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黒の主  作者: 沙々音 凛
第十八章:傭兵団の章二
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4・訓練場1

 翌日から、セイネリアは団の訓練場によく顔を出すようになった。

 勿論、ただぼうっと訓練を眺めるなんてマネはせず、折角外に出ているのだからと自分も暫くぶりにじっくり鍛錬をする事にしたのだが、これは実験でもあった。

 現状、セイネリアは別に鍛錬などしなくても自分の筋力が落ちない事が分かっていた。これについては、怪我や酔いが治るのと同じで筋力の低下という体にとって不都合な事象が起こっても即治っているか、もしくは髪や髭が同じ長さで維持されるしくみと同じかのどちらかだろう。


 だから試してみるのはここから体を鍛えた場合――つまり、体にとっていい方向での変化を起こした場合も『戻る』のか。恐らく今まで分かっている事からすれば戻るのだろうと思うが、どうせ訓練場に顔を出すなら試して現状を確認しておく、その程度のつもりだった。


「うあ、マスター、おはようございますっ」

「お、ぉぉおおおはようございますっ」


 セイネリアが訓練場へ出て行けば、それだけで外にいた団員達が青ざめて背筋を伸ばす。暇があれば鍛錬をするような向上心のある人間は、入った時に一度はセイネリアと剣を合わせた事がある者が多い。だからこそこちらに対する態度は『絶対的に勝てない者』に向けるそれで、単純に言えば絶対服従という状態だ。


「構わず続けてくれていいぞ」


 頭を下げる面々の中を歩いていって、適当に空いた場所にいくと足場を確認して剣を抜く。そうすれば緊張した面持ちの連中が遠目でこそこそと、自分が鍛錬をする気なのかどうかを話していた。気になるなら直接聞いてくればいいのにと思っても、彼等の顔を見ればその理由も分かる。


――こちらに対して従順なのはいいが、怖がって話し掛けられもしないのは問題か。


 だから彼等を無視してまずは軽く剣を振り始めるかと思ったセイネリアだったが、そこで一人、大きな声で発言して来た者がいた。


「あの、マスター。マスターもこれから鍛錬でしょうか?」

「あぁ、そうだが」


 いかにも真面目そうな銀髪の青年には見覚えがある。割合最近入団した騎士の称号持ちの男だ。名は確か、リオ・エスハだったか。


「でしたら俺、傍で見ていても構わないでしょうか?」

「あぁ、別に構わんぞ」

「ありがとうございますっ」


 許可が貰えた途端、リオは嬉しそうにこちらに向かってやってくる。なかなか度胸がある男だ。他の連中はそれをみてそわそわしていたから、そいつらにも言ってやる。


「他にも見たいやつがいるなら見てるくらいは構わんぞ。許可は取らなくていい、見られたくなかったらそもそもここでやらないからな」


 言えばリオに続くようにバラバラと他の連中もセイネリアの近くにやってくる。

 彼等にとっては強い人間の動きを見る事も訓練になるだろう。だから見たい奴には見せてやるつもりだった。さすがに基礎能力が低い者なら、見てるだけより訓練して体を作れというところだが、少なくともここにいる連中は体もそれなりに出来上がって技術も一般的に『いい腕』と言われるくらいはある者達ばかりだ。見て学べるだけの能力くらいはある。


 地面を軽く掘って足の感覚を確認し、セイネリアは剣を構えた。

 この剣は鍛錬用として刃を丸くしているだけではなく、通常腰に差しているものより重くなっていた。ちなみに今の恰好はいつもの黒い甲冑姿だが、腕と足のパーツはケンナにいって作ってもらったこれも鍛錬用として重りを入れてもらったものだった。

 筋力を上げるための鍛錬だから体には大き目の負荷を掛ける。やりすぎて体を壊す可能性がないのだから、普通ならかなり無茶なレベルの重みをつけている。

 試しに剣を構えてみれば、確かに腕や足に負荷を感じた。

 そこから一歩、剣を前に出すと同時に踏み込めば、足が大きく地面に沈み込んで普段よりも剣の重みに腕が持っていかれそうになる。


――これなら少しは楽しめるか。


 重さというのは技術が関係ない分、黒の剣の主になる前と変わらず同じく負荷として感じる事が出来る。だから普段より明らかに動き難く、剣の重さに持っていかれて腕でのコントロールが乱れそうになる感覚を楽しめる。誰かと手合わせをするよりはよっぽど面白味があるくらいだ。


このシーンは次回まで。

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