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黒の主  作者: 沙々音 凛
第十七章:傭兵団の章一
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36・戦闘終了のあと1

 その後の後処理は拍子抜けするほどスムーズに進んだ。

 まずは村中に呼びかけて、セイネリアとセウルズの戦いを見ていなかった者達も投降させたのだが、それは思った程には手間取らなかった。呼びかける役をサウディン派の者にさせたのもあるが、その前に約束通り、サウディン派の兵士達を集めて治療したせいもあるだろう。あとは戦闘が終わったのが午後だったというのもあって、そこで食事の準備を始め、投降した兵達にも与える事にしていたからかもしれない。


 また少なくとも東軍の兵は今回の戦いで敵を殺した者がいないというのもあって、下っ端兵同士でのわだかまりが残りにくかったというのもある。今回は勝った後の事も考えて本隊であるキドラサン領所属の東軍兵にはメイゼリンからの言葉として出来るだけ敵を殺したくない旨が伝えてあった。だからこそ手加減するような余裕がない先行部隊を傭兵達にしたというのがある。早い話ヘイトはよそ者にあつめて、終わった後に西軍と東軍が和解しやすいようにした訳だが、それでも死者を減らすためにクリムゾンやカリン等の能力的に余裕がありそうな者には出来る範囲で殺さず戦闘不能で留めるよう言ってあった。

 ただ目立った分だけ、自分と自分の部下達が一番の憎まれ役になったのは確実である。それはセイネリアとしては思惑通りなためまったく問題はなかった。


 そうして勝ったゼーリエン軍だが、シェナン村が丁度よく要塞化されていたのもあってそのまま暫くは村を拠点とする事にした。ただし、村の門周辺は流石に掃除はしたが死体の飛び散ったあとが残っていたり何より臭いがなかなか抜けなかったため、兵士達の滞在用の天幕は門から離れたところに設置した。

 ただ流石にある程度片づけてしまえば、その時現場にいたサウディン派の連中はともかくゼーリエン側の兵にとっては別に気にするものではない。実際状況としては他の戦場となんら変わる事はないので、主に門周辺は訓練や全体を集める場所、そして物資置き場として使う事になった。


 一通りの事後処理が終わり、武器を置いてひとまとめにされた敵兵達が逆らう様子もない事を確認してから、セイネリアは村長の家に一時的に集まっているこちらの軍の上の連中の元へと向かった。勿論勝手に行った訳ではなくメイゼリンに呼ばれていたからだが、てっきり会議中だろうと思って入った部屋には彼女とその侍女しかいなかった。


「まずは、ご苦労だった、とお前の働きをねぎらおう」


 相手の意図が分かって多少うんざりしたが、それでもメイゼリンが戦場のままの恰好だったのもあってセイネリアは促された椅子に座った。


「これで契約の9割分の仕事は終わったと思うが」

「そうだな、ほぼ決着はついたと思っていいだろうな」

「なんなら俺がもう帰っても、後はあんた達だけでどうにでもなるだろうよ」


 それにはメイゼリンが不機嫌そうに顔をしかめて身を乗り出す。


「いや、最後まで責任持ってつきあってはもらうぞ。お前が良ければ、その後もな」


 ただし最後の一言だけはにこりと笑って。

 セイネリアはそれに軽く眉をよせて一度メイゼリンの顔を見る。黙っていれば彼女の笑みは苦笑となって、それから武人一家育ちらしく豪快に笑った。


「やはりだめか」


 そうしてまた、豪快に音を立てて椅子に深く座り込む。まぁ少なくとも貴族女らしくはない。


「何度も断ったぞ」

「ふむ。今程もう少し色仕掛けの訓練をしておけば良かったと思った事はないな」


 やはりな、という思いと共に、セイネリアは目の前に置かれた飲み物に手を伸ばす。勿論酒ではなく、甘くしたハーブ茶のようなものだ。

 実を言えば、会った当初からセイネリアはメイゼリンにそういう意味で誘われていた。そもそもセイネリアについて調べているなら女関連の噂も当然知っている筈で、だからそういう手を使われる事も想定内ではあった。

 ただ勿論、彼女がこちらを誘っている理由が分かっていたからセイネリアはそれを全て断っていた。


「言ったろ、あんたの色気や魅力の問題じゃないと。俺が断ったのは、あくまであんたの立場と思惑のせいだ」


 実際メイゼリンはその言動通りの男のような女という外見でもない。誰が見ても美人という程ではないが別に見目は悪くはない。少なくともきちんとした格好をすれば、領主夫人として人前に出ても恥ずかしいところはまったくないだろう。


「こちらが出来る限り、お前の望みを叶えてやると言ってもか?」

「生憎、望みを他人に頼る気はない」

「いい答えだ。本当に、お前なら私の夫にしてやってもいいのに」


 だから断ってるのだ、というのを分かっていてこの女は言ってくる。


「あんたみたいな女は、自分の思い通りになる男を選んだ方がいいぞ」


 それにメイゼリンはまた豪快に笑った。本当に女というよりはいかにも騎士で、セイネリアとしてもこういう人物は嫌いではなかった。だからこそ余計に寝る気もなかった。


「まったく、誘ったら断らない男だと聞いていたんだがな」


 それについては自分の噂からすればそう思われて当然だろうとは我ながら思うが。


次回もこのメイゼリンとのやりとりの続き+捕虜となったセウルズとの話。

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