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黒の主  作者: 沙々音 凛
第十九章:傭兵団の章三
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10・赤い男の望み

 ラダーの契約の話は、当然一般団員には話さなかった。

 だが、団内の幹部、つまり初期からいるメンバーには話しを通しておかないと後々面倒になるため、セイネリアはその場にいなかったクリムゾンに後でラダーについての話をした。それに対する彼の反応はある意味予想内ではあったが……。


「私もこの身をかけて貴方と契約します」

「つまり、お前も俺に望むものがあるのか?」


 そう聞き返せば、赤い髪の剣士はその場に跪いた。


「私の望みは貴方が最強の男として、その力を世に知らしめることです」

「俺は自分の力を必要以上にひけらかすつもりもなければ支配者になりたい訳でもない」

「貴方に地位など必要ありません、ただその名を聞くだけで皆が恐れる、貴方を見ただけで皆が負けを認める、それこそが最強の証です」


 こういう話をする時の彼の赤い目はまさに信者の目という奴で、盲目的にセイネリアを彼の理想の人間として映している。正直不快だが、この男の強さというものへの拘りがある程度理解できるだけに、そしてそれこそがこの男を強くしてきたという事も分かるだけに否定はしない。

 ただ苦笑して、放っておけば勝手な妄想でも話しそうな男に言う。


「俺の事ではなく、お前の望みを聞くと言ってるんだが」


 そうすればいつも通りの無表情に戻って、クリムゾンは静かに答えた。


「私の望みは最強である貴方にお仕えする事です」

「俺に仕える方が代価ではないのか?」

「いえ、私にとっては貴方に仕えられる事がなによりの褒美であり望みです」


 普通なら頭が痛くなるような問答だが、この男の望みをセイネリアも理解は出来ていた。


「……お前が欲しいのは、俺に一生捧げた絶対的な部下としての契約そのものか」


 赤い男は薄い唇に僅かな笑みを浮かべた。


「はい、貴方の絶対的な部下としての名目と形が欲しいのです」


 つまりこの男はセイネリアを裏切らず一生を捧げて仕える部下としてのその地位と契約という目に見えた証が欲しいのだ。


「自分で自分の身を縛る事もないだろうに」


 それに赤い髪の男はうっとりとした笑みを浮かべるだけで言葉を返さなかった。


「分かった、ならお前にも契約書を作っておく」


 馬鹿馬鹿しいとは思うが、本人が望むのなら叶えてやるのは構わない。


「ありがとうございます」


 クリムゾンはある意味幸福そうに笑った。彼が自分を見るその目は好きではなかったが、それだけで満たされたような顔を出来る彼をセイネリアは少し羨ましいとは思った。






 ラダーが交渉に来た時、自分もその場に呼んでほしいとエルはセイネリアに頼んでいた。だからラダーが自分で考えた代価も、それに対してセイネリアが返した答えも、その場でずっと聞いて、見ていた。


――確かに、たった一つしかないわな。


 考えれば確かにそうではある。セイネリアは難しい問題を出してはいない。自分を投げうってでも叶えたい望みがあるなら当然答えはそうなる。逆を言えば、それだけの覚悟がない人間ならその答えは出せないが、それだけの覚悟があればその答えしか出ない。


 そしてセイネリアならあんな契約をしたとしても、ラダーに本気で危険だったり苦しかったりの汚れ仕事を押し付けて使い潰すような酷い使い方をしない。きっとセイネリアならラダーの性格と能力を見て、一番彼にとって得意で役に立つ使い方をするだろう。彼と約束した通り、孤児院についての援助やら保護についてもきちんと行うのは言うまでもない。

 あの男がどんなに俺様でわがままで傲慢にふるまっても、必ず約束を守る事をエルは知っている。だからモーネスの残した孤児院もこれで安心していい筈だった。


「あー、とりあえず基本は他の団員達と扱い自体は一緒にすっから、特に指示がない場合は自由にしてていいってさ。あ、外出すっ時は同室の奴に何時から何時くらいの予定で何処いくか、大雑把でいいから必ず伝えてく事な」


 正式にラダーが傭兵団に所属する事になって、荷物をもってやってきた彼への案内や団の説明は、他の団員達の場合と同様エルがする事になった。ただ彼は契約が特別ではあるから、多少事前に注意しておかなくてはならない事がある。


クリムゾンならそうなるよなって感じのお話でした。

次回はエルとラダーの会話の続き。そっちのシーンは次回で終わり。

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