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黒の主  作者: 沙々音 凛
第十九章:傭兵団の章三
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29・地竜1

 草原を馬で進めば走らせなくても十分に体で風を感じることが出来る。柵の向こうの遠い道に蛮族達の姿を見ながら、彼らと同じ方向――現在ナスロウ領の入口となっている砦へとセイネリア達一行は向かっていた。

 なんの障害物もない広い地は距離感覚が狂うから、砦は見えているがなかなか近づけない気がするのは仕方ない。それでも確実に近づいているのは確かで、柵向こうの道も少しづつこちら側へと近づいてきていて、今は歩いている蛮族達の部族ごとの服装や武器の違いが分かるようになっていた。

 森と違って狭い場所ではないから一列になる必要もなく、現在はセイネリアが先頭を行ってその横にカリンがつき、少し下がってアジェリアンとザラッツが馬を並べて歩いている。それはセイネリアからの提案で、案の定横に並んだアジェリアンとザラッツはいろいろ楽し気に話していた。


「本当に仲が良いのですね」


 セイネリアがちらと振り向いて彼らを見れば、カリンが向こうには聞こえないくらいの声でそう言ってきた。


「そうだな」


 セイネリアは彼女の顔を見ずに答えた。

 あの2人の様子を見れば、あれだけザラッツがこちらに感謝の言葉を言ってきていたのも理解できる。つまり今のアジェリアンはザラッツにとって、ザウラのスローデンにおけるジェレ・サグと同じような存在なのだろうとセイネリアは思う。

 トップに立って自分がすべての責任を負うのに不安と恐れがあったあの男にとって、頼りになる腹心の部下はどれだけ嬉しかったか、彼のあのらしくないはしゃいだ様子から見て察せる。


 セイネリアにとって、腹心の部下といえばカリンだろう。ただザラッツやスローデンがアジェリアンやジェレ・サグに向ける感情とは自分の場合は違うと思う。カリンは自分と価値観が近すぎる。だから逆らうことはないし、こちらの非を指摘してくることも滅多にない。そういう意味ではエルの方がその役目を担っているが、エルはセイネリアにとって『忠実な部下』というポジションではない。傭兵団内では確かに立場として部下にあたるが、彼との関係は『仲間』という方があっている。自分の立場を考えた発言などエルには望んでいないので彼はそれで問題ない。

 おそらく、セイネリアにとって友と呼べる人間がいるとすれば、エルが一番近いのだろうと思っていた。


「あの物々しい集団は……少し気になりますね」


 後ろからそう、アジェリアンの声が聞こえる。だが実はその少し前に、セイネリアも柵向こうの道に立ち止まって集まっている、どこかの部族の戦士集団に気づいていた。


「どう見ても戦闘する気満々の連中だな」


 槍をもった4人と剣と盾をもった4人、得物が違うのはおそらく違う部族だからだろう。装備の違いというより身に着けているものの全体的なカラーリングがかなり違う。彼らはどうやら何かいいあっているようで、その様子から戦闘を前にした緊張感も感じられる。ただナスロウ領に向かって歩いている他の連中に対して何もしていない事や、こちらの姿が見えているだろうに挑発行動を起こしたりしないところを見れば、彼らがこれから想定している敵はクリュースではないと思っていいだろう。

 となれば、敵の正体はほぼ限られる。


「周辺に厄介な化け物でも出たか」


 セイネリアは馬を止めて彼らの方をじっと見てみた。やがて彼らのもとに走ってきた2人が合流して、そこから連中は慌てたように兜を被ったり剣を抜いたりし始めた。周りに向けて何か怒鳴って、他の連中が彼らから離れていく。


「やはり何か来るらしいな」


 セイネリアは馬を下りた。それを見てアジェリアンも馬を下りて盾を馬から外す。だが彼はザラッツも同様に馬から降りようとしたのを見て厳しい声を上げた。


「我が主はそのまま馬上で、何かあったらお逃げ下さい」


 セイネリアも一応腰の剣を抜いてからカリンに言う。


「カリン、何かあったらお前はザラッツと行動しろ」

「了解しました」


 返事と同時にカリンは馬をザラッツの近くに寄せる。

 セイネリアはアジェリアンに聞いた。


「あの柵を越えたら、砦に知らせが入るだけか?」

「あぁ、今はそれだけな筈だ。他の術は入っていない」


 ならばもし何か化け物が見えたら、さっさとあの柵を飛び越えてしまえばいい。砦に報告する手間も省けて一石二鳥だろう。

 言われてアジェリアンもそう思ったのか、そうだな、と呟いてセイネリアと共に蛮族の戦士たちの方を凝視する。彼らの周囲にいた他の連中が、逃げるように彼らから距離を取っているさまを見れば敵は近いと思われる。カリンとザラッツは森の近くまで下がっているから、大物が来た場合は森に入って逃げてくれる。勿論、よほど数がいるとかではない限り、向こうまで敵をいかせる気などないが。


 暫く待てば、その姿より先に化け物の上げる声が聞こえた。少なくともその声だけで向こうが何かは分からない。だが、その直後に頭だけが見えて、セイネリアは呟いた。


「あれは……地竜か」

「あぁ、そうだ。デカイな」


 そういえば確かに地竜が出るのはこのあたりか――セイネリアとしては聞いたことはあるが実際に出会ったことはない化け物の一つである。

 ちなみに地竜と冒険者の間では呼ばれているが、奴らはいわゆるドラゴンとはまったく別の種族である。見た目は手足首が少し長い大トカゲであり、羽もなく、当然飛べはしない。ただ口から火を吐く、だから『竜』と呼ばれていた。


次回は一応戦闘入りますが、そこまでガッツリ戦闘シーンって程じゃないです。

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