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黒の主  作者: 沙々音 凛
第三章:冒険者の章一
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23・帰り路

 当初予定ではザウラ卿の館で一泊する予定だったのだが、ザラッツが辞退した為それはなくなり、結局その日は街の宿に泊まって翌日早朝セイネリア達はグローディ領に向けて出発した。どうやらザラッツは相当にあの馬鹿息子と父親のやりとりが気に障ったらしい。あの後ずっと彼はザウラ卿の前でこそ笑みを取り繕っていたが声の固さと馬鹿息子への冷たい態度は分かり易すぎて、部屋の用意を断った時はセイネリアも『やはりな』と思ったくらいだ。

 セイネリアとしてはあの馬鹿息子がカリンに夜這いを仕掛けるのをどう晒し者にしてやるかと楽しみにしていたところではあるが、茶番なしで帰れるならそれはそれで構わなかった。あの馬鹿息子を使ってザウラ卿に『貸し』を作るにしても、ザラッツがいない時のほうがやりやすいだろうというのもある。


 そういう訳で無事『お使い』の仕事は終わったものの、そこからの帰り路は行きと同じく『無事に』とはいかなかった。いや、そもそも無事に終わらせる気がなかった、という方が正しいのだろうが。

 クバンの街を出るまではいいとしてそこから先、前を行くザラッツの馬が何故か行きと違う道を進んでいるという事にセイネリアは気付いていた。行きはどちらかと言えば回り道で、帰りの方が近道と言えることは言える。だが、もっと他の意図があるだろう事をセイネリアは確信していた。


「カリン、前に出しておいた宿題だが、確かお前が上げた候補にはこの辺りも入っていたな」

「は、はいっ」


 馬上で後ろに声を掛ければ背中越しに女の緊張が分かって、セイネリアは辺りを見渡してにやりと笑う。

 実は出かける事を告げた日、セイネリアはカリンにグローディ領からザウラ領までの地図を渡して『お前が盗賊ならどの辺りで旅人を襲う』か考えておくように言ったのだ。そこで迎えに行った時に彼女が答えた候補の一つがちょうどこの辺りだったのだが。


「いい読みだ。確かにここは可能性が高いな」

「……ありがとうございます」


 ここは丁度領地の境辺りで、ここで何か起こればまずどちらの領主が対処すべきかが問題になる。だからこそ領境周辺に盗賊が出やすいのではあるが、この辺りは街から遠く不便であるから村もなく、やってくるのは冒険者か商人か、もしくは今回のセイネリア達のような偉い人間の伝令役くらいだろう。更に言えば丁度この辺りから道が細くなり、しかも暫く両側には森が続いていた。隠れる場所にも事欠かないここは旅人を襲うにはまさにおあつらえ向きの場所で、むしろ今出る出ないはともかく、この辺りを縄張りにしている盗賊は必ずいるだろうと思われた。

 とはいえ――前を行く全身甲冑プレートアーマーの立派な騎士の姿と、自分の風貌を考えてセイネリアは苦笑する。


「ケチな盗賊だと警戒して出てこないかもしれないか……よしカリン、馬には一人でも乗れるな?」

「はい……乗れます、が」


 唐突だった所為か、カリンの声には不安がある。こちらの体に回されたその手にも心なしか力が入ったあたり、彼女にはこれから出来るだけ場数を踏ませる必要があるなとセイネリアは思う。ただし、能力的には問題はない筈だ。


「なら俺は少し降りて歩く、お前はあの騎士の後ろをこのまま行け。なんなら少し距離を空けてもいい、あとフードは下して顔を出しておけ。それと……いつでも戦える用意をしておくようにな」

「はい、了解しました」


 そこまで言えば彼女もこちらの意図を察したらしく、今度の返事はハッキリと力強かった。


「何もなければ森の出口で待っていろ。何、声を掛けなくても馬を止めればあの騎士様は気づくさ」


 そしてセイネリアが下りれば、きっとそれに気づいて馬の歩みを緩めるだろう。

 カリンに言いながらもセイネリアはそこで馬を降りた。そうしてそのまま馬を行かせると、自分は道を外れて森へと入り、あとは気配を探りながら歩いて進んだ。



ここから盗賊とのお話しになっていきます。

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