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黒の主  作者: 沙々音 凛
第十八章:傭兵団の章二
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28・遊び2

次回はカリンサイドで1話。

「手は抜いていないが本気ではなかったろ」


 セイネリアが言えば、アディアイネはまたくすくすと楽しそうに笑った。


「そうですね、本気で殺す気はありませんでしたが、貴方に勝てないのが分かったので十分です」

「自分より強いかどうかが確認したかったのか?」

「えぇそうです、貴方だって強い人間を見たら自分より強いか確認したくなるでしょう?」


 そう言ってこちらを見る目には狂気がある。

 ただすぐに男は自分の顔を軽く押さえて目を閉じ、開き直す。その時には彼の目はどんよりと曇っているだけで狂気は消えていた。ただ、口元には緩い笑みが浮かんでいたが。


「貴方の事は噂でも知っていますし、兄からもよく聞かされていました。でもやはり、本人の力を見てみないと判断はしたくなかった。だから試させて頂きました」


 言うと同時に、アディアイネは芝居じみた大仰なお辞儀をしてみせた。


「別にこの程度では怒りもしない。だがなんのために試した? ただの力比べがしたいだけじゃなかった筈だ」


 大袈裟に頭を下げた男は、そのまま頭を上げずに呟く程の声で言ってきた。


「えぇ、実は貴方に少々お願いがありました」

「何だ?」


 すかさずセイネリアは聞き返したが、男は返事をせずに顔を上げると作ったような笑顔を浮かべてから口を開いた。


「今はまだ、貴方の方も忙しいでしょうから後にします。ですが、お願いのために多少恩を売っておこうかと思いまして」

「恩?」


 男はそこで後ろへ下がる。顔には作った笑みを浮かべたまま、セイネリアの目を見てくる。


「はい。まず第一に、兄は貴方に害をなそうとしている連中と直接繋がってはいませんが、貴方の情報を流しています。そして二つ目に、その連中は大きく2つの派閥に別れて揉めています。片方はとにかく恨みを晴らすためなら何でもやる馬鹿者共、もう片方は恨みがあるのは貴方だけであるから他の者に危害を加えてはならないという方針の連中です」


 内容自体はセイネリアの予想の範疇である。だがそうであるという事は、それが事実である可能性が高いとも言える。一応、確定材料としては十分意味のある情報、だが……。


「情報としては予想通りでそこまで有難くもないな、連中のアジトは分からないのか?」


 聞いてみれば、男は大仰に肩を上げてみせた。


「アジトは一か所ではないですし、連中いつも移動していますからね。それにアジトを探したところで、貴方が探している者は見つからないと思います」

「どういう意味だ?」

「向うは貴方の下にクーア神官がいる事を知っている。となれば隠すものはクーア神官が見る事が出来ない場所に……そう思いませんか?」

「確かに、そうだな」


 セイネリアがそう返せば、男の姿はまた影の中に消える。


「それでは、また。次は貴方の方が落ち着いてからお会いしましょう」


 最後にそれだけを返して男は去って行く。セイネリアには去って行く男を魔力で追えたが実際追いかけようとは思わなかった。そうすればすぐに見えなくなる。セイネリアには確かに魔力が見えるが、余程魔力の強い者でもない限りは少し離れれば見えなくなる程度のものだ。素の目がいいセイネリアなら、相手が魔法使いレベルでさえ目視の方が遠くまで見える。それもあって普段は意識して魔力を見ようとはしていない。相手が隠れているか、障害物がある場合に便利なだけだ。


「……で、なんだあれは? 知り合いなのか?」


 そこまで黙っていたエデンスが、向こうが消えて暫くしてからこちらに歩いてきた。


「まぁな、最近知り合った」

「とんでもなく物騒な奴だったな……お前さんの知り合いなら驚かないが」

「そうだな、腕は相当だ。あぁ、本気でもう傍にはいないから安心していいぞ」


 まだどこか緊張した雰囲気だったエデンスに気づいてそう言ってやれば、クーア神官はそこで安堵したように大きくため息を吐いた。


「そりゃよかった。……なんというか、ここまで近づかれるまでまったく見えなかったからな、こういうのはまずないから気味が悪いというか、正直、ぞっとした」


 考えれば、千里眼持ちのクーア神官である彼は、いつでも相手が見えないところから自分だけが見えているのが普通である訳だ。だから見えない間に相手が傍にいるという事により恐怖を感じたのかもしれない。


「成程、いくら遠くが見えて、障害物さえ透視できても、そもそも消えてる相手は見えないという訳だな」


 千里眼は距離と障害物が無視できるが見えるものが見えるだけだ、考えれば当たり前の事ではある。


「あぁ……影に消えるのはヴィンサンロアだったか。普通はこっちが見てない距離から消えたりしないだろうよ」

「まったくだ」


 使うだけで痛みを伴うヴィンサンロアの術は、使うにしても最小限の間だけにするモノだ。まぁセイネリアは、痛みを感じずに使えるようになった者を知ってはいるが。


「で、あいつは信用出来るのか?」


 まだ気味が悪そうに周囲を見ながらエデンスが聞いてくる。


「あぁ、おそらくな。奴には俺に手を貸す理由はあっても騙す理由がない」


 セイネリアはそう返してから一度また周囲を見渡して、そうしてクーア神官の方に向き直った。


「悪いが一旦、団へ帰る。カリンと話す必要が出来た。それとあんたには見てきてもらいたい場所がある」


 リオが捕まっているとすれば、クーア神官が見えない場所。つまり、断魔石で見えないところとなる。となれば連中の仲間の中の貴族の館と考えるのが妥当だろう。


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