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黒の主  作者: 沙々音 凛
第十八章:傭兵団の章二
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40・義務と望み

 セイネリアは敵達の姿が自分の視力でぎりぎり見えるくらいの位置まで来ると馬を止めた。


 周りを囲む団員達の一人が、敵の一団に向かってリパの光石がついた矢を放つ。それは敵というより彼等の乗ってきた馬の傍に落ち、そうしてまぶしい光を放った。勿論それで敵達は目をやられて慌てたが、それ以上に彼等の馬がパニックに陥って暴れ出し、次々に逃げ出した。これは最初から馬狙いで、まずは彼等から馬に乗って逃げるという選択肢を潰したという訳だ。


 流石にウチの連中は馬鹿じゃない――そんな事を思いながらセイネリアは団の者達が敵に突っ込んでいく様をそのまま馬上から眺める。


 報復や復讐なんてモノ、セイネリアは馬鹿馬鹿しいとしか思っていない。そんなモノをしたって死んだ者が生き返る訳でもない、だから意味はないと思っていた。その考え自体は今も変わらない。セイネリア個人の問題ならやろうとは思わない。

 だが……組織としてなら、それは必要な事ではある。

 他の人間を守るためにも、彼等の怒りを解消させ、団の一員として従わせるためにも――つまり、残った他の連中のために、徹底的に敵を叩き潰す事は必要だった。セイネリアは傭兵団という組織の長として、彼等を駒として使う代わりに、彼等を守り、満足させてやらなければならない。


――まったく、だから地位なんてものがあると面倒なんだ。


 傭兵団がなかったなら、もっと別のやり方もあった。どうせ自分は死なないし、自分だけならば例え警備隊に追われる身になってもかまわないから、キオットの屋敷でも、グクーネズ卿の屋敷でも怪しいと思った時点で乗り込む事も出来た。


――いや、それでも間に合わなかったか。


 リオが自害した理由は部下として主であるセイネリアの足を引っ張りたくなかったとそれだけだろう。彼の性格ならそれは不自然な事じゃない。そして彼なら、セイネリアを恨む者達に捕まった段階で迷いなく死ぬ事を選んだのも分かる。


――俺は、何をしたいんだろうな。


 思考はどこまでも冷えていて冷静だ。だがいくら考えても自分が今、何をしたいのか、何を望んでいるのかが分からない。今の自分は傭兵団の長としての義務を果たしているだけで、別に望んで何かをしている訳ではない。


 セイネリアは敵を惨殺している団員達の姿をただ見ていた。

 一応こちら側に被害が出そうな状況であれば出ていくつもりであったが、どうやらその必要はなさそうだった。それほどまでに一方的な殺戮が繰り広げられている。

 必要な情報はキオットから手に入れているから、後はただ見せしめに連中の仲間を全て始末すればいい。それも出来るだけ他から見て残虐だと恐れられる形で。

 唯一危惧する事があるとすれば、恐ろしさを伝えるために全滅まではさせないように言ってあるそれが守られるかどうかくらいだろう。セイネリアが言ったのだから忘れていないとは思うが、あの状況だと誰かが止め役をしなくてはならない。とはいえエルの事だからそれを見越した人選をしている筈だった。


 血とともに敵達の体の一部が飛び、団員達の体が血に染まっていく。

 いわゆる凄惨な光景ではあるが、セイネリアはまったく何も感じなかった。死ぬ敵達の無残な姿に同情もなければ、戦いに血が沸き立つ訳でもなく、団員達の勝利に安堵も喜びも感じなかった。ただ義務として事務的にみているだけだ。

 やがて、聞こえてくる声も少なくなってくる。

 最初のうちは我先にと敵を取り合うように殺し回っていた団員達も、敵の数が減ってくれば次々と戦闘を止めていく。

 そうしてついには悲鳴が全く聞こえなくなる。

 代わりに団の者達の勝利に湧く声が聞こえてきた。


 もともとの実力差もあって戦いにさえなっていないただの殺戮が終わったのを確認して、セイネリアは血を浴びて笑っている部下達のもとへ馬を向かわせた。


全員での報復はこれで終了。

次回は、終わったあと翌日の話。

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