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黒の主  作者: 沙々音 凛
第十八章:傭兵団の章二
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21・狸親父と……2

「さて、本題に入ろうじゃないか、相談があるという事だが」


 にこやかな顔でボーセリング卿はそう言ってきたが、弟の話はそれで終わりにしろと強制する意味もある。セイネリアもだから大人しく話を切り替えた。


「あぁ、実はこのところウチの傭兵団に嫌がらせをしてくる連中がいてな」

「ほう……それは随分命知らずだね。だがそんな連中に困る君ではないだろう」

「まぁそうだな、そういう連中がいる事自体は想定内ではあるんだが」

「何か別に問題があるのかね?」


 そう聞き返してきた顔は心配しているようにみえるが、その前に一瞬、爬虫類のような胸糞の悪い顔になったのをセイネリアは見ていた。……気付かないふりをするが。


「どうやらこちらに恨みがある連中に声を掛けて、協力して復讐してやろうと企んでいる何者かがいるらしい」

「それはまた、随分と恨まれているようだね」

「何、あんた程じゃない」


 ボーセリング卿はそれに笑い声を返してくるだけだ。だがこの親父がこの話にかなり食いついているのは見て分かる。


 今日ここへセイネリアが来た目的は、このところの嫌がらせ事件を話してみてこのクソ親父の反応を見てみる事で、更に言えばこの件についてこちらの持つ情報を与えてやるつもりもあった。

 セイネリアが現在持つ情報網はボーセリング卿よりもずっと大きいが、この親父は親父でこちらとは違う方面での情報ルートを持っている。しかも例の連中はこの親父に接触する可能性が高い。既に接触しているならもう向う側に協力しているだろうし、そうでないならこちらの情報をやってボーセリング卿から手をまわして繋がりを持ってもらうのが狙いだ。


「そうだね、否定はしないが」


 言いながら笑ってみせる狸親父の目は笑っていない。予想通り、向こうに動揺はない。騙し合いに慣れ切ったこの親父がこの程度では尻尾を見せないのは予想通りではある。

 セイネリアはゆっくりと足を組むと、世間話のように気楽そうに話を続けた。


「今のところ、実際手を出してきた連中は雑魚ばかりなんだが、首謀者はなかなか頭がいいらしくて尻尾を掴ませてくれない」

「君がそう言うなら相当だね」

「あぁ、先日やっと下っ端を捕まえたんだが、どうやら実行部隊と首謀者の間には何人も人が入っているらしくてな、簡単に辿れなくて苦労してる」

「ほう、確かにそれは頭が回る」


 目は笑っていないが口元に本気で楽しそうな笑みを浮かべる親父は、まさに今、思った通りに事態が進んでいるのを見てほくそ笑んでいるという状況のようだ。

 この親父がこちらへの嫌がらせ事件を知っていない筈はないが、反応から見て首謀者とは接触中、もしくは首謀者を分かっていて様子を見ている最中かもしれない。少なくともこちらよりは首謀者について知っていると思って間違いないだろう。

 なにせもし首謀者にまったくあたりがついていないのなら、この親父ならもっと積極的に大仰な同情の演技でもして詳しい事を聞き出そうとしてくる筈だ。


「もしかしたらそっちにも声を掛けてくるかもしれないと思ったんでな、一応あんたに確認しておこうと思った次第だ」


 それを笑って言ってやれば、狸親父は常に笑みのように見える顔に更に深い笑みを浮かべた。そして即座に声を上げて笑ってみせる。


「ははは、勿論何かあったら君に知らせるさ。なにせ私は協力者としての君を大いに評価して頼りにしている、君に何かあったらこちらも困るからね」


――狸親父め、よく言う。


 そうは思うがこちらも表面上は笑みを浮かべてやる。


「あぁそういえば捕まえた連中の下っ端だがな、デルエン領の奴がいたんだ。あそこにはあんたの犬がいるからな、何か分かったら教えてくれると助かる」


 ボーセリング卿の笑みは変わらない。ここまで余裕があるのは、この親父がこの件についてこちらより優位にいると確信しているからだろう。

 狸親父は澄まして自分の目の前にあるティーカップを優雅に持ち上げると、軽く口をつけてから柔和な笑顔で言ってきた。


「そうなのかね、ならば私から命じて何か怪しい動きがないか調べさせようか」


 相変わらず目が笑っていないのに柔和そうに笑ってみせる親父は、先程まで昏い愉悦が浮かんでいた目を伏せてそう呟いた。


――実際、デルエン領周りを調べる意味はありそうだな。


 あそこには元魔女のお気に入りという、セイネリアに恨みがあって消えてもらいたいと思っている、そこそこ腕のある連中が結構な数いる。首謀者がそこの者でなくても、実際連中の実行役としていたのだから、繋がる人間が他にも複数人いると思っていい筈だった。


「そうだな……だがあんたの手を煩わせるのも悪いからな、何かおかしい事があったらそれを教えてくれればいい」

「そうかね? 困っている時に手を貸してこそ協力者だと思っているよ、私は」

「あぁ、だから本当に困ったら何か頼みにくるかもしれない」


 柔和な笑顔の腹黒親父に、セイネリアも思いきり嘘の笑顔を返してやる。互いに嘘だと分かっている笑顔なら浮かべるのも簡単だ。

 ボーセリング卿は立ち上がると、仮面のように張り付けられた笑顔で最後に言った。


「なら、いつでも連絡してきてくれたまえ」


 相変わらず胸糞の悪くなる親父だと思いながら、セイネリアは了承を返してクソ親父に別れを告げた。


次回はリオの話。

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