う視点を話せる人間としても傍に置く価値は高い。

 ただし、こちらが高く彼を評価した事を彼も理解しているとすれば、まだ疑問は残る。


「お前の思惑はわかった、俺としては文句はない。だが……まだ俺に望むモノがあるんじゃないか?」


 この男の自己評価は高い。望むものがそれだけなら、最初の設備にかかる費用もセイネリア側で持ってほしいと言うのではないか。


「うん……まぁそうだね、ただこれはこちらにとっては切実でも、あんたにとってはそこまで大変なお願いじゃないと思うんだ。反魂術を使えるアルワナ神官……残念ながら僕にツテはないし、裏で探すとちゃんとした術が使えるか分からないような怪しいのしか見つからないんだよね。だけどあんたなら、アルワナ神殿の偉い人間にも繋がりがあるでしょ?」


 確かに、セイネリアにとってはそこまで面倒な事ではないが、この魔法使いにとっては難しい事ではある。そして彼の望み的には、それは絶対に必要な事だ。


「分かった、それはどうにかしよう。神殿に依頼として正式に頼むというカタチなら問題ないだろ」

「おそらく、あんたに手伝ってもらえるなら喜んで受けてもらえると思うよ」


 確かに、それはあるかもしれない。そこまで読んでいる彼に感心すると共に、また黒の剣の事を思い出してセイネリアとしては楽しい気分にはなれなかったが。


サーフェスは魔法使いらしく頭がいいけど、彼女の事に関してはぶっ壊れた人ではあります。おそらくそのあたりは後で番外編を書くかと。

次回はこの場面あとのエルの話。

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