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黒の主  作者: 沙々音 凛
第三章:冒険者の章一
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26・盗賊の男

 冒険者が国中を『冒険』して歩く為、森や山などの人里から離れた場所には雨風をしのぐ手段として、神殿が置いたほこらや、国で建てた共同小屋があることが多かった。盗賊だろう男が向かった先はその小屋の一つで、どうやら古すぎて誰も使わず放置され忘れ去られていたものらしいとセイネリアは思う。


「随分とボロイが……人はそれなりに入れそうだな」


 共同小屋だったのだろうがそれなりに大きさはある。ごろ寝でいいなら10人以上楽に入れるだろう。問題は中に何人いるかだが――考えてセイネリアはどうするかと手に持つ槍を見つめた。前回の教訓があるから今回は既に魔槍は呼んでおいてあるのだが、まさかこれを持ってあの小屋の中に入り込む訳にはいかないだろう。最初から人数を相手する気で準備したものの狭い建物の中で使うにはどう考えても不向きな得物だ。

 だが考えていたセイネリアの視界の中、小屋から一人の男が出てくる。セイネリアを案内した男とは別の男だが、小屋を出るだけでやけに辺りを警戒していた。歩き方もなかなかに慎重で、少なくともここから聞こえる足音は立てていない。


「あれは使えそう……ではあるかもな」


 相当に用心深い性格らしく、警戒しながら向かった方向は街道とは逆の方の森の中だった。ただ当然、先ほどの見張りの男の報告を受けて出て来たのだろうから行先は決まっている。セイネリアは森の中からそのまま男が向かうだろうルートを先回りして男を付ける事にした。注意するのは気配を消しすぎない事……そうすれば、警戒心の強い男なら必ず気づく筈だった。

 予想通り、はっきりとこちらの姿を取らえられないものの気配を感じたのか、やがて男は数十歩ほど歩いては止まってきょろきょろと辺りを見渡す事を繰り返す。だからその、何度目かの足を止めたところでセイネリアは男に姿を見せてやることにした。


「誰だっ?!」


 流石に向こうが立ち止まったにタイミングに歩いていけば、足音がはっきり聞こえたろう男はこちらを向く。短剣を構えて、だがその体勢は小屋とは反対方向へ逃げようと構えている――咄嗟の判断能力も悪くない、とセイネリアは僅かに口元を歪めた。


「お前は獲物の戦力と現在の状況を確認しに行く役、というところか?」


 こちらを視認した男は身を屈めてすぐに逃げる体勢を取る。これ以上近づいたら逃げると思ったセイネリアは、だからそこで足を止めた。


「俺はお前が今様子を見に行こうとしていた『獲物』の仲間だ。そして察してるとは思うがお前達のアジトからお前を付けて来た……さて、お前はどうする?」

「どうする、だと?」


 アジトを知られてる段階で逃げてこちらを撒く意味はない。となれば、普通に考えて男がとれる選択肢は二つ。こちらを倒せると思うのならアジトに戻って仲間を呼ぶ、無理だと思うなら自分だけ逃げる――セイネリアにとってはどちらでもいいが、この男が本当に有能ならばもう一つの選択肢もあり得る。


「仲間の元に逃げ戻って仲間を呼ぶか? なら、行かせてやるぞ」


 言いながら手に持っていた魔槍を肩に担いで見せる。男の表情がこわばるが、男はそこですぐに逃げ出しはしなかった。


「……残念だがあそこの連中はしょせん烏合の衆だ、あんたに勝てるとは思えないね」


 男は言って無理に顔に笑みを浮かべる。勿論体勢はいつでも逃げられるようにしていた。


「なら、どうする?」

「それはこっちが聞きたい。わざわざ殺さずに俺に話しかけてきたんだ、あんたは俺に別の選択肢を用意してるんじゃないのか?」


 セイネリアは唇に薄く笑みを纏った。少なくとも馬鹿ではない、と男に対して評価を上げてやる。


年末なのにキリ悪いとこで終わってすみません(==。とりあえず今年の更新はここまで、かな。

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