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黒の主  作者: 沙々音 凛
第十八章:傭兵団の章二
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46・殺すための戦い1

 セイネリアはボーテを前にしてふと、考えた。

 もしもリオの死がなければ、自分はこの男をと戦っただろうかと。


 ボーテがセイネリアを恨む理由は分かる。彼にとってセイネリアは、キドラサン領の英雄であり崇拝する師が罪人になった果てに自害した――その原因を作った張本人に思えたのだろうから。サウディンの説得役としてセウルズを連れていったのはセイネリアであり、セウルズがサウディンやその母を殺す事を止められず、更には自害する事も止められなかった――と責められたならその通りだと答える。

 勿論、事実は違う訳だが、そういう事で構わなかった。

 実際のセウルズは生きていて、彼は弟子を巻き込まないために真実を隠した。だからおそらくもしリオの死がなければ、ボーテが同じように勝負を挑んできても出来るだけ戦わずに済むように、少なくとも殺さずには済むようにしてやっただろう。場合によってはセウルズが生きている事を教えたかもしれない。


 だが、計画外としても部下リオが死んだ原因を作ったこの件の首謀者である彼を、団の長としてセイネリアは助ける訳にはいかなかった。セウルズが知れば嘆くだろうが、例えあの男に恨まれても、セイネリアの立場としてはここでボーテを殺す以外の選択肢はない。ボーテを助ければ団員を裏切った事になる。

 今のセイネリアがボーテに掛けてやれる唯一のなさけは、彼の気が済む状態で、彼が最大限の力を発揮できる状態で戦ってやる事だけだった。


 セウルズとの戦いで、セイネリアは一度アッテラ神官が死ぬ覚悟で掛ける限界までの強化をする姿を見ている。ボーテがそのつもりで術を掛けているのはすぐ理解出来た。だから術が全てかかるのを待ってから、セイネリアはゆっくりと彼に見せるように剣を構えた。


「いつでも来ていいぞ」


 彼が掛けられるだけの術を掛けるのを待つつもりだから、始めるタイミングは向うに任せる。


「では、行きます」


 律儀にそう言ってから、ボーテは構えた。武器は師と同じ両手剣、セイネリアも両手剣だから公平ではある。勿論防具の差でセイネリアの方が有利ではあるから本気で公平とは言えないが、少なくとも得物の相性による優劣はない。

 彼の性格を示すように、構えは基本である剣先を相手に向けて顔の横に構える形だ。その体勢で腰を落とし、じりじりとこちらに近づいてくる。対するセイネリアは剣先を下に向けて相手の出方を伺う。

 ある程度近づいたところで、ボーテが仕掛けてくる。


「はぁっ」


 剣を突き出すと同時に大きく一歩、ただセイネリアから見て仕掛ける位置が少し遠いと思っていたそれは計算違いで剣はセイネリアの胸まで届いた。勿論下がって避けたがそれでセイネリアは彼に対する認識を少し変えた。


――狂化前提で準備をしてきたか。


 セイネリアの計算違いが起こった要因は2つ。1つは剣の長さで、もう1つは一歩の大きさだ。ボーテの剣は彼の体格からすると少し長く、踏み込んできた一歩は筋力が上がった状態だからこそ思ったよりも速く、歩幅も大きかった。理由だけ聞けば当たり前ではあるが、人間いくら筋力が上がろうとそれに任せて体を動かしても上手く行くものではない。強い戦士の動きは積み重ねた鍛錬に基づくものであり、いくら筋力が上がってもいつもの武器と違う長さの剣を使えば普段の動きと合わずに生かしきれないし、一歩でより速く前に行けたとしても普段の距離感と違えば剣を出す側の腕の動きと連動出来ずに狂いが生じる。


 つまり、いくら筋力が強化されようが普段の鍛錬で使った事のない力を最大限に利用する事は不可能である。それはセウルズの時にも思った事だ。

 だがボーテは、事前に体が壊れる限界近くまでの強化を行ったか、あるいは感覚を掴むためだけに限界までの強化を行った事があるのか――とにかく今この時、最大限の強化をした状態の力で戦う事を前提とした準備と鍛錬を積み重ねてきたという事だろう。そこは、セウルズのように突発で狂化を行うのとは大きな違いがある。


 自然、セイネリアの口角が上がる。


 避けられたたものの、ボーテの剣はすぐ次の踏み込みと同時に追ってくる。今度はそれを剣を当ててそらしたが、やはり想定以上に相手の剣は重く、思ったより大きく軌道を変えられていない。だからすぐに切り返されて戻ってくる、セイネリアは今度は剣を受け止めた。ぐっと重い手ごたえが返る、だがセイネリアもそこで力を入れて相手の剣を止め切った。


一応この章で一番気合を入れる戦闘シーン。

おそらく3話くらいかかるんじゃないかと。

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