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黒の主  作者: 沙々音 凛
第十九章:傭兵団の章三
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8・代価1

 黒の剣傭兵団。まだできて間もないのに既に首都では大手扱いであるこの傭兵団は、だが団員の人数自体はそこまで多くはないという。その理由は入団審査が厳しいからで、ただその分団員の能力は間違いないと言われている。また団自体の規模の割に設備や団員の待遇はどの大傭兵団よりも良く、それは固定の依頼主に貴族が多く実入りのいい仕事が安定して入ってくるせいだそうだ。


 だがこの傭兵団が冒険者の間で一目置かれるのは、何よりも団の長であるセイネリア・クロッセスの存在が大きい。貴族からの仕事が多いのは、平民の出なのに彼が貴族に多くのツテがあるからで、地方ではいくつかの貴族の領主争いに関わっては必ず付いた側を勝たせてきたと言われている。また彼の策略で失脚した貴族も一人二人ではないという事で、貴族でさえ彼を敵には回したがらない。

 勿論、彼の冒険者としての能力の方も化け物としかいいようがなく――というか、あまりにも噂の内容がありえなさ過ぎて、真実とは思えなくて逆に分からなくなった、というのがラダーが彼について事前に調べて出した結論だった。


 ラダーがモーネスからセイネリアの名前を聞いたのは2回あった。

 一度目は、冒険者となった孤児院出身の者が噂として彼の名を出した時で、ソレズドがその名を聞いただけで青い顔をしていたから聞いてみたところ、一度だけ仕事で組んだことがあるのだと言っていた。

 その時に、モーネスは彼のことをこう言っていた。


『セイネリアという男は、噂で言われるような残虐非道の人間ではない。彼を残虐非道というのはやましい行いをしている者だけさ』


 思えばあの言葉は、ソレズド達がやましい事をしているという意味もあったのだろうか。モーネスはソレズドが以前からあのようなマネをしていたのを知っていたのだろうか、と今になってラダーは思う。

 2度目はモーネスが死ぬ直前で、孤児院の子供達を頼むといった後、少し考えた後に言ったのだ。


『もし……どうしても無理な……絶望的な問題が起こったら、セイネリア・クロッセスに助けを求めてみるといい。引き受けてさえくれればまず大抵の事をどうにかしてくれる筈だ。ただし、相応の代価と覚悟は必要だろう。だが代価が払えなくても……嘘偽りのない、お前が正しいと思う言葉で頼めば……最悪でも問題を改善する方法くらいは教えてくれるのではないかな』


 その時に浮かべていたモーネス神官の顔は、笑みというより自嘲といったほうがいいもので、まるで罪の告白のようにも聞こえた。

 だからソレズド達が犯した罪があれだけではなく前にもやっていたと知った時、モーネスはそれを知っていた、もしくはその犯罪行為に関わっていたのかもしれないとラダーは思ったのだ。信じたくはなかったが、目を閉じてはいけないと思った。

 ただモーネスがセイネリア・クロッセスという男について言った言葉は嘘ではなかったと思う。あの男を見て、話して、それを確信出来た。


――重要なのは覚悟だ、そしてあの男に認めてもらう事。


 ラダーはセイネリアに言われた通り、あの後ずっと考えた。自分に出せる代価、あの男の益になるもの。あそこまで言っていたなら、それは不可能なものではない筈だった。


 だから、思いついたのは一つ。代価は自分自身だ。


「代価は考えてきたか? 言っておくが、期限的に今日この交渉が成立しなかったらもう次はないぞ?」


 セイネリア・クロッセスの声には抑揚がなくて、感情が見えない。纏う空気は張りつめていて、近くにいるだけでも体が震える。顔を上げるのさえ気力がいる。

 そうしてその顔を見るのは、相当の覚悟が必要だった。


「はい、俺に何が出せるか考えました。勿論、次がないと思ったからぎりぎりまで考えました」

「それが、覚悟か」

「はい」


 ただ、彼には情は感じられなくても、悪意がないのは分かる。こちらを見下してもいない、馬鹿にしてもいない。彼にとっては道端のゴミ程度の存在である自分に対して、この男は交渉をしろと言ってくれた。それだけでこの男が真剣に自分の話を聞いてくれていて、こちらが相応の覚悟を示せば望みをきく気があるのだと分かる。


このシーンは次回まで。

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