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黒の主  作者: 沙々音 凛
第十九章:傭兵団の章三
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32・後始末2

「あぁ、たいしたものだ」


 それにはあっさり同意を返したセイネリアを見て、アジェリアンは嬉しそうに笑ったあと少しすまなそうな顔をして頭を掻いた。


「最初はお前に言われた通り左で戦えるように鍛えてたんだがな、それよりも盾に特化して攻撃は皆に任せた方がいいと思ったんだ。アドバイスをしてくれたお前には悪いが……デルガもラッサもヴィッチェも攻撃しては引くタイプだし、それなら自分は中途半端に攻撃に参加するより、前で敵をひきつけて守る役に徹した方がいいと思った」

「いや、自分にあったスタイルを見つけたならそれでいいだろ。何も他人のいう通りにする必要などない」

「そうか、お前ならそういうとは思っていたが……だが最初に左を重点的に鍛えた意味はあった、おかげでこんな重い盾も持てる」


 どうやらアジェリアンはセイネリアが勧めたのとは違う戦闘スタイルにしたことを申し訳なく思っているようだった。ただ当然ともいうべきか、カリンの主はそんな事をわざわざ気になどしない。というかセイネリアという男は、言った通りに盲目的に従われるより、自分で見つけた方法を突き詰めて行くような人間の方を評価する。

 そうしてアジェリアンは少し照れくさそうにまた頭を掻くと、今度は言いにくそうに言ってくる。


「それでなんだが……出来たら一度、首都に帰る前にお前の剣を受けさせてくれないか。このスタイルでお前にどれくらい通用するのかみてみたい」


 それには即答、という程すぐにセイネリアは返事を返さなかった。だが一瞬、迷うだけの間があいてから黒い男は口を開く。


「明日でいいか?」

「あぁ、勿論だ」


 その時もやはりセイネリアは無表情のままで、どこまでも嬉しそうなアジェリアンの顔とは対照的に見えた。







 その後ほどなくして、蛮族達が化け物の死体処理をしている間に一行のところへ砦からの人間がやってきた。そこまで急いできた感じではないところを見ると砦にはかなり目のいい見張り役がいたらしいとカリンは思う。

 彼らは柵を越えた何者かを確認に来たのではなく最初から領主ナスロウ卿を迎えに来た様子で、来た途端にザラッツの前に跪いた。


「ナスロウ卿、ようこそおいで下さいました」

「あぁ、結果的には出迎えごくろうだった」


 ザラッツが苦笑してそう返せば、迎えの兵で一番立場が高そうな男も苦笑する。


「アレを倒して頂いて、こちらはとても助かりましたが……私としては我が主にはあまり無茶をして頂きたくはないところです」

「すまない。彼がいなかったら大人しくそっちに任せていたさ」


 言いながらザラッツがセイネリアを見れば、迎えの連中も恐る恐る黒い男を見る。


「この方が……あの、セイネリア・クロッセス殿、ですか」


 この地ではそこまで悪く言われてはいないだろうが、それでも噂を聞いたことがあれば恐れるのは仕方ないところではある……特に今の彼であれば。だがセイネリアを見て息を飲んだ兵士たちにアジェリアンが声を掛けた。


「この男は噂通りの男だが、俺が一番信頼している男でもある」


 その言葉で兵士たちの緊張が解ける。アジェリアンがここでどれだけ皆から慕われているかというのがそれだけで分かる。


「大変、失礼致しました」

「いや、構わん、別に気にしてない」


 頭を下げた兵達に、セイネリアは無表情のままそう返す。その言葉が嘘ではない事をカリンは分かっていた。


 そうして後の始末を蛮族達に任せて、一行は砦へと向かった。砦では実際に蛮族達がやってくるのを見て、それからその説明や現状の報告を聞きながら昼食を取った。砦の隊長は引き留めたがったがあまり長くは滞在せず、昼食後は割合すぐに出発した。その後も予定通り国境のあたりを見て回って、途中でセイネリアを知る蛮族の者と会って時間を取ることもあったが、最終的に外が完全に暗闇になる直前には屋敷に戻ることが出来た。

 その夜はさすがに疲れたということもあって宴会ということはなく、夕食をザラッツとアジェリアン、ディエナと共に取って早めに就寝とした。


 そうして部屋に帰った後、先に寝ていろと言われたカリンはベッドの中でセイネリアと誰かの会話を聞いた。


「あぁ、悪いが朝一で頼む。待ち合わせ場所はそのままでいい、時間だけ変更だ。……分かった、その分の礼はいずれする」


 セイネリアの視線の先には果物を入れるための鉄製のボウルがある。だからセイネリアがどうやって話しているかも、その相手が誰かもカリンは分かった。だがなぜ主がそんな事をするのかカリンには理解できなかった。


次回は翌日の朝の話。

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