36・彼の望み1
グローディ領方面から帰ってきた翌日、朝からエルが部屋にやって来てサーフェスが今日の午後にくると言って来た。
勿論セイネリアはそれに了承を告げた。まだ帰ってきたばかりで予定を入れていないからこそ、今日明日ならいつでも来ていいと言ったのだ。それに彼の用件が何なのかも早めに聞いておこうと思った。
まぁ、用件自体は前に言ってきた通り、剣の魔力を貸してほしいという事だろう。ただそれだけとは限らない。なにせ彼はラダーの件をエルに追及してきたらしい。となれば彼の覚悟も予想がつく。
午前中はエルから一通りの報告を聞いて、溜まった書類に目を通して、そうして午後、予定通りやってきたサーフェスをセイネリアは部屋に通した。
「えーと、単刀直入に言うんだけどさ、この間ここに入ったラダーって人物、僕の予想だと、借金取りに嫌がらせされてた孤児院を助ける代わりにあんたの部下になったんじゃないかなって思ったんだけど」
「あぁ、そうだ」
セイネリアはそれを肯定した。
ただあまりにもあっさり答えたのが意外だったのか、サーフェスは一瞬目を丸くして、それからクスクスと笑いだした。
「……あぁ、そうか。うん、あっさり答えてくれたって事は、もし僕が同じ条件であんたに何かを頼む場合も聞いてくれる気はあるって事かな?」
「お前にはそれだけの価値はある。だが価値以上の望みは叶えられないし、そもそも俺に出来ない事は無理だ」
それで彼がラダーと同じ契約を結ぶ事をセイネリアが認めた事になる。ただし契約が成立するかどうかはここからの交渉次第だ。
「植物擬肢が作れる魔法使いをお抱えで持てるなんてすごいと思わない? 治癒魔法ですぐどうにかしないとならないような重症人はおいておいて、普通のけが人や薬草でどうにかなる軽い病人の治療程度なら出来るよ? ついでに団員の健康管理もしてあげられるけど」
「あとは植物操作か?」
「そうだね。前に見せたみたいに木の成長を早めるみたいなのは出来るけど、そっちは一時的な用途にしか使えないと思ってくれるかな。あんまり無茶な成長をさせると、植物の寿命が縮むからね」
つまり建物の建設等、長く使用するようなものに使う事は出来ないが、戦闘や移動等、その場で使えればいいだけのものには使えるという事だ――事前にそれが分かっているなら十分使いようはある。
「あとは魔法使いとしての一般的な能力か。魔法の確認と、転送は?」
そこまで聞けばサーフェスの表情が少し崩れる。
「魔力は見る事は出来るだろうけど……もしかしたら転送は使えないかも、かな」
「ポイントを使った転送なら、魔法使いならだれでも使える訳ではないのか?」
「そうだね、一応そうなんだけど……僕の望みが叶ったら魔法ギルドから追放されるかもしれないんだよね」
それを明るく言ってきて、今度はセイネリアがわずかに眉を寄せた。
「どういう事だ」
「その前に、僕が何を望んでるかを聞いた方がいいんじゃないかな?」
その時の彼の目には妄執めいた狂気の光があって、相当面倒な事情があるのだろうとセイネリアは理解した。だから背もたれに背をつけて足を組んでから彼に言った。
「分かった、聞こう」
サーフェスはまたにこりと笑う。けれどその目はやはり狂気を感じさせた。
「まず、僕の目的は手足みたいな部分だけではなく、人間一人分の完全な体を作ること」
「それは魔法使い的に許されている事なのか?」
「勿論許されていないよ」
だから、魔法ギルドから追放されるかもしれない、という事なのだろう。それは分かったが、彼の目的には少し疑問が残る。
「体を作る事だけが目的なのか? 自分で人間を作り出したいというのが望みか?」
「違うよ。最終的な目的は僕の大切な人を生き返らせる事……だけどね、それはもう無理だから体を作ってそれに魂を呼び込んでもらおうって思ってる。体を用意すれば、アルワナ神官の反魂術なら理論的には出来る筈なんだ」
体を作れる系の能力キャラのお約束といえばお約束(==。
次あともう1話、彼との交渉話です。