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黒の主  作者: 沙々音 凛
第十七章:傭兵団の章一
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52・領都の中1

 ゼーリエン軍から離れたセイネリア達の旅路は順調で、拍子抜けするほどすんなりキドラサン領の領都までやってくる事が出来た。本来なら西部軍が道中の要所に検問所を設けている筈なのだが、それさえないという事は本気で彼等はサウディン派とは手を切る事にしたのだろう。


 キドラサン領は東方面にさほど高い訳ではないが山が連なる地区があり、そこは隣領にまたがっていてその先には国境もある。なのでその地区には昔から山賊や、国境での争いから蛮族が逃げこむ事が多かったらしく、東部軍はその手の連中とそれなりの頻度で戦っていた。

 勿論西部軍は西部軍で首都方面の街道からやってくる盗賊や、比較的東側よりも栄えた街が多いのもあって街間の警備で働いていたが、ある程度の規模以上の戦闘に関する実践経験でいえば東軍の方が多くなるのは仕方がない。ただ西軍は首都に近いだけあって賓客の警備等をする機会が多く、そのせいでプライドが高く東軍を下に見る事が多かったという。

 だからこその仲の悪さだ。

 とはいえ、会えば喧嘩が起こるとか、死傷者が出るような騒ぎになった事はなく、互いに相手を見下して関わらないようにしているような関係だった。実際、互いの担当地区が違っているせいで仕事でかち合う事もないからお互いに対立意識を持っている程度の話だ。


 そして、その程度の仲の悪さなら共通の敵相手には手を取り合える、むしろ仲が悪い事で互いに切磋琢磨して高めていける――という方針のもと、領主も対立をさせたままでいたらしい。

 ただしそれをセイネリアに教えてくれたメイゼリンは、もう一つの理由の方も教えてくれた。


『もし軍部が領主に反旗を翻しても、軍内で対立していれば一丸となって領主を討とうとする可能性は低い。片方の軍が謀反を起こそうとしてもそれに対抗してまずもう片方が領主側につく。……まぁキドラサン家はもとから体の弱い者が多かったらしくてな、領主は軍事面に弱いという事でこういう体勢にしているのもあるらしい』


――成程、それはなかなか頭がいい。


 ただこうして領主争いが起これば、軍部が両方について領地が二分される可能性は考えられた筈だった。今回は本当に想定外の事態だったのだろう。一応本来ならもっと早めに次期領主の指名はしておくらしく、前領主が決めかねて迷ってる間に死んでしまった、というのが真相らしい。


 そういう訳で西軍と東軍の対立はもう伝統のようになっているが、何か恨みがあるとかそういう根深い理由はない。だからこそ今回、メイゼリンが西軍の兵士にも寛大さを見せた事で向うの対立ムードはかなり下火になったようだ。なにせ敵対する事にデメリットしかなくて自分の命が掛かるなら、ただの対抗意識でついただけの陣営など捨ててしまったほうがいいと、余程の馬鹿か頑固者でない限りは分かる。


 だからこそ西軍は、この間の敗北を理由にして軍の再編成が出来ていない――実際はやろうとしていない――のだろう。

 そういう訳で現在、サウディン側の人間を守っているのは領主の護衛兵と領都の守備兵くらいで、あとは西軍が出している領主の館の守備兵と、未だサウディン側についている有力者達の私兵がいいところだ。


――だがそいつらも、自分の意思でサウディンを守っている訳ではないからな。


 領都フミラパダンの街を眺めて、セイネリアはそう思う。

 元からそこまで領都らしく活気がある街ではないと聞いていたが、とにかく街中には人が少なすぎた。建物は割合立派なものが多いのだが人がいない。店らしき物は閉じているし、露店なども見当たらない。馬車が走っていると思えば、それらは大抵街の外へと向かっていてここから逃げる者のものだと分かる。

 一応冒険者らしい人間も見る事は見るが、彼等も街の閑散とした様子には戸惑っているようで、聞こえた話声からすればどうやらこちらの情勢を知らずに来てしまった者達らしい。


「これは……まさに沈没間際の船、だな」


 後ろにいたエデンスがそう呟いた。まったくだ、と口にを出さずそう思ってセイネリアは歩いていく。

 街の中に人が少ないのは外から『見た』時点で分かっていたから、街中を見て回るのはセイネリアとエデンスの2人だけにしていた。カリンとセウルズは丁度よくあった、領主の館に割合近い空き家の中で転送でやってきたまま待っている。

 一応街中なら基本的にどこでもエデンスが見れるから、わざわざ危険を承知で外を見て回る必要はないといえばない。だがセイネリアとしてはやはり実際に見て確認したかった。なにせ空気感というか、住人や警備兵達の雰囲気など、人づてに聞くのではなく実際に見て感じないと分からないものも多いからだ。


次回はこのシーンの続きのまま、街中偵察中の2人。

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