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黒の主  作者: 沙々音 凛
第十九章:傭兵団の章三
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25・自信と誇り

 首都よりも北になるこの地は夜になればかなり向こうより気温が下がる。更に空気も首都より澄んでいるから、夜に外へ出れば夏でさえ肌寒さを感じるくらいだ。


――風邪を引いたりはしなくても、寒いとは感じる訳か。


 現状、鎧を脱いで割合薄着のセイネリアは、自分の体の感覚を確かめてそう考えた。もし普通なら死ぬレベルに体を冷やした場合、自動的に剣の力で体温が戻されるのか、それとも一時的に生命活動が休止するのか、もしくは死亡した後で気温が戻ると生き返るのか……。別に試そうとは思わないが、休止状態に入るのなら死ぬのは無理でも冬眠のような状態にはなれるのかもしれないと思いはする。

 とはいえ今はまだ可能性を考えているだけである。まだ、全てを放棄する気はなかった。


 宴会はアジェリアンがつぶれたところでお開きとなり、セイネリアは彼をベッドまで運んでやった。今はそこから部屋に戻る途中で外廊下を歩いているところだ。

 肌寒さを感じて思わず考え込んでしまって立ち止まっていたセイネリアは、静まり返った外の風景を暫く眺めた。

 とはいえ、その場に立ったままだったのには理由がある。


「まったく、寒くないのかしら」


 そう言って近づいてきた女に、セイネリアは目を向けた。


「一応寒さは感じるらしいぞ」


 他人事のように答えてやれば、女は眉を寄せてから軽く顔を左右に振った。


「相変わらずへんな男ね」


 錆びた鉄のような髪色の女は、呆れたように溜息をつきながらやってくる。実は先ほどの宴会は、最初ザラッツはあの件に関わった人間達全員に参加するよう声を掛けたのだが、アジェリアンの仲間達以外は宴会参加を辞退したという事情があった。おそらくそれもアジェリアンの人望のせいで、彼が気兼ねなく存分に身内話が出来るようにと気を使ったのだろう。


 ガーネッドはこちらに近づいてくると、肩に手を置いてこちらにしだれかかってくる。


「悪いが今日は部屋でカリンが待ってる」


 いうとガーネッドは、あら、と声を出してから体を離した。


「残念な事に、私も一人部屋じゃないのよね。なら今回は顔を見ただけでいいことにしておくわ」


 そう言ってクスクスと笑ってくる。彼女はこうして寝るにしても寝ないにしても駆け引きを楽しむタイプで執着している訳ではないから付き合い易い。


「お前は今、ここで満足しているのか?」


 ふと思いついて聞いてみれば、ガーネッドは部屋に戻るつもりだったのか離れていこうとした足を止めて振り返った。


「そうね。……でも満足、と聞かれると難しいとこね。あたしは欲張りだから、望めるならいくらでも上を望みたい。でも……あんたが前に言った通り、あたしたちは本当に『運が良かった』とは思ってる」


 彼女はそこで小悪魔的に笑うと、完全にこちらを向いて両手を腰に置いた。


「あの盗賊ごっこの仕事で、あんたに真っ先に捕まったのがあたしたちで本当に良かった。もしあそこで捕まらなかったら、襲撃に参加して殺されるか、全員無事生き残ったとしても冒険者を無事に続けていられたか怪しいところだったでしょうね。……かといってもしあの盗賊ごっこの仕事を受けてなければ、商人の護衛をやるのがいいところのその辺にいくらでもいる冒険者のままで終わるだけだった。あの仕事を受けて、あんたに最初に捕まるなんていうのは一言で運といってもすごい確率よね。だからあたし達が今こうして人に胸張って自分の仕事を名乗れるくらいの立場にいるってことは、相当に運が良かった、つまりあたし達は人生の賭けに勝ったともいえる訳」


 女ながらにパーティーリーダーだった彼女は、そう言って得意げに胸を張る。セイネリアは彼女の言葉に、呆れつつも笑みを浮かべた。


「つまり、上を目指せるならいくらでも目指すが、現状はかなりお前的にイイ状況という事だな?」

「そうね、少なくともあんたと会う前の自分なら想像もできなかったくらい、今の仕事も立場も待遇も全部気に入ってる。勿論、あたしだけじゃなく仲間も皆ね。特に今の仕事は楽しくてやりがいがあって……何より、身内に堂々と自分の仕事を言って自慢出来る立場っていうのに喜んでる。なんていうかな、今の皆の顔には自信と誇りっていうのがあるのよ」


 そこは笑顔というよりも、どこか自嘲じみた声で。ガーネッドは言いながら視線を逸らした。


ガーネッドさんは実は遠慮して宴会には出ていませんでした。

このシーンはあともうちょいあるのでそれは次回。プラス、次回はカリンとセイネリアのやり取りも少々。キリ悪くてすみません。

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