51・ボーセリング家1
そこから2日後、セイネリアは首都セニエティの東の下区、その中でも人通りの少ない地区――つまり、リオが攫われた周辺を一人で歩いていた。
昨日は葬儀という程ではないが、団員達に見せる意味もあって団全体でリオを弔った。カリンの部下も一部出席して、団の人間でなくとも何があったのかわかる程度の規模で行った。敵対勢力を徹底的につぶした事、殺された団員を丁重に葬ってやった事――事情を知らない連中でも、その事実を知れば勝手に話を繋げてくれるだろう。そうして恐れとともに噂をする、黒の剣傭兵団の者に危害を加えればどれだけ恐ろしい目に合うかを。
おそらくそれで、少なくとも他の傭兵団等の冒険者達はまずこちらに手を出そうとはしてこなくなる。貴族等、権力がある連中はそれでもまだ『所詮冒険者ふぜい』と思いはするだろうが警戒せざるを得なくなる。余程の覚悟か自信がなければ、敵対を考える者はまずいなくなるだろう。
「ここでうろうろしてみせているのは、全部が終わって私のお願いを聞いてくれる気になった、という事でしょうか?」
聞こえた声に振り返って、セイネリアは薄く笑みを唇に纏う。そこにいたのはボーセリング卿の弟、アディアイネだ。
「気配の消し方はさすがに犬どもの先生というだけはある」
「それは褒めていただいて光栄、というところですね」
「ただ言っておくと、あんたがヴィンサンロアの術で消えたところで俺には見えるぞ」
それには返事が返らず少し間があく。向うはどう返すべきか迷っているところだろう。だからセイネリアの方から話してやる。
「姿は見えなくても魔力が追える。俺は魔法使いどもに少しばかりツテがあってな」
「……確かに、個人的に魔法ギルドと連絡を取っているらしいとは聞いています」
こちらに頼み事があると言ってきたのだ、当然ボーセリング卿が知っている以上の事をセイネリアについて彼独自のルートで調べてきているのだろう。そしてまた、セイネリアも彼と交渉をするために彼の事、そしてボーセリング家周りの事をもう少し詳しく調べていた。
「俺も少しあんたの事を調べた。まずあんたはボーセリング卿の本当の兄弟ではない。というかボーセリング家はそもそも当主の子供にあとを継がせる家じゃないんだな。血縁の中から選ばれた者が当主に選ばれる……違うか?」
勿論ボーセリング卿については彼と手を組む事にした段階でも調べていたが、あのころはまだセイネリアにそこまでの力がなかったこともあってあまり詳しく調べられなかった。更に言うと現在のボーセリング卿は『たまたま』前ボーセリング卿の子であったためそこに疑問を持たなかったというのもある。
ボーセリング家について歴代当主を調べてみればほとんどが親戚から養子に取った人間で、それが現当主の実子がいる場合でもとなれば――当主にするために養子にした、つまり当主になる者が選ばれて本家に迎えられたのだと考えられる。おまけに目の前のこのアディアイネの能力を考えればもう一つ予想をつけられる事もある。
「ボーセリングの犬は優秀だ。だがなぜ毎回そんな優秀な者を育てられるのか……それは優秀な先生役ががいるからじゃないか? そして何故毎回優秀な先生役が都合良くいるのかは……」
言って相手を見てやれば、アディアイネはわざとらしく肩を竦めて苦笑してみせる。
「そこまで分かっているなら話は早いですね。えぇ、暗殺の請負を始めたボーセリング家の当主は、まず確実に優秀な暗殺者を得るために自分の子供たちを魔法使いに実験材料として提供したんですよ」
一応敵対勢力絡みは一段落したので、こちらの話。
このシーンは次回まで。