29・分かりました
「さすが、お見事です」
ザラッツの声は明るい。カリンはまた反射的に眉を顰めた。
一方、当然こちらが見えていただろうセイネリアも、ザラッツを見ると嫌そうに眉を寄せた。
「折角貴様の分も残しておいてやったのに、見物だけか」
「……私が出れば逆に邪魔だったでしょう。少なくともその槍にとっては」
セイネリアは騎士を見たまま一度黙る。だがザラッツはそれ以上はその話に乗る事はなく、辺りに散らばっている死体を確認しだした。セイネリアは軽く息をつくと騎士に向き直った。
「まぁいい。……盗賊退治の証人にはなってくれるんだろ」
「勿論です、全員で何人ですか?」
「こっちは9人だな。そっちは?」
「こちらは5人でした、14人とはなかなかの大所帯でしたね」
「いや、全員で15人だ」
セイネリアの言葉に騎士が止まる。
セイネリアは笑って奥の木の陰を親指で指した。
「一人こっちに協力してくれた……という事で、あんたの主に俺が盗賊を倒したという証書を書いてもらうついでに、奴も協力してくれたという文を追加してもらいたいんだがな」
騎士がセイネリアの指す方を見れば、木陰から小柄な男が出てくる。見た目からしていかにも盗賊達の仲間だというのが一目で分かるみすぼらしい姿に、体格、顔つきから見ても特にコレという能力がなさそうな男だとカリンは思った。
「……別に協力者など必要なかったでしょう」
「そうでもない。連中は小屋の中にいたからな、全員相手しやすいように外に誘い出して貰ったんだ、それになかなか使えそうな男だ」
騎士ザラッツはその男を値踏みするように視線を向けてじっと見つめる。けれどそこからセイネリアに向き直ると明らかに不満そうに返した。
「どう見ても心身ともに貧弱そうで……使えそうには見えませんが」
セイネリアは意味深に笑って騎士の肩を叩いた。
「自覚がある臆病者というのは意外に使えるものだ、別に強い必要はない」
それには返事をする事なく、騎士はこちらに近づいてくる男を更にじっと見つめた。あまりよく思われていない事を察したのか、男は近くまで歩いてくると騎士の視線を受けておどおどとぎこちなくお辞儀をした。
騎士はそこで大きくため息をついて、セイネリアに視線を戻す。
「協力者として証書を出すという事は……連れて行くんですか?」
それにはいかにも当然だという顔で、やけに機嫌が良さそうにセイネリアは騎士を見る。
「そうだ。……グローディ卿ならその程度は気前よく了解してくれるだろ?」
「足手まとい……」
「にはならんさ、見張りや偵察には使える。臆病、というのはそれだけ恐怖に敏感ということでもある。それに奴が戦えなくても戦力なら足りてるだろ?」
「所詮盗賊に落ちた脱落者です。信用できません」
いまだに不満そうな騎士にセイネリアは笑って言う。
「なんだ、奴が裏切ると思うのか? ……さっきの俺の姿を見た後で?」
最後の言葉には、笑みといってもどこかぞっとするような空気を含ませて。
それに騎士は反論をせず、暫く黙った後に、分かりました、と言って頭を下げた。
この仕事の件もこんな長くするつもりはなかったんですけどね。




