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黒の主  作者: 沙々音 凛
第十九章:傭兵団の章三
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14・騎士の名

 グローディに行くことを決めてすぐ、セイネリアはナスロウ卿であるザラッツに都合を聞く手紙を書いた。返事はすぐに返って来て向うへ行く日程は決まり、そのあと魔法使いケサランに連絡を取った。いくら急ぎの用事がなく比較的忙しくない状況だとしても、さすがにグローディまでのんびり馬車旅など出来る程暇ではない。当然行きも帰りも彼を頼るつもりでいた。

 魔法使いの返事はいつも通り文句付きの了承で、そうしてグローディへ行く当日、今回はケサランに傭兵団にまで来て貰った。


「随分御大層なものを作ったじゃないか」


 勿論彼がここに来たのは初めてだ。ケサランはセイネリアの執務室に通されるとそういって笑った。


「金はあったからな」

「景気が良さそうでいい事だ」


 彼とのこの手のやりとりには慣れているが、どこか最近はぎこちなさを感じもする。おそらく今の彼は、この最初の会話でセイネリアが何かおかしくなっていないか確認しているというのがあるからだろう。


「行先はグローディだったか、すぐ行くのか?」

「いや、折角来てくれたんだ、茶くらいは出すぞ。どうせすぐ着く訳だしな」

「ま、それならありがたくもてなされるかね」


 そうして魔法使いは客用の長椅子にどっかりと座って大きく息をつく。

 セイネリアが傍にいたカリンに合図を送ると、彼女は一礼をして茶の準備のために部屋を出ていった。


「……それで、最近はどうだ?」


 セイネリアとケサランの2人だけになると、魔法使いは先ほどとは変わって真剣な声で聞いてくる。


「変わらんな、剣の中の奴らがはっきりと何らかの意思をこちらに伝えてきたりという事はない。極たまに剣から悪意を感じるくらいだ。それも無視していれば気にならない」

「いや、普通は剣からとんでもない負の感情が流れて来て狂う筈なんだがな」

「みたいだな、クリムゾンが剣を持った時はそれで自分の意識が飲まれたそうだ」


 ケサランは、はーっとそこでため息をついて頭を押さえた。


「剣の主として認められてるからギネルセアの狂気が止められているのか、それともお前の意思が強すぎて入り込めないのか……両方かもしれないがな」


 セイネリアとしては、ギネルセアが狂っていてマトモな意識がないというのはまだ分かるとして、騎士の意識が感じなさ過ぎる方が気味が悪いと、そう思ってからすぐ、ケサランに聞いてみた。


「お前達としては、騎士の意識はギネルセラに取り込まれて完全に消滅したと考えているのか?」 


 ケサランは目を見開く。彼らの間では騎士の存在など気にもされていないのだろう。


「取り込むというか、ギネルセラが強すぎて表に出られないだけだけだろう。抑えられすぎて自我をほぼ失っている可能性はあるが……完全になくなったという事はない筈だ。取り込まれたとしても完全に融合はないから何かしらの意志は残っているとは考えられている。あぁ勿論、いわゆる天に召されるようなこともあり得ない。魂が剣にとらわれている限りそこから逃げられないからな」

「そうか」


 取り込まれていない事をセイネリアは分かっているが、今まで聞いた話からすると、意識としてはもう執着だけが残っていてその執着が解消された――望みが果たされたから、意識自体が消えた、という事はあり得るかもしれないとは考えていた。騎士に対しては一応それで納得は出来るが、それでもすっきりはしない。特に、完全消滅はありえないならそれで片づけていいものとは思えない。


「そういえばやっぱり……黒の剣には文字はなかったか?」


 考えていればそう聞かれて、セイネリアは前に言われていた事を思い出す。


「名前か?」

「そうだ、ギネルセラの名前と騎士の名前が……普通なら入っている筈なんだがな。もし騎士の名が分かれば、騎士の方にお前の状態について詳しく聞く事が出来るかもしれないぞ」


 ケサランの言うところによれば、普通は魔剣自体にその中に入った魔法使いの名前を彫っておくものらしい。長い月日が経って意識がうすれていた魔法使いも自分の名前を聞けば自分を思い出す事が出来るからだそうだ。

 とはいえ、自分を思い出す必要がないと本人が判断した場合は入れない事も多いという。セイネリアの持つ魔槍はそちらのパターンだ。


「剣にも鞘にも文字らしきものはなかった。勿論、あんたが書いてみせた『ギネルセラ』を示す文字もな」

「そうか。ならわざと書いてないのだろうな」


 普通の魔剣だったのなら、ケサランが直接魔剣を見れば中にいる者の感情が読み取れるし、彼本人が剣を調べて名前が入っていないか探す事も出来る。だが黒の剣は魔力がある者ほど触ったり見たりする事が難しいため彼が直接剣を調べる事は出来ない。


「そもそも、ギネルセラの名前は残っているのに何故騎士の名前が記録に残っていないんだ?」


 記憶を見たところでは騎士も当時はかなりの有名人だった筈だ。ギネルセラの名は残っているのに騎士の名が残っていないのは不自然ではある。


「それは……なにせ国が完全に滅びたからな、名前を知ってたような連中は王が暴走した時に皆死んだ。だがギネルセラの方はな……ギネルセアは魔力が多すぎてその魔力を数々の道具に込めて魔法アイテムを作っていた、それに彼の名が入っていたんだ」


 ギネルセラが魔法アイテムを作っていたことは確かに騎士の記憶の中であった。

 つまり、国が滅んだ後も彼が作った魔法アイテムは残っていて、そのせいでギネルセラの名は分かったという訳か。おそらくその後は魔法ギルドで彼の名前が記録として残されてきた、という事なのだろう。


「今では遠すぎる昔の話だ、騎士の名を書いた記録がどこかに残っていない限り……分からないだろうな」


 残念そうに呟く魔法使いに向けて、セイネリアは皮肉気に唇を曲げて笑って見せる。


「別にいいさ、もし騎士に問いただせたとしても……どうせ大した事は分からんだろ」


 出来る事など、確定したくなかった事実が確定出来る、その程度しかない。

 だがそこで剣の話は終りとなった。カリンがティーワゴンを引いて部屋に戻ってきたからだ。


次回はグローディ領についてからの話。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] セイネリアは騎士については黙っておく内容でしたが、その辺りは小説外で伝えた認識で良いですか? 俺の記憶違いかな?違ってたらすみません。
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