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黒の主  作者: 沙々音 凛
第十七章:傭兵団の章一
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70・ある可能性1

 黒の剣傭兵団。まだ立ち上げてからそこまで経っていない新参傭兵団である割に、その名は急速に首都では有名になっていた。

 なにせキドラサン領で公に宣伝してもらったのもあって、その後は更に貴族から内密で仕事を受ける事が増えた。それも表向きは傭兵団への依頼として、裏の契約では情報料と情報操作込みという仕事が珍しくない。

 そのせいもあって依頼主とは密談をする事が多くなり、セイネリアはワラントの配下にあった高級酒場をその手の交渉場所として使えるよう手を入れる事にした。元々それなりの身分の人間が女を買う時に待ち合わせる場所として使われていたため基本は個室制で使い勝手がいい。だから外見はほぼ変わらないまま脱出路を追加する等、外敵から客を守りやすい構造に作り替え、他にもいろいろと客の秘密を守れるような対策を施した。

 そうして秘密厳守、客の安全保障をうたい文句にしてやれば、秘密裡に取引や交渉をしたい連中からは重宝され、そこから更にその手の連中とのつながりが出来た。


「で、これがその交渉用の酒場か。……随分と御大層なのを作ったもんだな」


 折角そういう場所を作ったのだから、という事で今回セイネリアは魔法使いケサランをその酒場に呼び出して話をすることにした。


「魔法使いには分かるだろうな」

「あぁそりゃな。個室一つ一つを断魔石で守ってるなんてどんだけ金掛けたんだ」

「秘密を守るとうたってるんだ、のぞき見が出来たらマズイだろ」

「そらそーだが……重要施設以外でここまでの魔法対策なんてありえんだろ」

「仕方ない、俺の場合は魔法使い相手も多いからな」


 それにはケサランは明らかに顔を顰めた。

 セイネリアは気にせず酒を飲むと、わざと軽口で彼に言う。


「他の魔法使いの目を気にせず話す事が出来ると、そっちのギルド連中にも教えてくれても構わんぞ。魔法使いは気に入らないが客としてなら歓迎してやる」


 ケサランはほっとしたように表情を崩し、彼もまた出された酒を飲んだ。


「なんだ宣伝か、ま、確かに使えるかもな」


 ただ彼も軽口で返してきている割に表情は固い。というか、セイネリアが黒の剣の影響を受けているのが分かってからは、前のように気楽に彼とのこの手の言い合いをする事はほぼなくなっていた。

 暫くは出された酒や食いものを楽しむ素振りを見せていた彼だが、こちらが黙って酒だけを飲んでいればその内彼の手が止まる。


「……で、今日は何の話だ?」


 表情だけではなく、その声も固い。セイネリアはグラスに残る酒を飲み干してから口を拭った。


「魔法ギルドはヤバイ事を知られた人間の記憶を消すだろ、それについてどこまで話せる?」


 ケサランは顔を顰めて考える。それから頭をぐしゃっと掻いて、ため息交じりに答えた。


「一応お前には……秘密を隠す必要はない事にはなってるんだが、これは、そう、だなぁ、どこまで話せるかは難しいところではある」


 魔法ギルドはセイネリアに恩を売って、向う側の人間にさせようともくろんでいる。だから基本、魔法使いの秘密に関しては話していい事にはなっている筈だった。だが今回は魔法使いの秘密というよりは、魔法ギルドという組織がやってる証拠隠滅手段であるから話が違う、というのは分かる。それでも今回はまだある程度は話せるだろうという予想もあった。


「主に知りたいのは記憶消去の仕組みだ。といっても別に記憶の戻し方を知りたい訳じゃないし、誰かの記憶を消したい訳でもない」


 それを聞けばケサランの顔が幾分か緩む。だが次の言葉を聞けば彼の表情はまた強張っていく。


「……あの、黒の剣を手に入れた時の仕事で一人、記憶消去を受けた奴がいた。そいつに偶然会ってな、確かにあの時の事を本人は覚えていなかった、だが多少覚えがあるらしくて本人が疑ってた」


 彼の顔色が変わるのも当然だろう、魔法ギルドとしてはそれが本当なら放っておいていい話ではない。


「ただし言っておくと、元々自ら望んで記憶消去を受けただけあって本人は思い出したいとは思っていない。覚えていないのに何か感覚的に既視感のようなものがあるらしくて、俺に向かって会った事があるかを聞いてきた」


 魔法使いは真剣な顔をして考え込む。彼も彼でどこまで話すべきか悩んでいるんだろう。


「……記憶というのは繋がってる、というのは分かるか?」


 やがてぽつりとそう呟くように言ってから、彼はこちらの顔を見て来た。


「それは時系列的な意味でか? それとも、ある話に出て来た共通のものから、まったく別の話を思い出すような関連付け的な意味でか?」

「今回の場合は後者だな、記憶の中にある言葉やモノ、シチュエーション、感覚等、とにかく記憶の中に出てくるありとあらゆるモノは、他の記憶の中にある同じそれらと繋がってる。例えば、怖かった話、と言われたら怖かったという感覚から記憶を検索できるだろ?」


 その話だけでもセイネリアにはなんとなく、記憶消去というのはその繋がりを操作しているのだろうというくらいは予想出来た。


次回はこの続き。この章はあと2話で終わる予定です。

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