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黒の主  作者: 沙々音 凛
第十七章:傭兵団の章一
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50・領都行き

 そこから9日掛けて、ゼーリエン軍はセリカ・デイ村より手前にあるコトロドの村にまでやってきていた。勿論途中の村に寄りながらだが、アイネイク村を出て以後は一つの村に長居する事はなかったから、急いでいるという程ではないが進軍速度は明らかに上がっていた。

 その間にメイゼリンはボクルと連絡をとり、ゼーリエンが領主として領都に入るための段取りを決めていた。


 そうしてセイネリアは、ゼーリエン軍がセリカ・デイ村につくと同時に、メイゼリンに言った通り先に領主の館に向かう――そのつもりだった。

 だがメイゼリン達から資料としてもらった、街や領主の館内の図ついてセウルズにも確認していたところで、彼はセイネリアに言ってきたのだ。


「俺も、連れていってくれないだろうか」


 あれから神官達が根気強く術を掛けたことでセウルズの体は大分良くなっていた。完治は無理だが日常生活は殆ど不自由なく送れる程度にはなっていて、当然歩くくらいは問題ない。


「お前は俺に言っただろ、大人しく降伏しない者を説得する役をやれと。ならその為に今回は俺を連れていくべきだ。少なくともサウディン様やエーシラ様の説得は、俺がやったほうがいいと思わないか?」


 セウルズの存在はセイネリアとしては保険のようなものだった。起こりえる問題を対処するために準備しておいた手札の一枚であって、使わなくて済むならそれでいい。

 ただ彼を連れていくメリットは確かにある。


「もし足手まといになったら見捨ててくれて構わない。捕まったところでまた向うに付く事はないと誓う。……そもそも俺はもうまともに戦う事は出来ないしな、向うから見ても役立たずだろうが」


 当初予定ではセイネリアとカリン、エデンスの3人で転送を使って行くつもりであったが、ここでセウルズが増えると転送だけで行くのは難しくなる。とはいえその分を考えても彼の存在にメリットはある。


「分かった。ただまだ確定とはしない。メイゼリンに言って馬を借りれるか確認してからだ」

「分かった」


 カリンを連れて行かないという選択肢もあったが、領主の館への潜入は彼女がいた方がいろいろ便利だ。それに動きに不自由が残るセウルズを連れていくなら、フォロー役としてもいたほうがいい。

 だから馬で街の近くまで行って、見張りを躱す必要があるところだけ転送を使うようにする。ピンポイントでの転送なら2回に分けて飛ばしても問題はないだろう。


 セイネリアがそこからすぐメイゼリンに相談すれば馬を借りる事については問題なく、ついでに向うに潜伏させている者達にも連絡を取って、馬を隠す手筈も整えて貰える事になった。

 そうして実際、セリカ・デイ村について直後、セイネリア達はひそかにゼーリエン軍から離れて領都へと出発した。





 キドラサン領の領都――一応名はフミラパダンというのだが、実は都と言える程栄えた街とは言えなかった。キドラサン領内でも、もっと首都に近い領境近くの街の方が商人が多く行き交い栄えている。ただ有力者達の別宅や高級品を扱う商人等が集まっているため、都というより金持ち用の別荘地のようなおもむきがあった。

 だからこそ街を封鎖して住人を人質に取れば効果は高い。有力者達の身内となれば一般民の数十人分の効果がある。セウルズが負けた段階で、比較的若手の過激派よりの連中からその意見は何度も出ていたし、サウディン陣営の実質のトップであるサービズも実行した場合の効果等を側近連中と話し合っていた。

 それに古くからの官僚たちは強固に反対した。

 だが最終的に実行に移されなかった一番の原因は、それで揉めた会議中、お飾りとしていつもならただ見ているだけのサウディンが発した一言だった。


「民を人質に取れば、私は一生卑怯者の恥知らずと呼ばれる事になるな」


 さすがに子供とはいえ、自分達が主と担ぎ上げた人間本人のその言葉には過激派の連中も口を閉ざした。

 ただそれ以後、サウディンの傍からは人がどんどん減って行った。

 館にやってくる人間の数も減ったし、警備兵や使用人さえ減って行った。もっとも顕著なのは会議の席で、開くたびに参加者が減って空席ばかりになった。

 体感で人がいなくなるのが分かるようになると減る速度は更に増えていったが、どうにか貴族らしい生活が出来る程度の人間が残っていたのは古参官僚たちが残っているおかげだとサウディンには分かっていた。


 そしてその古参官僚達が、実はサウディンを捨ててゼーリエンを領主としてこの館に迎えるよう動いているというのも知っていた。


次回はサウディンの話の続き。

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