表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒の主  作者: 沙々音 凛
第十七章:傭兵団の章一
884/1189

66・疑問と確認3

 シェナン村にいた兵士達の殆どは村を出たらしく、夜になっても村からの明かりは1、2か所かろうじて見つけられる程度でほぼ真暗だった。こちらの焚火の位置は向うからすると間に丘を挟んだ森の中だからまず見えないとは思うが、肉を焼く匂いなどが届かないとは限らない。一応現在の風の方向なら大丈夫とはいえ、風というのはいつまでも同じ方向でいてくれないものではある。マクデータ神官でもいれば話は違うが……と言っても、誰か来たら来たで別に構わないといえば構わないが。


「皆もう領主になるのはゼーリエン様だと決めて話してましたからね、サウディン様の話は殆ど出ませんでしたよ。ゼーリエン様の事とかメイゼリン様ならこうするだろうとか……主に彼等の希望的な話でしたけど、悪く言っている人はいませんでしたね」


 火を囲んで食事を取れば、やはり樹海の時のようにラスハルカ一人でしゃべっているような状況になる。もっとも今回は最初から彼に、村での西軍兵の連中がどう過ごしていたかを教えてもらいたいといっていたからこちらが聞き役になのは自然な流れだ。とはいえ、聞いたのが自分であるからセイネリアも黙って聞き役しかしていない訳でもなかった。


「東軍に負けて悔しがってる奴はいなかったのか?」

「そうですね、まったくいない訳ではなかったですが……そもそもどうして東軍と自分達は仲が悪いんだ、とか言い出した人がいて皆で悩んでました」

「……そして考えてみれば実はそこまでいがみ合う理由がなかった、だろ?」

「その通りです。東部軍と争っても実はいい事がないんじゃないかと言い出したりしていましたね」


 なら、今回の事が切っ掛けで、西軍と東軍の仲も改善するかもしれない。それがいい事か悪い事かはまだ分からないが、どうやらゼーリエンは母方の血が強いのか体は丈夫なようだし、少なくとも彼が領主の間は軍をわざと軍を対立させる必要もないだろう。


「隠れてひっそり暮らしていた割りに、皆さん意外と楽観的で少なくとも辛そうじゃなかったですよ。だからこそ悪さをする事がなかったのだと思います」

「領主争いの決着がつけば無事家に戻れる、そしてそれはもうすぐだと思ってたからだな」


 戦いには負けたものの生き残った上、勝ったゼーリエン側は敵対した兵に罰を与える気はないと皆分かっている。それなら全部終わりさえすれば元の生活に戻れると前向きになれたのだろう。


「そうですね、だからよくいる逃亡兵のような絶望感はなかったです。叱られた子供が家出して隠れてるくらいのノリ、とでもいいますか……」


 それにはエデンスが声を上げて笑う。


「確かにそれなら大人しくしてたのも納得だ。そもそもそういって前向きに盛り上がってる奴らがいれば、例え中に悪い事考える奴がいても皆全力で止めるだろうしな」


 エデンスはアルワナ神官であるラスハルカに警戒しているところがあったが、もとから人付き合いは上手い方だから途中から話に入るようなっていた。クリムゾンはこの手の話に入ってくる事はあり得ないため、最初から会話の人数には入れていない。


「……あとは……そうでうすね、負けたのにあまり負けた気がしない、とも言ってもいました。なにしろここにいた彼等は割合後方の配置についていて、実際に戦う前に『負けたから投降しろ』と言われたという人達ばかりだったので」

「そうか。それなら、そうだろうな」


――あの死体の雨を見ていた連中なら、ここに残るなんてあり得ないだろう。


 相槌程度にそう返しておけば、エデンスが苦い顔をして溜息と共に呟いた。


「……まったくな、門付近にいた連中だったらここに残りたいとはこれっぽちも思わなかっただろうよ」


 実際その光景を誰よりよく見えていただろう男は、言い切った後にまた重い息を吐くとそのまま地面に寝転がった。


「そうですね。隠れるにしてもここからは離れたいでしょうね」


 どうやらラスハルカも配置は後方だったのか直接その光景を見てはいないようだが、悲惨な肉塊となった連中から何があったかは聞いているのだろう。

 ふと見れば、寝転がったエデンスが軽い寝息を立てている。彼には明日も無茶を頼むから早く寝て貰う事自体は問題ない、だが。


「クリムゾン、お前も寝てていいぞ」

「貴方が起きているのに寝る訳にはいきません」

「気にするな、俺は別に寝なくてもいいんだ」


 とは言っても、事情を知らないこの男がそれで納得する訳もない。


「あとでこっちが仮眠を取る時に起こす。だから先に寝ておけ」

「……分かりました」


 それでクリムゾンも横になる。ほどなくして、彼もまた寝たらしいことが分かるが、彼ならそれでも完全に寝ている筈はない。……本来なら。あの樹海の時も他はともかくクリムゾンだけはいくら寝ていていいと言われても完全に眠りこける筈などなかった。だからこそ、この男がアルワナ神官であることを確信出来たのもある。


ラスハルカとの会話シーンは次回まで。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ